第238話 春休みに入って


 試験がおわったので学校は春休みに入った。



 今回の休みは王都で仕事をしようと思っている。

 ロブとも会う約束しているし。

 ああ、クライン様の話をした方がいいんだろうか?



 マリウスはアシュリーと騎士学部の面々と訓練、ジョシュは実家の手伝いだそうだ。

 またエドワード殿下に引っ張りまわされるんじゃないかな?


 他の生徒のことは知らないが、ティムセンさんからは私の恋を応援していると言われた。

「トールセンさんってやっぱりすごいわよね。

 その、あの子からバートさんはすごく気難しいって聞いていたのに」

 あの子と言うのは、マルトのことだろう。


「私はマリウスが好きなの。だからお互いの相手に手を出さないことにしようね」

 うん、そういうことですね。

「マリウスは私みたいなガサツなのより、女の子らしいティムセンさんの方が好みだよ」

「よかったぁ」



 ティムセンさんはご機嫌だ。

 訓練のない日にピクニックに行く約束をしているんだそうだ。

 例の恋人たちの丘らしい。

 マリウス、意味知らないんじゃ……いや、そこは言うまい。


 それからマリウスの好物ともう私のお弁当を作らないのか聞かれた。

 マリウスは肉とイチゴジャムが好きです。

 私のお弁当は当分作らないというとティムセンさんはがっかりしていた。

 よっぽど食べたかったんだな。


 それで来年も同じクラスなら時間があるときに料理を教えることになった。




 それから3日後に、卒業式が行われた。

 私は出席しない。

 1年生の最優秀生はクライン様がなったから。

 それで各学年の在校生の挨拶はクライン様がすることになった。

 未来の王の近習に祝いの言葉をもらう方が皆様にとってもよかったと思う。


 それでその日はお世話になった方々に、お菓子とドラゴ君人形を作ってプレゼントすることにした。

 その人形の服にモカとミランダとモリーと卵を刺繍する。

 モリーと卵のことは皆様にちゃんと紹介してないけど、家族だからね。



 リリー寮長たちのラストティーは、モカ曰く『ドラゴ君ファンイベント」になっていた。


 あっちむいてホイという、異世界のゲームで勝負するという。

 ゲームで勝利した人がドラゴ君を膝の上に乗せる権利を獲得できるということで、皆様の闘志の熱さがちょっぴり怖かった。

 しかもリリー寮長は決勝戦で負けてしまい、泣いてしまった。


 するとドラゴ君が、

「リリー泣くなよ。せっかくの美人が台無しだ」

 涙をハンカチで拭いてあげると、またもや皆様のハートを鷲掴みにしたようだった。



 私のドラゴ君人形も皆様に喜んでもらえた。

 モカが「エリーが作れば公式グッズだもんね」と私にだけ聞こえるようにいう。

 なんの公式?


 ファニー先輩がそれを見て、

「来年は是非ミラちゃん人形を!」

 はい、お任せ下さい。


 そしてファニー先輩はミランダを撫でようとして軽く猫パンチされていた。

 でもそれが嬉しいみたい。

「あの人、Mね」とモカが私に言う。

 後で意味を教えてもらうと、とても納得した。



 先輩たちが出るので、私も寮の部屋を片付けるべきだとカンザスさんに言われた。

 そうか、来年は一人部屋じゃないかもしれない。

 従魔たちみんなにそういうと残念がっていたが、その時は従魔舎に入ることにするとドラゴ君が言った。


 それでニコルズさんに言って、従魔舎の空きスペースを振り分けてもらうようにお願いすると、他の方の従魔たちが微動だにせずドラゴ君の様子を伺っている。

 彼はものすごく強いから、みんなが従ってしまうのだ。


 その様子を見たニコルズさんは、

「これでは他の従魔たちが休まりませんね。トールセンさんはそのまま屋根裏にいてください」

 ありがとうございます。

 ドラゴ君、様様です。




 卒業式の翌日、クライン様が執務室の片付けをされるので私も手伝いに行った。

 次はもう少し大きな部屋になるので、お引越しだ。

 運ぶのはクライン家の召使の方々で、私はソルちゃんのお相手だ。



 ソルちゃんがひよこになって私の膝の上でモリーと戯れていると、一人の黒いお仕着せの老人に声を掛けられた。

 私が立ち上がろうとするのを、制止して言った。


「あなたがエリー・トールセンですか?」

「はい、そうです」

「私はローグ、クライン家の家令です」

 つまり、クライン家の家向きを取り仕切っている方だ。

 私は座ったままお辞儀した。


「リカルド様とダイナー殿からあなたの仕事ぶりに問題はないと聞いていますが、一度確認したいのでクライン邸に1週間後来なさい。いいですね」

 断れる感じではなかったので行くことになった。


 この作業が終わった後、ロブと会う予定だったが急用ができたとレターバードが届き中止になった。

 寂しい……。

 それで私の予定のある日を書いて、次会える日を決めてほしいと返信した。



 夜になってから私はドラゴ君と一緒に裁縫ギルドに向かった。

 今日は1級裁縫師の試験日で、結果が発表されるからだ。


 受験2回目だから合格はしていないだろう。

 明日の朝、ソフィアに会うのでドレスを引き取りたかった。


「それでは発表します。今回の1級裁縫師合格者はカルロ・モレル。おめでとう」

「ありがとうございます」

 4回目の受験の男性の方だ。前にも会った。

 南国の人で大胆な色づかいが面白いデザインをするヒトなんだ。



 大体一人しか合格しないので、みんなが立ち上がろうとすると裁縫ギルドマスターのキャッスルさんが声を上げた。


「まだ発表は終了していません。今回はもう一人、合格者がいます」

 みんながえっ、いう顔をして座りなおした。


「今回の合格者は他にはないとても個性的な作品を作り上げてくれました。

 カルロは出身の南国の色彩を生かしたもの、もう一人は古代の遺跡の研究からデザインを起こしました。

 エリー・トールセン。おめでとう。あなたがもう一人の1級裁縫師合格者です」

 周りがざわついた。



「本当に?私がですか?」

 1級裁縫師は4,5回試験を受けなければ受からないのだ。


「少ない回数で受かる人も稀にいるのですよ。

 あなたのところのビアンカとターシャもそうでした。

 私たちは何物にも忖度そんたくしません。あなたは実力で勝ち取ったのですよ」


 胸がいっぱいになった。

 信じられない。今日はドレスを引き取りに来ただけのつもりだったのだ。



「1級に上がったとはいえ、あなたはまだ11歳です。成人するまでは店を開業することは許しません。『常闇の炎』で修練を積むことです」

「ありがとうございます。精いっぱい頑張ります」


 まだ見習いだけど、これでソフィアにあのドレスを着させてあげられるんだ。

 よかった。

 ソフィアのためにやってあげられることが出来たのだ。




 ヴェルシア様、今まで私はたくさんのスキルがあることを有難いとは思いこそすれ、嬉しいとは思っていませんでした。

 身の丈に合わない力は時に私を苦しめていたからです。

 知りたくない嘘に気が付いたり、人を殺めてしまったりもしました。


 でも、でも今日は本当にスキルを授かっていてよかったと思います。

 ヴェルシア様のお導きに深く感謝いたします。






 ◇



 男が地下の石段を下り、鉄製の扉を開けた。

 フード付きのローブを着た魔法士が目の前の巨大なガラス容器を見つめている。


「どうだ?」

「アスラか。シャドウブラックマンバではやはりちょっと弱いな」

「この間のグリフォンがベースならまだよかったんだが」

「ないものは仕方がない。平民がギーブルとカーバンクルを従えていると聞いたんだが手に入らないか?」

「カーバンクルの方は、魔王の手下だ。グリフォンの時と同じになる。

 狙うならギーブルだな」



 男たちの目の前には大きなガラスの容器に入った液体に浮く魔獣がいた。

 錬金術でロックグリズリーの特殊個体とシャドーブラックマンバを掛け合わせたキメラを作ったのだ。


「完成すれば人間どもを恐怖と滅亡に導くだろう。楽しみだ」

 男たちは昏い笑みを滲ませた。


「早速ギーブルを手に入れよう。そのまま育ててもいいが時間がかかるからな」

 アスラと呼ばれた男は嗤い、そして姿を消した。



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いつも執筆に使っているPCが壊れてしまい、修理に出しています。

直ってから第8章に取り掛かりますので、しばらく休載いたします。

今しばらくお待ちいただけますよう、よろしくお願いいたします。


4/28 現在もPC故障中ですが家族から借りてます。

300万PV感謝記念SS

もし異世界で新型コロナウィルスに似た病気が流行ったら(前編)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054896087759


よろしくお願いいたします。



4/28 17:00(中編)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054896090768


4/29 17:00 (後編)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054896162480


よろしくお願いいたします。


本編はこのパソコンで書くのは怖いので戻ってからにします。


4/29追記

番外編「私の宝物」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054896207698

4/30 17:00にアップします。


これでまた休載です。

ごめんなさい。


どうぞよろしくお願いいたします。

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