第239話 飛び入り参加
パン屋でなくても私の朝は早い。
今日はクライン様たちと約束したお茶会を開く。
場所は『常闇の炎』のティーサロンの個室にもなる従業員控室だ。
去年、工芸の授業を取っていたみんなを招待したのでクライン様とダイナー様にはおなじみのところだ。
学校のどこかをお借りしようかとも思ったが、私がクライン様を招くなんてことが多くの方に知られるのは困るし、クライン様目当てで飛び入り参加しようとする方もいるかもしれないからだ。
貴族に初めから招待されていたなんて顔をされたら、私には断れない。
もちろんクライン様とダイナー様だけでは噂になってしまうので、ソフィアにもお願いしてきてもらうことになった。
今日のお茶会は昼食付の物だ。
ソルちゃんが私のご飯が食べたいという希望だから。
なので人間たちのテーブルとは別に従魔たちのテーブルも用意してある。
お茶会の準備を終えたので、私も着替えることにする。
今日着る服はドレスではない。
ラインモルト様から頂いた礼服だ。
その中でも地味目で貴族過ぎないものをチョイスする。
この国トップクラスの本物の貴族と聖女の前で、貴族風の姿になるなんて恥ずかしくてできない。
1台目の馬車が到着する。
簡素で貴族の物にしては華やかさに欠けるが、質実剛健が旨とされるクライン家のものだ。
御者が降りて、ドアを開ける。
まずダイナー様が降り、肩にソルちゃんを乗せたクライン様が現れた。
「ようこそお越し下さいました。クライン様、ソレイユ様、ダイナー様」
「エリー君、お招きありがとう」
(エリーのおちゃかい、ソルたのしみー)
「トールセン、お招きありがとう。今日は世話になる」
私は皆さまを会場に案内した。
そちらにはドラゴ君とモカとミランダとモリーを配置。
彼らも
クライン様とダイナー様の接客は、『常闇の炎』の接客リーダーで指導も行うカノンさんにお願いした。
「任せといて、エリーちゃん。私は奥様の遠縁の王族の世話もしたことあるから」
たのもしいお言葉です。
学校に問い合わせたところ、お茶会にプロのメイドさんを使っても差し支えないとのことだ。
貴族なら調理やサーブなどしないで、社交がメインだからそうなるよね。
カノンさんは元々貴族宅でメイドをされていた。
平民ながら王立魔法学院の侍女・メイド科を首席で卒業して、特別に入れた上位貴族の屋敷だったそうだ。
そこの奥様は王族につらなる血筋だったらしく、なかなか苛烈な指導を受けたという。
だが主人である伯爵が賭博に狂ってしまい、借金で爵位を召し上げられてしまったのだという。
カノンさんは突然の解雇に紹介状をもらうことが出来ず、就職先がみつからなかったそうだ。
ちなみにカノンさんよりも仕事のできない、でも貴族出身の人は全員就職先があったんだって。
すごくヤな感じです。
でもカノンさんは前向きで、冒険者クラン『常闇の炎』にやってきた。
今は狼獣人のサイモンさんと結婚して、かわいい子供もいる。
平民の使用人にだけ冷たい仕打ちをしたのは嫌だけど、カノンさんや『常闇の炎』にとってはよかったのだ。
次の馬車が来る。
白に金の装飾だけど、前にエドワード王子の迎えの馬車よりはずっと落ちついたデザインの馬車だ。
これは教会の訪問用の馬車だ。
招待した私は平民だからこれほどの馬車である必要はないけど、同じ招待客にクライン様がいらっしゃるからだろう。
馬車が止まったのでソフィアを出迎えに前に出ると、司教服に身を包んだ銀髪の男性が降りてきた。
誰だかすぐわかった。
金と紫のオッドアイだったからだ。
そうか、出自が公爵家だからもう司教様なんだ。
オスカー様のエスコートでソフィアが降りてくる。
「エリー、お招きありがとう」
「ようこそお越しくださいました。ソフィア様……」
そっとオスカー様の方に目線を送る。
オスカーさまがそれを察して返事をしてくれた。
「突然の訪問を許してほしい。俺は国教会司教のオスカーだ。普段は祓魔士をしている。ぜひ君に会いたくて聖女ソフィアにお願いして連れてきてもらった」
きっとレオンハルト様の一件だな。
「ようこそお越しくださいました。オスカー様。それではこちらにどうぞ」
どうぞといったけれど、私の頭の中は茶会の算段でいっぱいだ。
普通のお茶会なら、席とティーカップの用意だけでいいが今日は食事つきだ。
私は人間の皆様とご一緒しようと思っていたが4人席なので私の席にオスカー様に座っていただけばいいけど、ホステスの私が違う席に座るのは困る。
他にも問題がある。
モリーのことだ。
他の御三方はご存じだけど、私がモリーを従魔にしていることをあまり他の方に知らせたくないのだ。
何らかのことで漏れたら、ローザリア嬢に目を付けられるかもしれないからだ
でもモリーだけ席を外させるのはかわいそうすぎる。
今日も一生懸命お片づけを手伝ってくれた。
もうソルちゃんと遊んでるだろうし、今から引き離すなんてできない。
うん、モリーのことは内密にしていただくように、オスカー様にお願いしよう。
招待していない客を受け入れたのだ。
そのくらいお願いしてもいいはずだ。
するとオスカー様の飛び入りを察したカノンさんが急遽サロンの広めの部屋を確保して大きな丸テーブルを用意してくれた。
上座にはオスカー様だ。
司教で公爵家のご出自だからだ。
その横にはクライン様とソフィア。その横に私とダイナー様が座る。
従魔たちには別テーブルだが同じ丸テーブルを置いてくれた。
カノンさん、助かります。
やっぱりできる方は違います。
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第八章にしようと思っていたのですが、前回の終わりすぐに直結しますし事件がまだ終わっていないので続きにすることにします。
続きになりましたので、登場人物紹介はSS置き場の方に移動しました。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054897497008
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054897497147
今回の話は300万PV感謝記念SSとは別物です。
あれは同じ人たちだけど、本編とは別の異世界ってことでご納得くださいませ。
ちなみにご参考までにSSのURL貼っておきます。
〔300万PV感謝記念SS〕
もし異世界で新型コロナウィルスに似た病気が流行ったら(前編)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054896087759
もし異世界で新型コロナウィルスに似た病気が流行ったら(中編)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054896090768
もし異世界で新型コロナウィルスに似た病気が流行ったら(後編)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054896162480
番外編「私の宝物」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054896207698
どうぞよろしくお願いいたします。
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