『四季の妖精』

春の妖精は花から生まれる。


“春だよ みんな目を覚まして”って命を呼ぶ。


柔らかな陽射しに包まれて、風の歌を歌う。


夏が近づくと暑さから逃げて木に隠れる。


そうして木の養分になって、また次の春に花から生まれる。


それが春の妖精。




夏の妖精は海から生まれる。


“夏だよ みんな一緒に遊ぼう”って命を呼ぶ。


遥か彼方まで続く青空の真ん中で、太陽の歌を歌う。


秋が近づくと暖かさを求めて海を渡る。


そのうち海と一体となって、また次の夏に海から生まれる。


それが夏の妖精。




秋の妖精はほくほくのお芋の中から生まれる。


“秋だよ みんな美味しい物を食べよう”って命を呼ぶ。


鮮やかに色づいた木々に囲まれながら、紅葉の歌を歌う。


冬が近づくと寒さを凌ぐために枯葉に潜る。


そうして土に還って、また次の秋に芋から生まれる。


それが秋の妖精。




冬の妖精は澄んだ空から降ってくる。


“冬だよ みんなどこにいるの”って命を呼ぶ。


一面に広がる銀世界の中心で、孤独に雪の歌を歌う。


春が近づくと雪と一緒に儚く溶けてしまう。


そうして水となって、長い年月をかけて再び空から降ってくる。


それが冬の妖精。




みんな仲良し四季の妖精。


けれど冬は寂しがる。


だってみんなみんないなくなってしまうから。


せっかく長い時を経てやってきたのに誰にも会えないまま消えてしまうから。


だから冬は寂しがる。


悲しい雪の涙を流す。




それでも四季は巡りゆく。


何度も何度も巡りゆく。

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雨と僕。 海月ななり @kuragenonanari

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