第2話 ルカと少女

王都随一の商業激戦区、中央通り。

正面入都門と王城を結ぶ、国内最大級の商業通り。

そこには数々の激戦を制した多種多様な店が軒を連ね、通りはいつも買い付けの商人や使用人、庶民たちで賑わっていた。

ブノ通りから通りに出て、上に10軒。

薬専門店【加工屋】リセス・ブノラータ。

「セダー!!お疲れーー!」

そう叫びながらかけてきた赤毛の少年、ルカ

…僕の目の前まで来ると盛大にずっこけた。

わざわざ両手を広げて。

その内の片手が作業机の新品器具たちの列に突っ込みそれらはまるでドミノのように順々にくづれた。

一瞬のスローモーション後ガッシャンガッシャンと面白いほどにガラスの落ちた音…

「…おはよう、ルカ。今日も元気そうで何よりだよ。」

僕はすんでのところで何とか魔法を使ってルカを浮かせた。

「あ、またやったなー…ごめん、ごめん。新品…なんだっけ…?」

「いいよ、ルカ、僕は買い直してくれさえすれば。そんな軽い頭下げてないで弁償してよ。」

「…お前怒ってね?お前が新しく個人用の研究室立ててもらったって聞いたからお祝いに…と思ったんだが…。ってかお前もひどいぞ!その魔法で器具の方守ればいいじゃんか。」

こいつ、ルカはバカで単細胞でバカでバカな奴だが何故だか商談術には長けていて営業成績表彰常連だ。

「研究に使う器具は全部無魔法製のものでなきゃ成果として認めて貰えないんだ。結局僕が器具に向けて魔法撃ってても弁償はさせたぞ。」

「…で、でも…お高いんでしょぉ?」

何処ぞの物売りか

「7つ、だから…750000G。」

「たっけ!俺の給料二ヶ月分なんだけど…

つーか…さすがだな、セダ。こんな高いもん三十個近く上から投資されたんだろ?部屋もこんな立派だし…。」

「…まあな。回復ポーション成功したからな。」

「よっ!首席開発士っ!」

「おだててもねぎんねえからな。」

「くそっ!」




「あんの意地悪がー!」

そんなお門違いな不満を虚空にぶつけ、何やってんだと頭をかいた。

王都郊外、リラザ通商通り。

時々商業馬車がとおるものの、その他、人の往来は皆無である。

なぜ営業で終日忙しいはずの僕がこんなところにいるかってたら…それは、まあ僕が数量限定高級品をいくつか割ってしまったからなんだが…

「だー!!」

既に大金叩いて用事は済ませたし、もう夜にも差し掛かるってのになんと移動魔法が使えない…!

ムマホウ製ってのはめんどくさい!

とりあえず馬は安値で…もちろん安値で借りてはきたものの、俺は生来馬ってものが嫌いで…それを察知したのか先程から言うことを聞かない…

今もあっちへこっちへ文字通り道草を喰い、一向に前進の気配が見られない。

「おい、おい馬ーー!!あとたったの35ワールだろ!?無視はないだろ!?おい馬!」

俺は周りに人がいないのをいいことにそんなことを大声でのたまった。

こりゃ馬ひきづってでもどっかの宿探さなきゃな。

「あ、あの…!どうかしましたか?」

急に背後から少女の声

「うおあ!びっくりしたあ!」

は?え?今さっきまで道にだれもいなかったと思うんだが!?

「え、なに!?だれ!?どっから湧いて出たの!?」

「湧くって…失礼な人ですね、せっかく声をかけてあげたのに。」

少女は顔をわずかにしかめた。

「ん、あ…ごめんね?さっき見たとき確かに誰も居なかったからさ、驚いちゃって…」

驚いた様な顔、そしてすぐ不安そうな顔。

「…?」

「ま、まあ、いいでしょう。私は足が…それはそれは速い女の子なので、驚かせてしまった様ですしね、私は寛大なんです。」

言い終わると少女はふん、と胸を反らした。

…おそらく、いや確実に、この話は嘘だ。は汗、動悸、足音、とか色々。

そういう、通常走ったときに表れるものが何もないし。

これが通常、商談の席でのことならばあるいは、俺はこの子と距離をおくかもしれないが…下手な嘘が逆にこの子の誠実さの証の様な気がしたから、気にしない事にした。

「ふーん、すっごいね、お嬢さん!今度近所で王都運動大会ってのやるからさ、出て見たら?なーんて。」

「えっ!君王都の人なの!?」

「そ、そうだけど?」

少女は輝いた。

「じゃあ、王都を案内してくれますか!?私、人を探してるの!」

この子、随分と表情豊かだなー…

「お、おう。いいけど…この馬が動いてくれない事には…」

「そんなの簡単だよ!」

彼女はそういうと馬に飛び乗り、いとも簡単に馬を手なづけた。

「いや、どーやったの!?」

少女はこともなげに首を傾げて、ただ一言、簡単だよ、と呟いた。

「さ、乗って!早く行こうよ、王都!」

十分後、俺は言われるがまま馬に乗り、普通は逆じゃないか?などと思いながらも横乗りで彼女に掴まっていた。

「あ、そういえば君、名前は?」

唐突…。でも、そういえばまだだったな、

「…ルカ・レーモンド。王都のしがない薬売り。お嬢ちゃんは?」

「私?は…リア、リア・ルイーナ。リアノードってところの商店の…一応、看板娘。」



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君と不死鳥 中村あさ @nakamurara

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