6

 穏やかに流れる川と緑豊かな山、川の流れにゆらゆらしながら揺れる小さな船。行く途中で寄ったコンビニで買った缶コーヒーを親指で開けて一口流し入れる。5年前と同じ缶コーヒーを買って、のんびりと川の流れを見た。ここは若者にとっては退屈で、遠くにいかないと遊べるところがない。映画館なんて中心の商店街よりは郊外にあるショッピングセンターにある方が最新の設備が揃っている。若者向けの店も商店街にはない。俺たちがいるところはつまらなくて何もない。バスで遠くに行けるが金がかかる。お金があまりない学生は自転車で遠くにいくしかない。

 俺と翔は休日になると自転車でぶらぶらして、公園や河川敷で缶コーヒーを買ってのんびりと過ごした。小学生は校区内で、中学生になってからは校区が広がっていろいろなところにいった。俺たちは川が一番好きだ。鵜飼船、古い町並み、山の上の城やロープウェーなどの観光地。地元民だけど他所の土地から来た観光客の気分になる。遠くに行きたい気分になるときは川の辺りを訪れる。ここは時の流れが違う。鵜の入ったかごをたくさんつんだ鵜匠とすれ違いに俺たちは自転車を進めた。

 

 「コーヒー、うまいな」

 中学生の時は苦いとしか感じなかった飲み物。大人となった今はうまいと感じるようになった。

 「本当に僕たち、大人になったんだね」

 隣の翔が笑う。あの時と変わらない笑み。久しぶりにじっくりと見ると安心する。これからは翔の笑みを見ながらここで生きていけるのだと思うと嬉しい。数年間の空虚でいっぱいになった心が一瞬浄化された気がした。

 「酒、飲める?」

 「なんとか飲めるようになったよ。あっちの方では付き合いがたくさんあったから。彰はどうなの?」

 「俺は無理だったな。一度、飲んでみたけれどすぐに酔っちゃった」

 比奈岡が亡くなってから誕生日を迎えた。常連さんに祝ってもらって初めて酒を飲んでみたのだが、すぐに酔って眠ってしまった。せっかくの誕生日がつぶれたので翌朝取り直してくれた。本当、常連さんには頭が上がらない。

 

 「そっか、式を挙げるとしたら酒じゃない方がいいか」

 「式?」

 何のことなのかと思って翔を見る。にやっと企む笑みを翔が見せる。

 「彰、僕が言ったこと忘れてないよね」

 「……」

 翔がカバンから小さな箱を取り出す。重厚そうな皮で出来た箱を両手で慎重に開ける。小さいがどっしりとした箱の中にあったのは指輪だ。翔は黙々と俺の薬指にそれを通した。

 「これ……」

 薬指をまじまじと見る。

 真っ先に頭に浮かんだのは『何円ぐらいしたのだろう』

 二番目に浮かんだのは『いつの間に、買ったのだろう』

 三番目に浮かんだのは『……』

 いや、何もない。何も浮かばない。驚きすぎて何も。

 「彰を幸せにするって、言ったでしょ」

 翔は同じ指輪を自分の薬指に通す。お揃いだよと見せてきた。

 「彰には先を越されたからね、告白。だったら僕は先にプロポーズをしようって決めたんだ」

 「え?」

 「初めて会った時から、彰が好きだよ。いつかは告白しようと思ったのにまさか彰から告白するなんて思ってなかったもん」

 翔は笑って俺の肩に寄り掛かる。一気にぐっと体重がかかって倒れかけた。

 「もちろん、婚姻届も用意している。僕のところは記入済み。後は彰の分だけだよ」

カバンから封筒を取り、そこから一枚の紙を見せる。翔の字 穏やかに流れる川と緑豊かな山、川の流れにゆらゆらしながら揺れる小さな船。行く途中で寄ったコンビニで買った缶コーヒーを親指で開けて一口流し入れる。5年前と同じ缶コーヒーを買って、のんびりと川の流れを見た。ここは若者にとっては退屈で、遠くにいかないと遊べるところがない。映画館なんて中心の商店街よりは郊外にあるショッピングセンターにある方が最新の設備が揃っている。若者向けの店も商店街にはない。俺たちがいるところはつまらなくて何もない。バスで遠くに行けるが金がかかる。お金があまりない学生は自転車で遠くにいくしかない。

 俺と翔は休日になると自転車でぶらぶらして、公園や河川敷で缶コーヒーを買ってのんびりと過ごした。小学生は校区内で、中学生になってからは校区が広がっていろいろなところにいった。俺たちは川が一番好きだ。鵜飼船、古い町並み、山の上の城やロープウェーなどの観光地。地元民だけど他所の土地から来た観光客の気分になる。遠くに行きたい気分になるときは川の辺りを訪れる。ここは時の流れが違う。鵜の入ったかごをたくさんつんだ鵜匠とすれ違いに俺たちは自転車を進めた。

 

 「コーヒー、うまいな」

 中学生の時は苦いとしか感じなかった飲み物。大人となった今はうまいと感じるようになった。

 「本当に僕たち、大人になったんだね」

 隣の翔が笑う。あの時と変わらない笑み。久しぶりにじっくりと見ると安心する。これからは翔の笑みを見ながらここで生きていけるのだと思うと嬉しい。数年間の空虚でいっぱいになった心が一瞬浄化された気がした。

 「酒、飲める?」

 「なんとか飲めるようになったよ。あっちの方では付き合いがたくさんあったから。彰はどうなの?」

 「俺は無理だったな。一度、飲んでみたけれどすぐに酔っちゃった」

 比奈岡が亡くなってから誕生日を迎えた。常連さんに祝ってもらって初めて酒を飲んでみたのだが、すぐに酔って眠ってしまった。せっかくの誕生日がつぶれたので翌朝取り直してくれた。本当、常連さんには頭が上がらない。

 

 「そっか、式を挙げるとしたら酒じゃない方がいいか」

 「式?」

 何のことなのかと思って翔を見る。にやっと企む笑みを翔が見せる。

 「彰、僕が言ったこと忘れてないよね」

 「……」

 翔がカバンから小さな箱を取り出す。重厚そうな皮で出来た箱を両手で慎重に開ける。小さいがどっしりとした箱の中にあったのは指輪だ。翔は黙々と俺の薬指にそれを通した。

 「これ……」

 薬指をまじまじと見る。

 真っ先に頭に浮かんだのは『何円ぐらいしたのだろう』

 二番目に浮かんだのは『いつの間に、買ったのだろう』

 三番目に浮かんだのは『……』

 いや、何もない。何も浮かばない。驚きすぎて何も。

 「彰を幸せにするって、言ったでしょ」

 翔は同じ指輪を自分の薬指に通す。お揃いだよと見せてきた。

 「彰には先を越されたからね、告白。だったら僕は先にプロポーズをしようって決めたんだ」

 「え?」

 「初めて会った時から、彰が好きだよ。いつかは告白しようと思ったのにまさか彰から告白するなんて思ってなかったもん」

 翔は笑って俺の肩に寄り掛かる。一気にぐっと体重がかかって倒れかけた。

 「もちろん、婚姻届も用意している。僕のところは記入済み。後は彰の分だけだよ」

カバンから封筒を取り、そこから一枚の紙を見せる。翔の字を見る。ひそかに夢見ていたことが現実に起きるなんて信じられない。

 

 「これからもよろしく、彰」

 「こちらこそよろしく、翔」

 こうして俺たちの恋は愛に変わって、永遠に続くものになった。片付かなけらばならないことはあるが、翔と一緒なら俺はもう、大丈夫。

 何があっても俺は翔の手を離さないと心に決めた。

 

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