第三話 「過去」
俺は唖然としていた。今まで他人事に感じていた事件が、他人事ではなくなってきたからだ。
リターンキーを押す手の震えが止まらない。
もうビールもつまみも、口にする気になれなかった。
しかし俺は見なかったことにしようとした。もしかしたら、たまたま名前がにていただけかも知れない。たまたま境遇が似ていて、たまたま見たことがあると感じただけかも知れない。
俺は自分自身に繰り返しそう言い聞かせていた。
俺は気持ちが落ち着いたところでPCをシャットダウンしようとした。そのときだった。
PCの突然の通知音に、一瞬呼吸が止まるほど驚いた。
知らない誰かから、俺のアカウントにダイレクトメールが送られてきたのだ。
メールの差出人を見た途端、俺は得体の知れない恐怖と共に、今までに感じたことのない緊張感を感じていた。
メールの差出人は「cr-aw」だった
こんなことがあるはずがない。なんの関係もないであろう「cr-aw」本人から、俺にわざわざメールを送ってくるはずがない。
俺は必死に誰かのいたずらだと言い聞かせていた。
しかしメールの内容はいたずらなんかじゃなかった。
正真正銘「cr-aw」本人から送られてきたものだった。
「やぁ、草苅 雄二君。君も僕のことを調べているのかい?人気者は辛いねWWW」
俺は突然のことに、どうすればいいかわからなかった。
それに俺がさっきまで見ていたサイトも言い当てられている。
いや、只適当に言っているだけかも知れない。
とにかくなにか返信して相手の動きを見るべきだ。
震える手を押さえつつ、俺はキーボードを操作する。
「あなたは本物のcr-awなんですか?もしいたずらなら今すぐやめてください。」
「僕は本物のcr-awだよ?やっぱり信じられないよね。それはそうだ。君はこの事件には関係のない人間のはずだったもんね。それじゃあ今から証明してみるよ。君が今何をしているのか。」
言っていることがさっぱりわからなかった。
しばらくすると彼からまたメールが送られてきた。
「君は今家に一人でいる。缶を片手に持っていて、服装はまだスーツのままだ。缶の柄からしてビールかな?僕もそのビール好きなんだ。君と僕とは気が合うかもね。」
俺は急いで窓の外を確認した。だが辺りは暗く、人影なんてどこにも見当たらなかった。
PCからまた通知音がなる。
「外から君を見ている訳じゃないよWWW君のPCに内蔵カメラがついているだろ?『ダーク』を使って君のPCのカメラを操作しただけだよ。ほら、これがさっきの君の顔だよ。結構いい顔をしているんだね。どちらかというとイケメンってやつかな?WWW」
そのメッセージと共にPCの内蔵カメラで撮影された、俺の顔写真が送られてきた。
彼からのメールはまだ続く。
「君には逃げ場なんてない。君はこの事件に関わるべき人間なんだ。」
そんなこと言われても、俺には心当たりなんてなかった。
早いとこ彼から離れないと。
僕はPCをシャットダウンした。
しかし今度は鞄の中に入れっぱなしだったスマートフォンから、通知音が聞こえてきた。
やはり「cr-aw」からのダイレクトメールだった。
「さっき言っただろ?君に逃げ場なんて無いって。それ以上僕を避けるなら君の過去を暴露しちゃうよ?」
『逃げ場なんて無い』
彼の言っていることは本当らしい。
俺には何も選択肢は残されていないらしい。
スマートフォンから、彼へメールを送る。
「あなたの目的はなんですか?僕はあなたとは関係のない人間のはずだし、あなたの起こしている事件とは無関係のはずです。これ以上こんなメールを送ってくるなら警察を呼びますよ?」
『警察』という言葉をちらつかせればきっと引いてくれるはず。そう思った俺がバカだったのかもしれない。
「僕は別に構わないよ。12年前のことが浮き彫りになっても構わないなら。」
「12年前?なんのことですか?いい加減なことを言わないでください。」
「とぼけても無駄だよ。12年前の4/8の夜のことをきみは覚えていないと言うのかい?」
「なぜお前がそれを知っている。お前は何者だ。今すぐ教えろ。」
「おお!いい顔になったじゃん!とってもいい顔だよ。12年前のあの日と何も変わってない気がするよ。
今は何者かは教えられないな。まぁ、大体想像はついているかも知れないけどね。僕の目的は12年前に関わった物達を永遠に苦しめて、一生をめちゃくちゃにする事。僕がされたみたいにね。君はそれを只見ていればいい。あの日何もできなかった僕のように。
それじゃあまた明日。草苅 雄二くん。
君のすべてが闇に染まるまで、僕は諦めないぞ。」
闇に染まれ 胡麻味噌豆乳ラーメンカルビを添えて @reidokarasu
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