第33話二度目の人生
24-033
塾の講師が「はい、この問題を泊君に解いて貰おう」小さい少年が立ち上がって、前に行くと大きな白板に数学の計算式を書いていく、届かないので踏み台に上がっている。
(何だ?これは?)と驚く画老童子だが、安芸津童子も(どうなっているのだ?小学生が大学受験の高校生の問題を解いているのか?)と呆然と見ている。
やがて講師が「小学生の泊勝弘君に負けてどうするのだ」と回答を見て絶賛している。
(この塾では有名らしいな?)
(天才に成っている?)
(二人共凄い事に成っているな)
(本当だ、二人共変だな)
(これは引き分けだな)
(何故?この二人がこんな天才に成ったのだろう?)
(判らない、我々が見ていた限りでは記憶が無くなって、普通の赤ん坊に成っていたがな)
(うーん、判らない)と呻る二人に(馬鹿者!)と天使様の声が聞こえる。
(お前達は、まだ生きられる人間を使って遊びをしただろう?)(。。。。。。。)
(この男も酔っ払っていただけなのに殺しただろう?そして遊びの道具にしただろう?)
(天使様!ご存じだったのですか?)
(お前達の行いは総て見ている、あの叔母さんは九十歳以上生きられた、この酔っ払いも身体は丈夫だから八十歳以上生きられたのだ、お前達は勝手に命を奪った、その罪は重い)
(はい、すみません)
(申し訳ありません)と二人が謝るが(罰として、二人には人の少ないアフリカと砂漠に送る、当分は帰れない、謹慎だ!)
(はい、判りました)
(はい、判りました)と返事をすると天使様は消えてしまった。
(今、人が少ない場所だと言われたよな)
(確かにその様に聞こえた)
(楽出来るな)
(五日の休暇以上に楽だよ)と喜ぶ二人。
(でも、この二人何故?)
(天使様が能力を与えた?)
(いや、そんな力は無いと思う、それが出来るなら世の中天才で一杯に成る)
(じゃあ、何故?)
(判らないなあ)と考え込む二人の神様だ。
自宅に帰った多恵に、小菅の祖父母が「小学生の記録を塗り替えたらしいな」
「多恵がオリンピックでメダルを獲るまで、長生きをしないとね、お爺さん」
「本当だ、後何年生きればいいのだ?」
「五年かな?六年だわ、長生きしてね」と微笑む多恵。
「でも弟は全くスポーツも出来ないね、半分分けてあげれば良いのにね」と微笑む祖母。
もうすぐ九十歳に成る二人は目を細くして見守っている。
夜の食卓で小菅健太が凜香に「次の子供も多恵に似た女の子を頼むよ」と大きなお腹を見て言う。
「多恵は勉強もスポーツも出来るから、そんな子供は中々産まれないわよ」
「お母さんの子供は勉強が凄いな、高校の問題を楽々と解くらしい」
「あそこまで、賢いと恐いわね、多恵位で丁度良いわ」と言う凜香。
多恵もこの頃ようやく、勝弘は自分と全く同じで前世の記憶を持って居ると思っていた。
元々頭は良くて勉強は出来たと話していたから、その彼が本気で勉強するとこの様に成るのだと思っていた。
だが、それは口には出せない、話した時に統べての事を忘れると産まれた時に教えられた事を守っている多恵だった。
小菅恭子もホームセンターを退職して、子守の準備で三人目の誕生を待ちわびている。
長女の多恵が余りにも人並み外れた能力を持っていたので、三人目に大いに期待している。
三人目も女の子だと既に聞いているので、多恵の半分でも良いのでとの期待だ。
「多恵は私が面倒を見たからよ」と祖母の久が自慢すると、祖父も負けてはいない「水泳を勧めたのは私だよ、兎に角お金を使っても良いのでオリンピックに行かせる」と資産家の小菅庄一は大いに張り切っている。
小さな子供に約六十年の人生経験を持たせると、この様に成長して行くのか?二人の神童は天使様の言葉を信じて、前世を反省して自分の好きな事、失敗を改めて成長していった。
弟の健次は「いつもお姉ちゃんと比べられて、僕は困る」と拗ねる。
凜香が「多恵姉ちゃんは特別な子供よ、健ちゃんとは違うのよ」と宥める。
凜香は生まれてからの事を考えて、先日香里と色々と話をしていた。
子供が宿った経緯、急に結婚に成った事、母の香里と同時に生まれた事実、生まれてから二人の子供の目を見張る成長。
香里も「勝弘ね、昔の歴史ももの凄くよく知っているのよ、まるでその時代に生きていた様にね」
「多恵も同じよ、水泳も人並み外れた能力だけれど、それ以外の歴史ももの凄く豊富に知っているのよ、特に昭和の四十年から五十年の話しなんて、その時代を生きた様に話すわよ」
「勝弘はもう少し後の話は得意よ、何処で見てきたのか判らないけれど、記録映画とか資料であの様な話しは出来ないわ、私より少し年上の時代で、子供だったから記憶がはっきりしてないのよ」
「二人共変わっているのは確かよ」
「同い年だから、仲が良いのは判るけれど、二人が揃った時の昔の話って、側で聞いていたら鳥肌物よ」この二人の話しの通りにそのまま成長する。
数年後次々と記録を塗り替える多恵は、日本の水泳界のホープとして時期オリンピック候補に内定を受ける。
一方勝弘は天才の異名を貰い、いつもクラスではかけ離れたトップの成績、全国の有名校からの誘いを断り、地元の進学校に進む。
それは両親の事を考えていたのと、勝弘は近くに多恵がいる事が心の安心に繋がっていた。
それは多恵も同じで、地元を離れる事を極端に嫌うのだ。
遠征、旅行には二人共行くが、両親と蘇りの相棒勝弘の側を離れないのだった。
お互いは話をしないが、天使様との約束を守っている事が良く理解出来たから、もしもどちらかが総てを忘れた時に助けようと考えていたのだ。
多恵はオリンピックの出場確定だったが、選考会の大会の時、急に体調を崩して急遽参加を見合わせる。
関係者も家族も落胆に成ったが、選考会が終わると急に体調が戻って、何事も無かった様に成って安堵したのだ。
その後も、オリンピックに出場する事はなく、多恵は水泳の競技生活から引退、念願のデザイナーの仕事を始める。
祖父母は二度目のオリンピックの選考会のレース直前に、相次いで他界した。
多恵が自分は過去から来た人間だから、神様がオリンピックに出場させないのだと、その時始めて悟った。
その後は生涯独身で、九十歳の長寿で亡くなるまで現役デザイナーとして活躍をした。
勝弘も東大でも何処の大学でも行けるのに、地元の国立大学の大学院まで行って、教授まで登り詰めて八十歳の生涯を閉じた。
二人は神様の悪戯で亡くなって、人生を二度生きた事に成った。
二度目は前世で出来なかった事を、思い切り生きた人生。
勝弘も生涯独身で、晩年は唯一の友人多恵と語らう日々が多かった。
天使様が、二人に残りの人生をやり直させたので、子孫を残す事も歴史に残る事も出来なかったのだ。
弄んだ二人の神は楽を出来ると思ったが全く仕事が無く、こんなに苦痛な場所はもう絶えられないと日々天使様に許しを願っていた。
完
2016.03.01
神々の悪戯 杉山実 @id5021
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます