現代病床雨月物語

第二十八話 「民とマリア観音（その八） 『忍』に込められた念い」

　毎年八月十二日は何処にいても四條畷市砂（すな）で行われる「○○○市（いち）」の縁日を思い出します。それについては第二〇話で書いていますが病気と遭遇してリンパ節の切除の入院時のマリアの出現と現在の難病になってから自分のルーツを考える事が多くなってきました。私は、四條畷市砂で生まれました。四條畷市は大阪府東部にあり生駒（いこま）山地の北西にあり清滝街道（国道一六三号線）と東高野街道（国道一七〇号線）が交差する古くからの交通の要地です。旧地方名では河内（かわち）であり細かくは北河内になります。私の生まれた時は四條畷町でしたが一九七〇年の大阪万博以降に大阪府による大規模な府営団地が出来て人口が急激に増加して市になりました。市は北から時計回りで寝屋川市・交野（かたの）市・生駒市（奈良県）・大東市・門真（かどま）市に囲まれています。鉄道ではＪＲ学研都市線（片町線）が通っています。駅は四条畷駅と忍ヶ丘（しのぶがおか）駅がありますが四条畷駅の所在地は大東市なので唯一、忍ヶ丘駅だけが四條畷市であります。今では四條畷市砂に巨大なショッピングモールができ大阪府や奈良県の人々が多く訪れています。私が生まれたのがそのショッピングモールの東側に位置するあたりです。

　私はＪＲ忍ヶ丘駅の地名である忍ヶ丘の『忍（しのぶ・にん）』の文字が気になっていました。何をしのんだり、たえたりするのかと考えていました。それが大阪府茨木市にある「忍頂寺（にんちょうじ）」に行きその謎が解けました。「忍頂寺」は潜伏キリシタンの里として地元では有名です。「忍頂寺」と「忍ヶ丘」の『忍』はキリスト教を信仰していた証拠であり戦国時代の歴史の証明でもあります。私の夢に登場してきた戦国時代のサムライ・キリシタンの奥方は私との地縁が関係して登場したと確信しました。それを決定づけるものが四條畷市田原で発見されています。それは日本最古のキリシタン墓石である田原レイマンの墓石です。田原レイマンはイエスズ会の信徒で田原の地の領主として織田信長にも謁見したといわれています。この事は夢に登場したキリシタンの奥方と共に私に不思議な縁を感じさせるのです。実は私の亡くなった父はこの田原で生まれ、すぐに砂の秋山家に養子に出されたからです。私は小学生の頃からよく父に連れられて父の実父の大田家に行っていました。父は実父に育てられていませんが血がつながっているのでソックリなのを覚えています。わたしからすると血のつながった祖父になります。この祖父のことで今でも不思議に思う事は祖父の家は農家でしたが夕食がすんでしばらくするとどこかからバイオリンを出して来て祖父がバイオリンを弾くのです。たぶん祖父は明治の末期か大正の初めの生まれだと思います。私は音楽が苦手だったので祖父が奏でるバイオリンのリズムは理解できず。祖父だけがひとり音を楽しんでいた記憶があります。何故農家の年寄りがバイオリンを弾くのか今でも不思議に思っています。

　私の夢に登場したキリシタンの女性の話では戦国時代には現在の忍ヶ丘駅の西側の小高い山にある現在の忍ヶ丘神社には巨大な十字架があり遠くからでもよく見え寺の五重塔の様な役割をしていました。またそれと共に砂には美しい教会があり砂の教会の西側には大きな湖があり舟からだとちょうど教会のすぐ背後に十字架が聳え建っているので大変荘厳で美しかったと言っていました。その教会には河内や摂津の多くのキリシタンが舟で訪れていたと語りました。それは後に「野崎まいり」の歌でも有名になった風景と同じだと思います。その後、砂の教会は領主様がなくなると石田三成殿の許しをうけ大坂城内の天満に教会を移したと言っていました。その天満の教会には細川ガラシヤ様（明智光秀の長女）が洗礼を授かったと言っていました。また秀頼様の奥方「千姫」様もこの教会によってキリシタンへの関心を深めたと語りました。

　私は、「忍ヶ丘」や「忍頂寺」の『忍』の文字に込められたものは、歴史の事実であるキリシタン信仰の事実と信仰への願いであり、後の世の人達に伝える未来への手紙の様な存在だと思ってなりません。私が少年時代に出会った砂の年輩者達の話では「○○○市」により鎮魂をまじめにすれば非業の最期を遂げた魂は土地の守り神となり人々を助けてくれると話しその証拠として○○さんの会社は、太平洋戦争で焼かれても見事に復活したとよく聞かされたものです。

　私は、すくなからず河内や摂津の歴史と関係している現在のローマ法王であるフランシスコがイエスズ会であり、今年（二○一九年）に長崎の「浦上天主堂」にあった十字架が長崎に帰ってきた事も不思議な縁が今も続いているものだと思いました。