東北地方、就活の話
・曰く#1
ベニズワイガニドリアを食しながら船上から失礼。
私は今現在仙台〜名古屋間をフェリーに揺られながらアホ面の奥に一握りの知性を忍ばせメガネ越しに我が愛機MacBookちゃんへと向き合っている。
”今”の縮尺を少し下げると”今”私は題から見てとれるように東北地方に住むべく就職活動をしている。
もちろん東北で働きたい衝動の原動には人様が関心するような立派な理由はない。
あくまでもこれは持論だが、人間を人間たらしめる要素の一つとして”特に理由のないことをする”があると考えている。
兎にも角にも私は今東北、特に青森での仕事を探しており、運良く見つけた青森県勤務の制作会社の求人に応募し書類選考オンライン面接をすり抜け対面面接を終わらせた帰路にてベニズワイガニドリアを貪っているのである。
当然上記は主観だ。可能な限り自らを俯瞰で見れば(就職活動には自らを俯瞰で見ることが大事だと聞いた。いわば付け焼き刃である)フェリーのロビーでMacBookをカタつかせつ傍らにベニズワイガニドリアを頬張り偏差値の低いペットボトルのデカワインをラッパ飲みしている愚物が太平洋を南下している。……非常に由々しいが見て見ぬ振りをするのもまた就活では必要なことであろう? そうであれ。
冗長な序文から察せられるとは思うが対面面接はあまりうまくいかなかった。
ゴリゴリに対策していったいわゆるテンプレートな質疑応答は一切なされなかった。
「なぜ京都からわざわざ田舎へ?」
「なぜ東北へ?」
「なぜ青森へ?」
と、”なぜ北へ?”とばかり聞かれる。
考えれば当たり前だ、犯罪者は犯行後とりあえず一度北へ向かうからだ。
……つまるところ私目線ではずっと順調に就活が進んでいると思っていたのだが、実際はただただ前科者かどうか疑われていただけに過ぎなかったのだ。
浮かれていただけに少し心にくるものがある。
ただなんとはなく東北に移住する人間はどこかおかしい、つまり私はどこかおかしいのだ。
やめろ、そんな目で見ないでくれ。
そらぁベニズワイガニドリアも食ろうて。
売店に追加の酒とチータラでも買いに売店に行こうと思う。
・異聞
「すみませんお願いします〜」
「ありがとうございます、こちらお箸はご入用ですか?」
「え? あ、すみませんもう一度お願いします」
「失礼いたしました、お箸はご入り利用ですか?」
「はい、東北大震災の際にボランティアに参加させていただきましてその際に東北地方の皆様方の復興に向けてのひたむきな姿に心を打たれましたので東北地方での就労を決めました」
「……はい?」
「はい、東北地方という知人のいない環境に身を置くことによって自身を甘やかすことなく業務やコミュニケーションに挑め、成長につながると考えたからです」
「……えーっと、どうかなさいましたか?」
「はい、本州最北端の地で自分の限界を確かめてみたかったからです!」
「えーっと……」
「^^^^^^^^^^^^^^^^^^」
・曰く#2
「すみませんお願いします〜」
「なぜ東北地方へ?」
「え? あ、すみませんもう一度お願いします」
「なぜ東北地方へ?」
「はい、東北大震災の際にボランティアに参加させていただきましてその際に東北地方の皆様方の復興に向けてのひたむきな姿に心を打たれましたので東北地方での就労を決めました」
「なぜ東北地方へ?」
「はい、東北地方という知人のいない環境に身を置くことによって自身を甘やかすことなく業務やコミュニケーションに挑め、成長につながると考えたからです」
「なぜ東北地方へ?」
「はい、本州最北端の地で自分の限界を確かめてみたかったからです!」
「なぜ?」
「なぜ?」
「なぜ?」
「なぜ?」
「^^^^^^^^^^^^^^^^^^」
嘘ルポルタージュ 坂無さかな @Oreno_Gondola
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