第6話 夢醒

 地上に上がる道中、彼女は興味深い話を口にした。無論、慣れない暗闇で途端に不可思議な現象――僕が言えた事じゃないが――それに出逢い。到底理解出来ない程の世界について説かれたのだ。まだ夢心地だった。


然し、彼女はそれでも語るのだ。


――『全ては……』


一体何を言いかけたのだろうか? あの時の彼女の言い草は呪禁じゅごんにも、賛歌にも聞こえたが――僕はその内面に何らかの影を感じたんだ。


 彼女が道中語った事は、やはり人間についてだった。


「人は怨み、呪う。するとあの本質が世界に執着し、遺る――けれど例外があるんだよ。意図的にも可能ではある――それをしないだけ。だけど、それはほぼ不可能。理由は明白、それが本質だから――それが、『あなた』かは授かった人間の本質ザンシだから。」


つまり、この世界の人は怨み、呪う為に生まれた。だが、人間の形を保つにはそれは許されない。それは“僕達“も同じだった。だから『ぼく』は、それらを僕達から切り離し、器を設けた。


――それが、人間だった。


 外の光が漸く見えた時。僕は気が緩み、綻び。遂に彼女に問い掛けた。


「君は、僕達を怨まないのか?」


彼女は変わらない態度で言った。


「だって私は貴方達の妹なのよ?」


その言葉には妙な引っ掛かりが在り、外に出るまで、僕はそれに気を取られていた。


外――光は依然。紅い球体も白い大地も変わらない。違うのは、『僕達』が居た事だ。


「おォ、漸く出てきたか。」


半骨化している僕が身体を傾けながら、此方へ振り返る。それに連れて、他の二人も身構えてきた。


僕は血肉と強い魂を求める――つまり狙いは僕だ。


「待ち伏せか……でも、何故この位置が?」


「私よ。」


「えっ?」


「私か人間を“中和“すると強いエネルギー、つまりかつての貴方の力が解放されるの。それを抑えるのには、新たな器が必要。それが“おにいちゃん“。でも、少し漏れたみたい。」


つまり、その“人間ボク“の本質ノロイを手にした僕が相手取るしかないのか……


「ホラ、構えろよ。さっさと始めよゥぜ。早く力をトらないと、狂っちマウよ。」


骨の先端が暗く結晶化し、鱗の様になっている。彼は骨化した半身、その腕から白く細い柱を生み出し、握った。


「? ナにしてンだ? 早クだせヨ。」


まさか……力を? 僕はそんなの覚えちゃいない。彼女がそれを察した様に、僕の耳に囁く。


「大丈夫。」


その言葉と同時に、彼女の掌が僕の胸に当たり――暗い結晶が爆発的に広がる――呑まれる!


「ナっ……何ヲ?!」


「信じて。」


『カン』音が鳴り、視界が黒い。外からは何か音がする――水滴が落ちる音だ。醒める音だ。

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【休載中】 破滅者の残滓 空御津 邃 @Kougousei3591

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