横須賀に思いを馳せる

竜田川高架線

横須賀の思い出

 ある日、僕が横須賀に行った時の話だ。

 ちょっとした好奇心で、センカンを見たくて行っただけだ。

 汐入の駅を降りて、ちょっと歩いて、歩道橋を上った。目の前には複合商業施設があって、左下にはバイク駐車場と小さな公園があった。

 そして、巨大な灰色の鉄骨がいくつか遠くに見えた。

 

 これが、初めて見る護衛艦の姿だった。

 随分と遠いはずなのに、その鉄骨……マストはとても大きく見えた。

 視線を少しずらせば、水面が見えた。岸壁に密着している黒い何か、つまり潜水艦が白い煙をもくもくと出しているのも見えた。

 

 高揚した。

 目の前に、センカンがある。

 足早になって、歩道橋を降り、ヴェルニー公園まで走った。

 青く少しだけ透き通った海、岸辺の手すりから身を乗り出して、正面には白い煙を吹きだす潜水艦、そして左には101の番号の護衛艦が見えた。

 はっきりと捉えた護衛艦の姿だ。

 なんてことはない、ただ灰色ペンキに塗られた鋼鉄の塊でしかないそれに、心臓がうるさくなった。


 ある日、飛行機に乗った時の話だ。

 窓際の席に座れて、羽田空港の海に突き出し鉄骨で支えられた滑走路にビビりながら、離陸をまった。

 急にかかる加速のG、ふわりと浮き上がった感覚。

 この時は修学旅行で、テンションMAXに舞い上がっていたガキどもが乗っていたおかげで機内は「おー」という謎の歓声が沸いていた。

 僕は「おー」なんて言わなかったが、およそ数年ぶりに乗る飛行機に少しワクワクしていて、そして浮き上がった瞬間のフワっと感も確かに感じていたから、ちょっと楽しくなっていた。

 高度はぐんぐん上がっていき、窓の下を見ると小さな船がたくさん海に浮かんでいた。まるで「海に浮かぶ小舟のミニチュアとジオラマ」を見ている気分になったが、その正体が巨大なタンカーやコンテナ船、貨物船である事には割かしすぐに気が付いて、自分の遠近感や物体の大小がおかしく見えていることにも同時に気づいた。

 僕はこの時右側の窓際に座っていて、もしかしたらと思ってずっとカメラを構えていた。

 進路は沖縄、南西だ。

 三浦半島をかすめるかもしれない。

 願うだけはタダだと思って、じっと下を睨んでいた。


 そして、見えた。

 グーグルマップの衛星画像で見慣れたその地形が、はっきりと見えた。


 横須賀だ。

 写真を2枚だけ撮って、そして写真を撮ることよりも目で見ることに夢中になってしまった。

 逸見岸壁で三隻の護衛艦がメザシになって停泊していて、そして吉倉桟橋には細長いヘリ甲板が特徴的なあの護衛艦もまた停泊していた。

 護衛艦くらまだ。退役直前で、偶然横須賀に来ていた時だった。

 これが、僕にとって最初で最後の、しらね型護衛艦を見た時だった。

 

 ある日、横須賀に行った時の話だ。

 護衛艦いずもが、ヴェルニー公園から間近に見えた。

 本当に大きな船で、そして美しい船だ。

 向こうの岸壁を見ると、この間見たように、潜水艦が発電で使った冷却水を白い煙として吐き出していた。

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