第2話 全く勝負になりません☆
旋回を終えたアパッチが、再び僕たちの方へと向かって来る。
こんな町中で戦争用の兵器が現れるなんて……。
僕は隣の博士君に、ぎゅっ、と抱きついた。
機関銃(正しくは機関砲らしい)の掃射。今度は僕たちの右手側にあった家屋を破壊し、炎上させた。
「なんてことを……」
今までの敵は、僕1人だけを狙ってきた。僕だけが狙われたのなら怖くない。
僕に付随する能力『ドジっ子モード』は、僕に対して攻撃してくるあらゆるモノに対して、あり得ないようなカタチで失敗させる能力。
だから僕自身に対する攻撃は怖くない。
いや、ホントは怖いんだけれど、今までの経験から絶対的な信頼を寄せても良いんじゃないかな、と思えるレベルで機能してくれている。
しかし、今度の敵は、町を破壊するのも
いったい何故?
もしや、『ドジっ子モード』の弱点がバレているのか?
だとしたら、相当にまずいと言わざるを得ない。
『ルサちゃん、ルサちゃん、聞こえる?』
僕は声に出さず頭の中で、ルサちゃんに呼びかけてみた。僕からの声が届くかどうかはわからない。
『はい、トシユキさん。聞こえてますよ。どうぞ』
『今度の敵は相当やばいよ。このままだと町が戦火に包まれることになる。なんとかならない?』
『なんとかと言いますと? どうぞ』
『キミたちの能力でアイツをやっつけられないかな?』
『ムリですね。どうぞ』
『たとえば、ルサちゃ……』
『来ますっ!』
ルサちゃんが、僕の言葉を遮っての一言に、慌てて上空を見上げると。
直後に機関銃(正しくは機関砲)の掃射が始まった。今までで一番近い距離。火を吹く銃口。思わず目を閉じる。
機関銃弾(正しくは機関砲弾)が空気を震わせる。アスファルトを
攻撃の気配が去り、そっと目を開けると……。
隣の博士君が、左足太ももを押さえて
「博士君!」
『大丈夫です、トシユキさん。博士さんは撃たれたわけではありません。アスファルトの破片が足に食い込んだだけです』
「何が大丈夫なもんか! ケガしてるじゃないか!」
僕はつい口に出して叫んでいた。ヘリの爆音は遠ざかっている。
『落ち着いて下さい、トシユキさん。あの30mm機関砲の威力は、一発
『でも?』
『これは、ある意味予測できてたことですが、ドジっ子モードはトシユキさんにしか効果はないようです。だから、トシユキさんから、ほんの数十cmずれたところに弾が飛んできて、そこに博士さんがいたら……』
『!?』
『着弾します。おそらく助からないでしょう……』
旋回を終えたアパッチが、またも僕たちの方へ向かって来る。どうしよう? 僕だけを狙っているんだったら、博士君となるべく距離を取ったほうがいいのかもしれない。
『博士君と離れた方が良い?』
『いえ、なるべく離れない方が良いでしょう。流れ弾が一発当たっただけで、博士さんは死んでしまいます』
『じゃあ、キミたちであのヘリをなんとかしてよ?』
『トシユキさん、なるべく博士君にくっついて……』
僕は博士君の盾になるように、アパッチを背にして、
もし、何らかの理由でドジっ子モードが発動しなければ、僕たちは一瞬の内にばらばらぐちゃぐちゃの肉片と化すのだろう。吐き気がこみ上げてくるのをなんとか飲み込む。
そして機関砲の掃射音。
遠ざかるヘリの音。僕の身の安全は保証されているとはいえ、精神的には相当参っていた。
もし、博士君や他のみんなに弾が当たったら、ぐちゃぐちゃになった状態を目にしてしまったら、僕は発狂してしまうんじゃないだろうか?
『やろう!アイツをやっつけよう!』
『トシユキさん!』
ルサちゃんに言われて、はっ、と気が付いた。全身から汗が吹き出し、心臓が凍りついた。僕は直感的に気が付いていた。ドジっ子モードが解除されているのを。
ドジっ子モードには、解除条件がある。
それは、『僕が攻撃の意思を持つこと』。
僕が攻撃の意思を持った瞬間、ドジっ子モードは解除され、僕はただの人となる。
隠れていたルサちゃん、南さん、豊田さんが、それぞれ別の場所から姿を表した。
近付いてくる3人(正確には2人と1ぴk……
「次に攻撃されたら100%助からない。なんとかキミたち3人で……」
「だからムリですって。相手が悪過ぎます」
とルサちゃんが言えば、
「そうね、戦闘機か、せめて歩兵用の地対空ミサイルでもあればいいんだけれど。用意できる?」
と豊田さん。僕は静かに首を横に振った。
「見て! アパッチが遠ざかって行くわよ」
南さんの言葉に上空を見上げれば、先程までとは違って、ずっと遠くまで離れて行っている。
「はーっ、助かったーっ。僕の能力が解除されたのに気付かず、諦めて帰ってくれるんだ」
「それはどうかしらね?」
豊田さんが呟いた。
「それって、どういうこと?」
思わず聞き返す。
「きっとあちらさんは、あなたの能力を理解しているはずよ。そして、なんらかの原因で解除されるということも掴んでいると推察されるわ。だからAH−64を仕向けてきた」
「ねえ、豊田さんの銃の弾って、凄いヤツなんだよね? 確か『ハイパーショット』とかなんとか。それで、あのヘリを撃ち落とせない?」
僕の質問に豊田さんは、愚かな者を見るような目をしながらも口を開いた。
「拳銃でヘリコプターを撃ち落とす? そんなこと、生後3ヶ月の赤子だってムリだとわかるはずよ。この歳まで、何を学んできたのかしら? 私の44マグナムの弾丸『ハイドラショック』は、対生物用のそれよ。ハイテクホローポイント弾の一種で、着弾時、弾頭がヒドラの爪のように開いて、人体を切り裂きながら潰れキネティックエネルギーを振り撒いていく。結果、通常弾で撃たれたときよりも、遥かに大きな傷口及びダメージを与えるの。まあ、ダムダム弾の強化型といったところね。但し、金属などに対する貫通力は落ちるわ」
僅かな希望を胸に説明を聞いていた僕だったが、やっぱりムリか。
「じゃあ、南さんの……」
「おしゃべりしてる時間はなさそうね」
南さんが僕を遮って言うと、豊田さんが、
「ハイドラロケットポット弾。どの弾頭を使用しているかは不明だけれど、種類によっては周囲50メートルを焼き払う威力があるわ。今の私たちにとってはATMのヘルファイア以上の脅威ね」
と続ける。
ATM? そういえば、こけ☆ゆき先生がATMに注意するよう言ってたっけ?
「ATMって何?」
「対戦車ミサイルの略称よ。それより、トシユキ君、早く準備して!」
準備って何の?
「トシユキさんには、あのアパッチを撃ち落とせる武器があるじゃないですか?」
武器って、そんなモノ持ってな……、あっ!もしかしてさっきのアレ?
「ようやく気が付いたようですね? 実はこの勝負、ドジっ子モードが邪魔をしていたんです。それが解除された以上、もはや勝負になりません。もちろん、トシユキさんの勝利です♡」
ルサちゃんが不敵な笑みを見せた。
話は学校を出る前に遡る。
「あーっ、やっと終わったーっ」
立ち上がって伸びをする。今日は、将棋部が休みだから、さっさと帰るとしよう。っと、帰りに銀行寄って、お金引いとかないとな。
カバンを手に、帰路につこうとするも。
「トシユキ君! ATMに注意だよ!」
見た目、小学生のようなちびっ子女子高生、いや、ホントに女子高生かどうかは不明だけれど、一応紛れもないクラスメイトだから、たぶんきっと女子高生的な何かなのだろう、こけ☆ゆき先生が僕に話し掛けてきた。
銀行に寄って帰らなきゃ、なんてことを考えてた直後のことだったから、
(まさか、僕の思考を読んでるんじゃないだろうな?)
と、思ったんだけれど、
「もちろん、トシユキ君の思考を読んだりするわけないじゃん!」
と言われたので安心した。
ん? ここ安心して良いのかな? まあ、本人が思考を読んだりしてないって言ってるんだから、間違いないか!
「ATMに注意って、どういうこと?」
そう訊ねると、
「そうだよね、武器がいるよね?」
などと、物騒なことを言ってきた。
「ちょっと待っててね。宇宙戦艦が大挙して押し寄せてきても、戦えるくらいの武器を用意するから」
と、机の中身をゴソゴソやっている。
「あれ? どこにしまったかなあ。広くて迷っちゃうよ」
などと言っているこけ☆ゆき先生は、今や米粒サイズの大きさだ。
「ちょっと、何やっているんですかー」
と廊下の方から、声が聞こえてきた。
声の主は、1学年上の金髪碧眼美少女ツインテール死神のルサちゃん。その隣には、僕のクラスメイトの黒髪美少女殺し屋の豊田さんがいた。
この2人、いや1人と1匹か、……は、かつて僕の命を狙いに来た者たちである。今は、まあ、たぶん、きっと仲間なんだろうと思う。ちょっと怪しいけれど。
気が付くと、既に他のクラスメイトたちは帰ってしまったようで、僕たちしかいない。
ルサちゃんはずかずかと、教室の中に入ってきて、
「早く食べに行きましょうよー。もうお腹と背中がくっつきそうです」
なんて言っている。
と、ここで、
「あった、あったよ。これで、高知県高知市中のカメムシが一斉に襲ってきても戦えるくらいの武器は揃えたよ」
などと言いながら、こけ☆ゆき先生が机の中から出てきた。
すぐに元の身長130cm程の大きさに戻る。
「あれ? 宇宙戦艦じゃなかったの?」
と訊くと、
「なに? 宇宙戦艦と戦う予定でもあるの?」
と、目を丸くして不思議そうな顔。
武器なんていうから、どんな凄いのが出てくるかと思ってたのだけれど。
「ふっふーっ♪ 凄いでしょ?これだけあれば、アメリカ軍が相手でも間違いなく勝てるよ♪」
などとのたまっているけれど、僕の目には、
『間違いでしかなく負ける』
ように見えた。
「わーっ!凄いですねぇ♪」
と金髪ツインテ死神が同調する。
「でしょ?でしょ?」
と言いながら、Y字型のプラスチックっぽいモノにゴム的な何やらがついたモノを
続く
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