第3話『近々射程用対宙兵器スーパーパチンコ』
「てれれれってれー♪ スーパーパチンコ! 何でも50kmで打ち出すことが出来るよ♡」
うわー、残念な武器だ。宇宙戦艦やアメリカ軍はおろか、一匹のカメムシを退治するのにも苦戦しそうだ。
「これがあれば、アメリカ軍相手でも怖くありませんね♪」
金髪ツインテが話を合わせるのを聞いて、
『じゃあ、それ持って、アメリカ軍と戦ってきなよ』
と言いたくなるのを堪えて、
「ウワー、ウレシーナー。ボクニクレルンダネ、アリガトー(棒読み)」
と手を伸ばすも、
「ちょっと、トシユキ君! こんな危険な武器を裸で持ち歩く気なの?」
と、ぷんすかモードのこけ☆ゆき先生に抗議される。
僕は廊下の豊田さんの方をちらっと見て、(あっちの殺し屋女子高生の方が、拳銃とかナイフとか、やばいモン持ってるっしょ!)と思いつつも、
「ごめんごめん、嬉しくてつい」
と、いい加減なことを口走る。全肯定で少しでも話を早く終わらせたいのだ。
こけ☆ゆき先生は、机の中に手を突っ込み、半円上の何やらを取り出して、頭上に掲げた。
「四次元ポケット☆」
(うわっ、まんまだ〜。ってか、盗作だ〜★)
「じゃあ、五次元ポケット☆ トシユキ君にあげる」
(じゃあ、って名前変えただけじゃんよ。じゃあって。)
と思いつつも、それを受け取る。その形状は、国民的ネコ型ロボットアニメに登場する半円状のポケット型秘密道具にそっくりだった。少し上部の口を開いて中を覗き込んで見ると。
「わっ!」
五次元ポケットの中は、底知れない広大な空間が広がっていた。まるで夜空がこの中にすっぽり入っているようだ。これは、秘密道具級にお役立ちアイテムかもしれない。
「本当に、これ貰っていいの?」
と訊ねると、こけ☆ゆき先生は頬をぷうっと膨らませ、
「私、トシユキ君にウソついたことあった?」
と聞き返してきた。ウソはつかれたことないかもだけれど、何もかも全てが冗談みたいな人だからなあ。いや、人かどうかは定かではない。でもくれるってんなら、有り難く貰っておこう。
「ううん、ありがと☆」
とお礼を言うと、
「どういたしまして」
と満面の笑みで返事された。う〜ん
。やっぱりこの子、可愛いな。いや、そんな趣味はないんだけれどね。
「さてと、早速しまってみよう」
とスーパーパチンコをポケットに入れようとして、ふと思い留まった。
「ねえ、これって中に物を入れたら、未来永劫取り出せなくなる、なんてことはないよね?」
「当り前じゃん! その5次元ポケットは、ちゃんと中と外の世界が繋がってるから大丈夫だよ♪」
それを聞いてひと安心。早速、スーパーパチンコをポケットの中に入れてみる。と。
カツーン。
一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。
「落としましたよ?はい、どうぞ」
ルサちゃんが、床に落ちたスーパーパチンコを拾って、手渡してくれる。
「あ、ありがとう……」
おかしいな? ちゃんと入れたはずなのに。今度は5次元ポケットの口をしっかり開いて、スーパーパチンコをポケットの中に入れる。が、しかし。
カコーン。
またも、スーパーパチンコは、床に落ちてしまった。このポケット、底に穴が空いてるんじゃないの?
そう思って、そっと手を入れてみる。と。
「げっ!」
なんと、ポケットの中に入れた僕の5本の指が、ポケットの外側の表面から生えてきたではないか!
その指は、1本1本が独立していて、ポケットの表面を、軽やかに滑るように移動している。
ううっ、気持ち悪い★
すぐにポケットから手を抜きたくなったけれど、その前に1つ試してみたい。
ホントに僕の手なのかなと、右手を結んで開いてしてみると、それに合わせてポケットから生えた指も動く。
毒を食らわば皿までとばかりに、手首まで突っ込むと、それまでばらばらにポケット表面を滑っていた5本の指は瞬時にまとまり
、今はポケットから手首が生えている。
僕がポケットから手を抜くと、ポケットから生えた手首も、ポケット表面に沈むように消えた。
「え〜と、これ何?」
「5次元ポケットだよ?」
「中に物入れられないんだけれど?」
「そんなことないよ。トシユキ君の入れ方が悪いんだよ。ちゃんと入れてみて?」
僕は、スーパーパチンコを手に取り、『よし、ちゃんと入れるぞ!』と3回、強く念じて、胸の前、左手でしっかり口を開いてから右手でスーパーパチンコを5次元ポケットに入れた。
何かが、ポコン、っと僕の後頭部に当たり、僕の目の前を通り過ぎて、机の上に落ちた。スーパーパチンコだった。
「うわーっ、面白〜い ♡トシユキ君たら、自分の頭の上に落としてるよ〜♪ これが、ホントの『アタマに来た』だね☆」
カチーン! ホントに頭に来た。僕は、無言で筆箱から消しゴムを取り出すと、左手にスーパーパチンコを持ち、右手でパチンコのゴム中央にあるつまみ部分に消しゴムを引っ掛けようとしたところ……。
「ト、トシユキ君っ! で、殿中、殿中でござる」
後ろから、左手を押さえられ、更に右手首も掴まれて、消しゴムを取り上げられた。
「ダメだよ、人に向けて打とうとしちゃあ」
左腕を押さえていたのは博士君だった。あれ? さっきまでいなかったのに、いつの間に戻ってきたのだろう。
一番仲の良いクラスメイトに言われて、少し落ち着いてきた。
「そうですよ? 私たちが止めていなかったら、どうなっていたことやら」
僕に消しゴムを手渡しながら、ルサちゃんが言う。
「ごめん」
如何に時速50kmでも、目とかに当たったら大変だ。
「ちょっと、まだなの? 焼肉奢ってくれるっていうから、待ってるんだけれど?」
と、豊田さんが言う。
「せりちゃん、もちょっと待ってね♡ トシユキ君、もういたずらしないから、そのスーパーパチンコを5次元ポケットにしまって」
今度はちゃんと収まってくれたようだ。少なくとも周囲にスーパーパチンコが落ちたような気配はない。
「あと、これもあげる。『
こけ☆ゆき先生は、僕の胸の前から30cm離れたところに、小さなダーツを1本置いた。
『置いた』という表現であっているのかな?でも、そう表現するのが一番しっくりくるように思えた。
そのダーツは、宙空をゆらゆらと漂っている。
「ありがとう」
とお礼を言いつつ、ダーツに手を伸ばすが……。動かない!
足を踏ん張って、全身の力を込め、両手で思いっきり引っ張っても、びくともしない。
「その『i愛ダーツ』は、おひさまより重いんだから、動くわけないじゃん! 5次元ポケットの口を開いて、
なんとか武器(?)を、ポケットに収めることが出来たらしい。なんか異様に疲れた。帰ったら、少し横になろう。
「メンバーも勢揃いしたし、焼肉ツアーへ、レッツラゴー!」
「へー、いってらっしゃーい」
「何ゆってんの? トシユキ君も行くんだよお! 昨日約束したじゃん!」
「いや、そんな約束なんてしてな……」
突如、僕の脳裏に、『たった今、強引にねじ込まれたかのように』、昨日の記憶が蘇ってきた。
「ごめん、今思い出した。今日、将棋部が休みだったから、焼肉食べ行こうって約束だったね」
「ふうー、やっとですよ? 予算はどのくらいなんですか?」
ルサちゃんの質問に、
「じゃーん☆」
と札束を取り出して、それをルサちゃんに手渡すこけ☆ゆき先生。
「みんなー、腹切って行くよーっ!」
と、元気いっぱいだ。
でもそれだと、切腹になってしまいますよ?
と、その時! こけ☆ゆき先生の短い足がもつれて、前に倒れる。あっ、危ない、床に頭をぶつけるっ!
と、その瞬間、こけ☆ゆき先生は空気が抜けたように、ぺったんこの平面になった。
と思ったら、その平面こけ☆ゆき先生は、くるくると丸まって頭から足まで1本の線になり。
更に、その線状のこけ☆ゆき先生の先端が床につく直前に、くるくると丸まって1つの点になり、そして消えた。
この間、僅か1秒ほど。
みんな無言で顔を見合わせていたけれど。
「お金もあることですし、焼肉食べに行きましょうか?」
と、食いしんぼ死神が提案し、
「そうね。焼肉楽しみだわ♡」
と、食いしんぼ殺し屋が同意して、5人で、正確には4人と1匹で向かうこととなったのだった。
僕は、5次元ポケットに手を突っ込み、スーパーパチンコをイメージすると、何かの感触が伝わった。それを掴んで手を引き抜くと。
スーパーパチンコだった。
ルサちゃんが、僕に握りこぶし大の石を手渡しながら、
「アパッチのエンジンですが、おたまじゃくしにたとえると、尻尾のつけ根の方から……」
と、狙うべき弱点の場所を説明してくれる。
アパッチは、ーーどれくらいの距離なのか僕にはわからないのだけれどーーかなり離れたところに留まっている。機関砲ではなく、別の武器で攻撃してくるつもりらしい。
「向こうが撃ってくる前に、仕留めちゃいましょう」
「こんな石ころを時速50kmでぶつけて、効果あるのかなあ?」
「違うよ、トシユキ君。スーパーパチンコは、
博士君だった。南さんの妖精の治癒魔法によって、傷はすっかり完治しているみたい。
ていうか……。おっしゃる事が
「トシユキ君、早く終わらせて焼肉食べ行こうよお」
こけ☆ゆき先生が促してくる。
僕は、スーパーパチンコを持った左手をアパッチに向けて伸ばし、石を持った右手を引き絞る。
「エンジンを狙って下さいね?」
とルサちゃん。僕にそんな技量があるはずないけれど。
右手を離した次の瞬間、アパッチは火を吹き、まもなくもれなく墜落した。
遅れて、『ゴフッ!』っという音がし、続いて墜落音が響いた。
「ちょうど良かったね。この辺りが超巨大テーマパーク建設のため、更地になってるときで」
こけ☆ゆき先生の言葉に、僕は突然、『この辺り一帯が、地球最大規模のテーマパークの建設予定地になっていて、見渡す限り地平線になっている』ということを全力で思い出した。
どの方角を見ても地平線しか見えない。だから、破壊された家屋などあろうはずもない。
「あのヘリコバクター・ピロリじゃまだね。持ち主のところに帰ってもらおうか?」
こけ☆ゆき先生が指差すと、アパッチの残骸が消え、一瞬のちに普段の町並みが姿を現した。
ん?
何かがおかしい気がする……。
と思ったけれど、どうやら気のせいみたいだ。
このあと、みんなで焼肉を食べに行き、たらふくご馳走になった。
みんなと別れた帰り道、銀行のATMコーナーに寄った。
キャッシュカードを入れると、ピーガガガ、ゴゴゴゴゴッ! っと、凄い音がして、画面に、
『ただいま精一杯故障中なり。備え付けの糸電話にて係員をお呼びあそばされたあと、決してこの場を離れず、のんびりと腕立て伏せでもしながらお待ち下さりやがれ』
と表示されていた。
結局南極、僕が家に辿り着いたのは、2時間以上経過したあとだった。
おしまい
ATMにご用心 魔女っ子★ゆきちゃん @majokkoyukichan
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