線香花火の消えた夏

春風月葉

線香花火の消えた夏

 夏とは儚いものだと思う。

 パチパチと光る線香花火を左手に、私は右手の携帯電話のカメラでその様子を撮った。

 カシャ、携帯電話の場面の中に線香花火の最も美しかった時間が閉じ込められる。

 携帯の画面を確認している間に、スッと線香花火の光は地面に消えてしまった。

 真っ暗だ。

 ミンミンと蝉達の騒がしい合唱が聞こえる。

 この歌も夏が終われば消えてしまう。

 手元にある光を失った花火と同じだ。

 夏の暑さが終われば、それらは燃えかすになってしまうのだろう。

 そう思うと滴る汗の一滴さえも夏の一欠片のように感じてしまう。

 ピロン、先程撮った線香花火の写真を削除した。

 もう、あの瞬間の記憶は思い出せない。

 漠然と赤い光が弾けて綺麗だったことは思い出せるが、手に持った燃えかすからはその時の様子を思い出せない。

 ポチャン、底に水の入ったバケツに燃えかすを放り込む。

 煙たさの消えた澄んだ夜空には夏の大三角が飾られている。

 今年の夏も、もう終わろうとしていた。

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線香花火の消えた夏 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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