第5話
聞くと、ヘブロイさんは既に退役したそうなのだが、どうにも長に務まりそうな秀でた人間が居なかったらしく、止む無くその席を未だに座しているのだそう。
その話を聞いたラウムは何処かいたたまれなくなって、そして何故だか親近感が増したのだった。
「それでこの有様・・・」
「うん・・・。もちっとシャキっとした若者が居てくれたらなあ」
「じいさん・・・」
その背中が少し寂しそうで、ラウムはとうとうじいさん呼びをするのである。
「それじゃあ、まだ戦線に赴いたりするんですか?」
「いやいや、私が出る幕はとうにない。それこそ大災害を撒き散らす化け物畜生が現れない限りはなあ」
「それもそっか・・・じいさんだもんな・・・」
「ん?」
「んでも、年寄りにしてはいい体してるし、まだまだ大丈夫そうですけどね!」
それはもう、一切の悪気無く言い切ったのだった。
「う、うん・・・」
じいさんってのは愛称で、実際にじいさん扱いされるとまだちょっと癇に障る・・・と言った様子で眉を顰めるヘブロイだが、その悪気の無いラウムに対して、失礼だぞ!と叱れるほど否定も出来ないし、更には自分を含め騎士や乗員を無傷で助けてくれた恩人と言う事もあり、得も言われぬ複雑な気持ちで頷いたのだった。
周りの騎士達もその兜の中が見通せるほどあたふたとしていた。
「おい、みてんじゃねえよ・・・」
遣る瀬無い気持ちを、そしてしょぼくれた顔を騎士達に見られていた精々の威嚇として、こんな事しか吐けない自分に嫌気が差した様子である。
そんな事を知る由も無いラウムは
「どうでもいいけど、お腹空きましたね!」
と、元気に笑っていた。
*-*
「それじゃあじいさん、またな!」
四日後。
気が付けば敬語が取れ、もう本当に叔父の様な扱いになっていた騎士団長様は。
「おお。またいつでも顔を出しに来るんだぞ」
と、笑顔で、まんざらでも無さそうだった。
ヴィ・メルクリウス。
商業の盛んなこの街は、色々な所から様々な素材や道具、情報が出入りし、別名『冒険者の街』とも呼ばれている。
海に面している事もあって、異国からの特産品が多く市場に出回っていて、一風変わった食べ物やアクセサリー、武器やペットで大変賑わっている。
そんな街に心を躍らせていたラウムに、ヘブロイ。
「そうだ、お前さんに少し用があったんだった。少し、いいかな」
「ん、どうしたんだよ」
「・・・まあ、見ても分かる通り、今居る私の部下はとても貧弱でね。君のような優秀な手練れが一人居てくれると、私としても安心出来るのだが・・・」
ヘブロイの懸念は最もである。一旅団がこの有様では、派遣される討伐隊に疑念が残ると言うものだ。
他の団体がどうであるかは分からないが、戦力的な不備が有ることは明白だった。
「それは・・・勧誘?」
「表向きはそうだ。・・・しかし、そんな偉そうな表現は相応しくないだろうな。言うなれば、嘆願や哀訴・・・だろうか」
「そこまで下げなくても。・・・もし入隊したら、俺は何をすればいいんだ?少し話したけど、俺は魔物を倒したいんだ」
「勿論、敵の襲来や、被害のあった魔物の討伐に赴いてもらう事もある。それでもやはり、基本は住民の保護が最優先になるだろう」
嘘を吐かず、都合の悪い部分を隠さず、正面からのお願いだった。
その思いを真摯に受け止め、ラウムは軽く頷く。
「・・・ごめん。それには答えられない。俺が冒険者になりたいのは、単なる夢や稼ぎだけじゃないんだ。俺は目標の為に努力したいんだ」
「・・・そうか」
「でも、力を貸さないとは言ってない。・・・俺、じいさんの事好きだ。力になりたいって思う。だから、困ったときはいつでも呼んでくれ!出来る限りを尽くして協力する」
「そうか・・・そうか。それでいい。ありがとう、ラウム」
少し悲しそうだった。それでも、嬉しかったのだろう。愛情のある微笑みを浮かべていた。
「うん、それじゃ。・・・あ、お前ら!あんまじいさんを不安にさせんじゃないぞー!」
後ろに立つ騎士達に向けた言葉だ。
そうして歩むラウムの元に、リティアが駆け寄った。
「お兄ちゃん、これ」
そう手渡されたのは、綺麗なネックレスだった。
「・・・いいのか?こんなの貰って」
リティアの後ろに立つ母親に目をやるが、優しい顔をしている。
「・・・ありがとう。大事にするよ。リティアも自分の体は大事にするんだぞ。もう、危ない真似はすんじゃねえぞ」
「うんっ。ありがと、お兄ちゃん」
「おう!」
・・・やや感傷的になった別れだったが、これからが始まりである。
「よし、それじゃあまずはギルドだな!」
貰ったネックレスを装着しながら、ラウムはメルクリウスに入って行ったのだった。
新天地への道中・終
剣戟の雷霆 -冒険者始めてみました- 渡良瀬りお @wataraserio
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