第3話 オセロを挟めば雨が降る

俺は朝早くに目覚めてしまった。時計を見ると長針が5の数字を示している。ふかふかなベットだったからか、とてもよく眠ることができた。気持ちいい朝は久し振りだ。刑務所より遥かにいい。


それにしても早く起きすぎた。俺はポッドに水を入れてお湯を沸かし、コーヒーでも淹れることにする。その間に今日やりたい事を考えよう。


まずはバレないように整形をして、偽りの身分証とかも作った方がいいな。計画も錬る為に調査もしたいし……。


俺は今日やりたいことが多く、今日やる事を決めるために「一日の計画」なる物を立てる事にした。俺は淹れたばかりのコーヒーを片手にパソコンを開き、今やりたい事などをカタカタと文字に起こして打っていった。昨日のうちに設定を終わらしておいたのが功を奏し、朝から設定の変更にイライラせずに済んだ。


そういえば会社から色々貰ったな、パソコン以外にもあった筈だ。届いた段ボール箱の中からは盗聴器、格安スマホ、拳銃!? 見れば見る程いかにもヤバイものがゴロゴロと入っていた。開いた口が塞がらないとはこの事か……。


格安スマホも闇商売のやつっぽいし、拳銃だってアウトだ。俺が昔やっていた犯罪とは比べもんにならない程狂気染みている。


「これから犯罪を犯すというのに弱気だな」なんて呟きながら、一旦これは見なかった事にして、部屋のクローゼットの中にしまった。今の俺はこのアイテムで犯罪を犯すという事よりも、所持しているのがバレたくないという気持ちが強かった。


とりあえず今日は殺人の準備だ。やると決まったら早速やろう。闇の商売だが、この会社が贔屓してる整形外科があるらしい。バックに会社が付いてると楽だと実感出来た。整形出来れば外を自由に歩ける。


黒のメガネをかけ、会社から支給された車に乗る。もちろん監視カメラには映らないように移動したし、朝早いから宿泊人もいない。

危険からは出来るだけ遠ざかったつもりだ。

しかし、これから犯罪を犯すという事が俺の背中に重くのしかかった。


俺がいく整形外科まではここから1時間かかる。車のエンジンをかけ、出発する。ホテルから出たあとは一気に都会の景色になった。


見えては消え、見えては消えを繰り返す家や店は俺の目に留まる事なく、気づかれぬまま儚く通り過ぎていくだけだった。そして、俺には黒田に迫る危険を暗示しているように感じた。


実際、家をまじまじと見ていた訳でもないのにそう感じるという事は、これから殺人をするという事に関して自分の意識が足りないのか……それとも俺の良心が抵抗しているのか、ただ、それはわかる事ではないことだけは知っていた。


やはり車の中と言うのは色々考えられる時間の一つとして、とても有意義な時間だ。整形外科の所までの道のりは余り遠くにあると感じもしなかった。


道の角の方に車を停め、狭い錆びれた入り口は魔界にでもワープするかのような暗いオーラを放っていた。コツコツと鳴る足音を無意識のうちに消していた。


だが、案外中は綺麗だった。色こそ暗いものの、椅子や電気など、しっかりと手入れしているようだ。


すると突然、後ろから肩を叩かれた。


「いらっしゃい」そう言って電気をつけ、薄暗い部屋が明るくなった。部屋も思ったより広く、普通に生活する分には広すぎるぐらいだった。肩を叩かれた時は流石にビビったが、今顔を見るといかにも医者って感じのおじいちゃんで、この店自体案外普通なのではと疑ってしまいそうだ。


「じゃあ早速始めるかい?」医者はそう言ってにぃと笑った。既に椅子には色んな器具が用意されていた。


「なあに、ここに来るのは犯罪者って決まってる。そろそろ来ると思ってたよ、ホリデーの新人さん」手に持ったハサミが電気に反射してキラリと光る。変な口調ではあるが、ハサミを持って瞬間の目つきは本物だと確信させる物だった。


ゆっくりと椅子に座り、内から湧き上がる恐怖を感じながら手術を開始した。

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