第3話 クソジュースの恨みは怖い
翌日、ランサはぼんやりとテレビで垂れ流してあったローカルニュースに目を向けていた。
『連続車上荒らしグループ逮捕』
その大規模な窃盗グループの逮捕は、さすがにローカルニュースの中でも大きな扱いで、見慣れた景色がテレビの画面に映されている。
「ねえ、もしかしてこれ、あのゲロマズジュース売り切れの結果ってわけ?」
同じニュースをスマートフォンで確認していたユリナがランサにそう話しかける。
ネットのニュースはより詳細な情報が出ており、犯行が行われることに目をつけた警察が、夜間パトロールで犯行現場を見つけてそのまま逮捕に至ったのだという。
そしてその犯行現場こそが、まさに昨日、探偵と少女が歩いていたあの住宅街だったのだ。
「まあ、そうなりますね。食べ物を粗末にする輩どもにはいい天罰ですよ。まったく、おかげでノヴァクラウンは補充されるまでしばらくおあずけじゃないですか」
恨めしそうに机に置きっぱなしになっていたそのジュースの空き缶を振りながら、ランサは大きくため息を漏らす。
「あなたはあなたで完全にあの自動販売機を私物化してるじゃない……。そんなにあのゲロマズジュースが飲みたいなら市役所の近くの酒屋にでも買いに行きなさいよ。それより、いったいどうやってこの車上荒らしグループを見つけたのよ。どうせあなたがなにか仕組んで原田さんを通して警察に連絡したんでしょう?」
「それについてはシンプルな話で、あの置いてあった空き缶がメッセージだったんですよ。あそこの住宅街で見つかった缶は他の家のものもすべて駐車スペースの脇に置いてあって、玄関などにはありませんでしたからね。となると缶が示すのはおそらく自動車絡みのなにか、と考えたわけです」
ユリナが思い出してみても、確かに、目についた缶はどれもカーポートの脇にひっそりと置かれていたような気がする。
「それで、あの缶はいったいなんの目印だったの?」
「缶の置いてあった家を見ていくと、どこもカーポートが住居からいくらか距離のあるような立地で、なおかつ車自体もセキュリティに無頓着って感じでしたからね。おそらく下見で犯行ターゲットを絞り込んで目印をつけたんでしょう。あの手際の良さはプロって雰囲気でしたよ。だからそこを逆手に取って、缶を特定の協力してもらえる家に仕掛けて、行動を絞り込んだところで一気にお縄というわけです。まあ、連中も今回は運が悪かったですね。ノヴァクラウンにナメた真似をするからこうなるんです」
そう言いながらランサは呆れたような、勝ち誇ったような苦笑の表情を浮かべる。
「あー、はいはい。そもそも、それだって私が売り切れを見つけたから解決できたのよ。そのへん、忘れないでもらいたいところね」
「それはもちろん。そのおかげで迅速に売り切れの連絡もできましたしね。さて、いいことを思い出させてくれましたし、少し出かけることにしましょうか」
「いいこと?」
ウキウキの笑顔のランサを見て、ユリナはただそう尋ねるだけである。
彼女は、探偵がこんな表情浮かべるときにはしょうもないことを考えているのを知っていた。
「ノヴァクラウンを手に入れる方法ですよ。そうですよ、あの酒屋に行けば普通に売っているんでした。さっそく買いに行かないと。早く行かないと店が閉まってしまいます。もしかしたらまた売り切れてしまうかもしれません!」
「それはないわね。まあでも、あのゲロマズ飲む拷問のおかげで犯人が逮捕できたわけだし、世の中なにがどう転ぶかわからないものね……」
それを聞いて、今度はユリナが呆れたため息をつくのだった。
クソジュースにだって空き缶はあります シャル青井 @aotetsu
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