第240話 魅了の魔道具

 お茶会は特に問題なく進んでいった。


 私にお茶会用の食事を指導してくれたのはルードさんだ。


 まず前菜に出したホワイトアスパラガスのポタージュ。

 とてもおいしい春野菜だ。

 ゆでてポーチドエッグを乗せるか悩んだが、スープを出したかったのでこれにした。



 次にコメという東の国からやってきた穀類をスープとチーズで炒め煮して水けを飛ばしたものを両面焼いた。焼きリゾットというらしい。

 上にサラダとエビやホタテをドレッシングで会えたものを乗せる。

 ソフィアの眼がキラキラしてる。エビとホタテっておいしいよね。


 これも最近ルードさんが私の誕生日の準備以来、海での漁にハマっていて新鮮な魚介が手に入るからできる料理だ。

 ニールには海がなかったから王都に来て食べるようになったけど、魚介って本当においしいです。

 いつか海に行きたい。



 それから肉料理。ミノタウロスのパイ包みを用意した。

 これはみんなが狩りに行って取ってきてくれたんだ。

 お肉の表面を焼いて余熱で火を通し、オークのハムで巻いてからパイ生地で包んで焼き上げる。

 赤ワインで作ったソースを添えれば出来上がりだ。

 見た目がよいので大皿に盛って、皆様のお皿に私がサーブした。

 我ながらしっとりと焼けている。旨い。


 オスカー様はこのパイ包みおかわりされた。気に入っていただけたようだ。




 オスカー様は市井でご活躍のせいか、大変気さくで面白い方だった。

 主にクライン様と話されていて私とソフィアとダイナー様は聞き役だ。

 だんだん話がオスカー様のお仕事についてになった。

 魔獣討伐と呪いの解除が多いそうで、呪いの種類は二つに分かれるそうだ。



「呪いには誰かが呪いをかけるか、誤って自分で呪いにかけてしまうかなんだ」

「自分でかけてしまうとは主にどういったことですか?」

「一番多いのは家族が呪いの魔道具を所有していて、そのことを伝えていなかったために誤って触って呪いにかかってしまう場合だ」



 ダンジョンのドロップに時々呪いのかかった魔道具が出てくる。

 使わなれけば所有することは可能だ。

 解呪やコレクター向けなら身分証明書を見せて、名簿に名前を記入したら購入もできる。


 

「一番多いのが魅了系だな。好きな相手を魅了して自分の物にしたい。

 しかしこの魔道具がくせもので手放すと効果がなくなってしまうんだ。

 このタイプに割と多いのが1度目は魅了されるんだが、2度目に同じ相手に使うと憎悪になってしまうんだ。


 俺が解呪したものに格上のモテ男と結婚したいと思っていた女がその魔道具を使って結婚。その後子供にも恵まれるんだが何らかの理由で夫が知らずにその魔道具に触ってしまい、呪いにかかってしまうんだ」



 精神に作用する魅了はスキルと同じく魔道具も禁止だが、裏取引で買う人が後を絶たないのだという。


「魔道具を使われていたことが判明していた時点でそうなるような気がしますが」

 うん、クライン様の言うことはもっともだ。


「離縁は確実だが、恨みつらみが倍増されるみたいで虐待や殺人に至ることもある」

「まぁ、なんて恐ろしいんでしょう」

 ソフィアが虐待や殺人と聞いて目を見張っていた。


「なぜ魅了の後に憎悪の呪いにかかってしまうんでしょうか?」

「推測だが「好き」という感情を無理に作り出すために憎悪の部分に感情が行かないようにしているんじゃないだろうか?」

「なるほど。感情のせき止められていた部分が外れて、今までなかった憎悪に気持ちがあふれてしまう。河川の氾濫のようなものですね」

「そういうことになる」


 オスカー様はつづけた。

「興味深いことに魅了の魔道具を使われると判断力が鈍るらしくて、以前よりも経済状態が悪くなっていることが多いんだ。

 だまされたり、おかしな投機に手を出したりね。

 その辺も関係しているかもしれない」


「まぁ格下の相手と結婚している時点で、婚姻による有利な立場になることを放棄している訳ですから、そうなるのは必定ですね」

「その通りだ。だから仲の良い婚約者がいるのに突然婚約破棄して格下の女と電撃結婚なんて魅了を使われている可能性がある。すべてとは言わないが」


 オスカー様はクライン様の方を見てフッと笑った。

「君が一番あの魔道具を使われそうだね」

「御心配には及びません。私への精神攻撃は私以上の力がない限り効きませんから」

「その心配はしていない。むしろ相手の方が気の毒だ」

「そのようなもので人を操ろうと考える人間など排除されて当然ですから」



 なんだか物騒な話だな。私のお茶会でそんな話しないでほしい。

 従魔たちのテーブルを見ると和やかで楽しそうだ。

 会話はない。彼らは心話で話している。

 心話できないけど、私もそっちに行きたいです。



 食事が終わったのでお茶菓子だ。

 肉料理までがっつり出したので、スコーンやサンドウィッチのような腹持ちのよいものは出さない。

 代わりに生菓子を出した。

 果物とアイスクリームをあしらったカスタードプディングだ。

 ユーダイ様の残したレシピ集のプリンアラモードというお菓子だ。

 アイスクリームで口が冷えるので、卵白でつくるラングドシャというクッキーを添えた。

 皆様がおいしいと笑ってくださっているので作ったかいがあります。



 本来はウエハースとユーダイ様の絵には描いてあるのだが私もルードさんも食べたことがないので再現できなかった。

 でも今はモカがいる。

 ルードさんがいつも通り真剣に聞き取りしていたが、

「なんか表面が凸凹でこぼこしてて、サクサクなんだけどちょっときしっとしてるというか、それを薄焼きにして重なってて、クリーム挟んでて……、あと小麦粉じゃない感じ!」


 サクサクだけどきしきししてるって、わからない。

 粉の配合が特殊なんだろう。

 よく考えればお菓子への情熱のすごいユーダイ様も再現してないもの。

 とにかく再現の難しいお菓子なんだろう。


 ソルちゃんはプリンアラモードを食べにくいかなと思ったら、意外と器用に食べていた。

 くちばしですくってつるつると飲み込む方式だ。

 食べにくくて残ったところはモリーが食べていた。

 お茶会マナーとしてはよくないのかもしれないけど、皆さん気にしていないようだ。



 あとオスカー様に何か尋問を受けるのかと思ったのだが、そういうことはなかった。

 ただフルート演奏を希望されて、楽器まで持ってきてくださったので皆様に披露した。

 オスカー様はいったい何をしたかったのだろう?



 私の演奏でお茶会は終了した。

 帰り際、ソルちゃんがもう少し遊びたかったみたいで私の袖の中に入ってきたが、クライン様に帰るといわれてしゅんとしていた。


「来週クライン邸に伺うことになっているのですが、みんなを連れて行っていいですか?全員では多いならせめてモリーだけでも。ソレイユ様の遊び相手になってくれると思います」


「そうだね、モリー君だけならいいだろう。すまないね。みんなに来てもらいたいがエリー君にはクライン家の従者の心得を学んでもらわねばならないから」

「トールセン、クライン家は実力主義だ。君なら問題はないと思う」

(エリー、みんな、またあそぼーねー)

「突然の訪問を受け入れてくれてありがとう。レオンももう少ししたら教会に戻ってくるのでレッスンを続けられると思う」



 そういって男性方は帰って行かれた。


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 モカのいうウエハースはコーンスターチベースの白っぽいもの。

 ちょっときしっとしますよね。

 さすがに作ったことはないですが、今回調べたら生地の配合が載っていたのでいつか作ってみたい。問題はどうやって薄焼きするかだな。

 むむむ。これだけのために薄焼ワッフルメーカー買うのはハードル高いなぁ。


 そう思うとユーダイが作らなかった理由がわかる気がします。


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