ATMにご用心
魔女っ子★ゆきちゃん
第1話 もし戦ったらどっちが強い?
一体なんでこんなことになったんだろう?
バラバラバラと、耳をつんざくような轟音が鳴り響く中、僕は空を見上げて思った。
さて、事態は数分ほど遡る。
僕たちは、焼肉を食べに向かっていた。見た目は小さいが太っ腹なこけ☆ゆき先生がおごってくれると言うのだ。
参加メンバーは、僕、ルサちゃん、南さん、豊田さんに博士君の5人。いや違う、4人と1匹。何故か、言い出しっぺのこけ☆ゆき先生が消えてしまったが、お金はルサちゃんが預かってきているので、問題ない。
何の変哲もない町中を歩いていく。コンビニやら書店やらが見えるが、目当ての焼肉屋さんは、まだ直接は見えてこない。
みんなを紹介しておいた方がいいのかな。
僕は将棋部に所属する普通の高校生。但し、あからさまに普通ではない能力が付随している。これは、後述する。
ルサちゃんは金髪碧眼の小柄なツインテール死神。本人、いや本死神曰く優秀な逸材らしい。小学生かと思えるほど小柄でありながら相当な大食漢であり、残飯を漁って街を彷徨っているとの目撃情報多数。この野良死神め。
南さん……フルネーム潮江南さんは、生徒会役員も務める美少女。170cmになんなんとする長身に、ボンキュッボンのゴージャスわがままバディ☆ 長く美しい黒髪をポニーテールに束ね、無意識のうちに周りの男どもを悩殺するピンク・エア・パフュームを放ちまくっている。
人間ではあるが、エアエレメンタラー(風の精霊使い)にして、フェアリーテイマー(妖精使い)でもある。
豊田さん……豊田世梨華さんは、地球とは別の世界からやってきた、というより、こけ☆ゆき先生に無理やり連れてこられた、異世界の殺し屋だ。
元いた世界では、超能力犯罪者を秘密裏のうちに抹殺する機関に所属していたらしい。彼女の超能力『ティアラ』は、汎用性が高い万能型の能力なれど、燃費が悪くほとんど使われない。
普段は髪をくくっていないが、今日は南さんの手によって、お下げ髪にされている。クールな美少女だが、近頃は僕たちとも少しずつ話をするようになってきた。
最近聞いた話だと、双子の妹がいて、名前が『華梨奈』さん。小学生の妹は『華夢梨』ちゃん。お母さんが『小炉奈』さん、お父さんは『クラウン』さんらしい。あっ、この情報、いらなかった?
博士君は、そこそこ勉強のできる科学好きのメガネ男子だ。こけ☆ゆき先生と長い付き合いらしいが、本人は特殊能力など持っていないみたい。
リケジョ(理系女子)ならともかく、リケダン(理系男子)はちょっと微妙。でも、一番良くしてくれてるクラスメイトだから、悪くは言えない。
隣の博士君と、取り留めのない話をしていると、先頭を歩いていたルサちゃんが振り向いて、
「トシユキさん?ちょっといいですか?」
と、僕を手招きする。みんな僕のことを『トシユキ君』と君付けで呼ぶので、さん付けはルサちゃんくらいだ。
「何?どうしたの?」
と聞くと、ルサちゃんがちらりと空を見上げた。釣られて空を見ると、遠くの方に、ヘリコプターが飛んでいるのが見えた。
「こんなときに話すことじゃないんですけれど……」
ルサちゃんは、そう前置きしてから話し始めた。
「シミュレーションの話をします。AH―64Dアパッチ・ロングボウとフロストドラゴンの成獣が戦ったとして、どちらが勝つと思いますか?」
ぽかーん。何を言っているのかわからない。
僕は答えられないでいるが、ルサちゃんはお構いなしに話を続ける。
「フロストドラゴンは氷雪地帯などに棲息する全長18メートルにもなるドラゴンです。口から冷気系のブレスを吐き、魔法を操る個体も多くいます」
動物園のオリの前の説明書きを読むように、フロストドラゴンの説明をしてくれた。
けれども、僕はドラゴンなんかに興味はないし、なんとか棒ってのが、戦争用の兵器なんだろうな、ってことくらいしかわからない。
バラバラバラという音が聞こえてきた。先程、僕たちの正面方向に飛んでいたヘリコプターが今では、右手方面上空を飛んでいる。
「結論から言うと、アパッチが圧勝すると思います。何故かというと、M230 30ミリ機関砲の威力は、対生物用の……ではなく、それにハイドラロケットポット弾は……。」
ヘリコプターの飛ぶ音がうるさくなってきた。すぐ隣を歩くルサちゃんの声も聞こえないくらいに。
あのヘリ、今どこを飛んでいるんだろう。僕は空を見上げながら首を左右に動かした。
「ルサっ! 南っ!」
爆音の中、豊田さんの声が微かに聞こえた。緊張していたような!?
さすがに僕も気が付いた。さっきのアパッチ棒というのは、戦争用のヘリコプターのことなのだろう。
巨大なドラゴン以上の戦闘力を持つというヘリコプターが正面上空から迫ってくる。
と。
(トシユキさん、パニックにならないで下さい。アパッチの攻撃は絶対、トシユキさんには当たりません)
頭の中に直接声が響いたかと思うと、僕と博士君を残して3人(正確には2人と1匹)が周囲に消えた。
「え、え〜と……」
僕が呟いたが、爆音に掻き消されたのだろう。博士君の反応がなかった。
そして冒頭の、
一体なんでこんなことになったんだろう?
というシーン。
ヘリから弾が発射され、僕たちの数メートル前方のアスファルトがボロボロに破壊された。
いや、僕の半径約1メートル以内だけが銃撃を免れ、その外側はひどいことになっているのが想像できた。
そう、僕に付随する能力、『ドジっ子モード』がなければ、僕と博士君はハチの巣になっていたに違いない★
後ろに振り向いた上空、遥か遠方で旋回するアパッチ棒の姿が見えた。
続く
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