(番外編)私の宝物
モカが、薬草を育てにシークレットガーデンに入っている時だった。
私は薬の調合を終え、粉薬を紙に包んでいた。粉の方が日持ちするからだ。
インフル風邪の薬はこのまま飲んでもいいし、これを煮だして薬湯にしてもいい。
それを見ていたミランダが少し悲し気に鳴いた。
「どうしたの? ミラ」
「みぃ」
私は考えた。
「病気のせいでお外に出られないから悲しいの?」
「み~い」
違うみたい。
「ドラゴ君やモリーみたいに働きたかったの?」
「みゃ」
ちょっと近づいたみたい。
「うーんなんだろ?」
するとミランダは私が薬を包んでいた紙に触ろうとした。
でも触らなかった。
「薬包むの手伝いたかったの?」
「みゃ!」
「いっぱい手伝ってくれたじゃない。乾燥も粉々にもしてくれた」
「みゃぅ」
ミランダはうつむいた。
なんだろう、この感じ。自信なげで心配している?
ファニー先輩の前の美猫ミランダじゃないみたい。
もしかして、治療や薬草づくりを手伝ってないから?
「まさか、まさかと思うけどミラはもしかして自分が役に立ってないと思ってるの?」
ミランダは顔をあげてきれいな緑の眼を光らせた。
でも喜びの光ではない。
わかってくれたーというのと、知られたくなかったというのと相反する気持ちがあったからだ。
「ミラ」
私はミランダを抱き上げた。
「みゃーぅ」
「あのね、ミラはものすごく役にたってるんだよ。世界平和だよ」
「みゃみゃ?」
「存在してくれるだけでいいの。
ミラが生まれてきてくれた時にこんなに愛おしい存在があるのかって思ったもの」
「にゃーぅ」
「そんなんじゃないって?
そうだねぇ、ミラがいなかったら多分もっと大変だよ。例えばドラゴ君とモカ」
「にゃ?」
「2匹はもちろん仲良しだけど、きっちりしているドラゴ君とちょっとルーズなモカは合わない時がある。
ほら順番守らないって時々ドラゴ君怒ってるでしょ。
ミラが間にいるから素直になれるの。かわいい妹の前でケンカしたくないから。
2匹が本気でケンカしたら天変地異かもよ。
だからミラは世界平和を守ってるの」
「みぃ」
「それにね、ミラに触れているとものすごく癒されるの。
モリーの癒しとは違うの。
なんだかね、心の中がポカポカするのよ」
「みゃー!」
今日はとてもよくミランダの気持ちがわかる。
心を開いてくれてるんだ。
でもなにと同じなんだろう。
「それにミラがいないと、私腐っちゃうかも。
ミラが守ってくれるんでしょ」
「みゃう!」
やるのー!って聞こえたような気がする。
心話、本当にできてきたかも。
「私、ミラがいないと寂しい。
ミラが元気ないと悲しい。
その逆でミラが楽しいなら私も楽しいし、ミラが私の料理を気に入ってくれたらすごくうれしいの。
そしてそう素直に思える相手がいることは、本当に幸せなの」
「にゃ」
「ミラは私が初めて卵を孵した子なの。
私の初めての子どもだよ。
ものすごく大事だよ。
そんな私の宝物が自分を大事にしないようなことを言わないで。
ミラが自分を大切にしないと、私のミラへの気持ちも否定することになるの」
「みにゃ~う」
チガーウって言ってる。
「違わない。だって私の宝物が自分は宝物じゃないって言ってるんだもの。
でもいくらミラが否定してもミラは私の宝物なの。
だからミラにも宝物だって自覚してほしいの」
「みぃ!」
「不思議なことにこの宝物はどんどん増えていくの。
ドラゴ君もモカもモリーもそうだし、これから孵る卵の子もそうだよ。
私は宝物がいっぱいそばにいてくれて幸せなの」
「みっ!」
「だからミラは自信を持っていいの。
ほかのだれかと比べたり、同じようになろうとしなくていいの。
ミラはミラのまま、すくすく育ってくれればいいの」
「にゃ~う」
うふふ、よかった。わかってくれたみたい。
ミランダは私の腕の中でいつもより甘えるように丸まった。
「そろそろモカの様子、見に行こうか?
なにか手伝えることあるかもしれない」
「みっ!」
シークレット・ガーデンの扉を開けると、モカが疲れて眠っていた。
寝言でケーキの話をしている。
「ミラ、モカのためにケーキを作ろう! 手伝ってくれる?」
「みゃう!」
「ミラが小麦粉やお砂糖をさらさらにして入れてくれるとすごくおいしくなるの。
元よりもさらに細かくしてくれてるからだよ。
ミラは私が言わなくてもそれをやってくれるなんてすごいね」
「にゃう」
あたりまえなのって言ってる。
私も当たり前ってよく使うけど、今回の病気のことで当たり前って当たり前じゃなかったんだってよくわかる。
当たり前って思っていたものが奪われることはとてもつらい。
普通にお出かけして、学校行って、友達と喋って、笑って、遊んで。
図書館で本を読んで、お店で買い物して、知り合いに会いにいくことだって。
こんな何でもないようなことが今は出来ない。
寮の皆様もイライラしている。
隣の部屋にも遊びにいけないなんて辛すぎる。
でも寮はまだましだ。
食堂で友達の顔ぐらいちらりと見られる。
おしゃべりは禁止だけど。
声楽をやっている先輩が窓を開けて歌ってくださったときは素敵だったな。
騎士学部の楽士の先輩方の演奏も。
私もフルートを持っていれば参加できたのに。
レターバードの魔法が出来なかったのに上達したって方もいる。
同室の友達しか会えないから寂しくて、必死で練習したらうまくなったって。
王妃様発案のマスクをたくさん作った方もいたし、買ったけど読めてなかった難しい本を読破したり、絵を描いたり、庭の花壇の手入れをしたり。
寮の掲示板にこうやって過ごしてるってみんなでアイデアを出し合ってる。
同室の人とケンカしちゃっても、掲示板に相談したらみんながアドバイスして、掲示板越しに謝って仲直りしたって話もある。
そうやって何とか乗り越えている。
普通に暮らせることが、こんなに簡単に崩れるとは思っていなかった。
それでも私は側にいてくれるかわいい宝物たちと暮らせている。
小さな喜びが本当に心に沁みる。
この喜びを感じられる日々も私の宝物。
今回の病気はそれに気づくようにってことなのかもしれない。
ヴェルシア様、私は幸せです。
私にこれほどの奇跡的な幸福を与えてくださり、心から感謝いたします。
(番外編 私の宝物 終)
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ミラの
エリーとミラはすごく似ていると思う。エリーも謙虚ですからね。
これ以降は小説以外読みたくない方は、ブラバしてください。
2021/7/2追記
ワクチンが医療関係者や高齢者以外にも接種できるようになりましたね。
職域接種なども始まって、大学や職場でも打てるようになったところもあります。
今はワクチンが足りなくなっていますが、各製薬会社も頑張って作っているようだからいつかは回ってくると思っています。
私はチャンスがあったら、ワクチンを接種しようと思っています。
理由は3つ。
1,ワクチンを接種すると新型コロナウイルスにかかりにくくなる。
2、ワクチンを接種すると、もし感染しても重症化を防げる可能性が高い。
3,ワクチンを接種することで、ワクチンを接種できない子どもや病気などの理由で接種できない人に感染させにくいようにできる。
私は健康なのでワクチンを接種するつもりですが、それを他の方に無理に摂取しろと勧めるつもりはありません。
ワクチンを接種しても、完全に感染を防げるわけではありません。
だから受けてもマスクも手洗いも、出来るだけ密にならないも続けていきます。
ワクチン自体が完璧に安全というわけでもありません。
受けた方に脳梗塞が起こるという事例もあり、持病で梗塞が起こりやすい方など、主治医と相談しなくてはいけないです。
持病がある方に無理をしてほしいとは思っていません。
それに新しいお薬なので、まだまだわかっていないことが多すぎる。
これから先何か起こるかもしれません。
その可能性は否定できない。
だから怖いなと受けたくない方の気持ちも理解できます。
でも私は検討した結果、自分が感染者となってウイルスを広げてしまうくらいなら、ワクチンを接種してそのリスクを最低限にしたいと思っています。
呼気に含まれるわずかな唾液でも感染する可能性があるのです。
最近ではそれをエアロゾル(マイクロ飛沫)と呼ばれています。
生きていくには、呼吸しない訳にはいきません。
誰とも会わないで生活するのも難しいです。
勉強や仕事をしていればなおさらです。
出来る限りたくさんの人がワクチンを接種して免疫が出来れば、受けられない人を守ることが出来ます。
例えば10人中9人が受けて免疫が出来れば、残り1人が受けていなくても周りがウイルスを運んでこないのでかかりにくいし、もしその1人が感染しても周りに免疫があるので広がらないということです。
こういうのを集団免疫と言います。
もしあなたが健康でワクチンを受けるチャンスがあるのなら、受けることで大事な人を守れて社会貢献ができるということを頭の片隅にでも置いてくださったらと、一筆書かせていただきました。
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実は私が一番書きたかったのは、この「私の宝物」なのです。
これを「もし異世界で新型コロナウィルスに似た病気が流行ったら」に組み込もうとしたのですが、うまくいかなくて思い切って別の話にしました。
今回のコロナ禍はみんな辛いです。
医療関係の方が頑張っているのに、自分は何もできない歯がゆさもあります。
せめてマスクを手作りして、買い占めしない、感染しないようルールを守るをしています。
でも本当にトイレットペーパーがなくなって、何軒も回って今まで買ったこともない高級なものしか買えなかったときは、ちゃんとやってる方が馬鹿を見るんだろうかと落胆もしました。
買い占める必要はないとあれほど言われているのに、いまだになくなるのが不思議すぎます。
それでも今回のことで何かいいことはないかって考えました。
私は今までの平穏な日常のありがたみを感じる時なのだと思ったのです。
お店に行ったらすぐに好みのトイレットペーパーが買える日常。
マスクやソーシャルディスタンスなんてしなくてもいい日常。
好きな時に外に出て、会いたい人に会って、行きたいところに行って、やりたいことができるそんな日常。
あれは平和で安全だからできたんです。
よく考えれば、住んでいるところが被災地や戦場だったら、今以上にもっと苦しみを背負わなくてはいけなかったんです。
食べ物もない、家もない、お風呂もない、娯楽もない、もっと直接的な命の危険もある、だったかもしれないんです。
今もお亡くなりになった方がいらっしゃいますが、もっとたくさんの大切な人を亡くしているかもしれないんです。
起こってないことなんか知るもんか! って思う方もいると思います。
私もこのことがなければ、ちらりと考えるけど流されていました。
だけどコロナ禍でちょっとはみんな考えようよって言われているのかなって思うのです。
このまま自粛が1年とかになったら、たくさんの会社が倒産して戦争でも被災でもないのに、食べ物もない、家もない、お風呂もない、娯楽もない、になるかもしれません。
自分を含めたもっとたくさんの人が病気や貧困で亡くなってしまうかもしれません。
幸いなことに不要不急の外出をしない。
やむ得ない外出時にはマスクとソーシャルディスタンス。
帰ったときや物を食べるときは手洗いを30秒以上しっかりする。
などをやれば新型コロナウィルスに感染しにくいんです。
それに感染してしまうと呼吸器だけでなく、免疫異常を起こしてほかの内臓を必要以上に攻撃してしまうという報告も上がってきています(NHKクローズアップ現代5/12放送分より)。
治療薬もはっきりと効果があるとされるものはまだみつかっていません。
かからないということが一番の予防策なんです。
終息にはまだまだ時間がかかりそうですが、少しずつ経済緩和もされて気が緩んでしまうころだと思います。
それでもひとりひとりが気を付ければ感染し辛くなり、新型コロナウィルスと付き合っていけるのではないかと思っています。
感染者数がまた増えれば本当に自粛1年になるかもしれません。
ちなみに1年というのはワクチンが開発されるのに必要な時間なので書きました。
一人でも苦しむ人を少なくして、元のあの過ごしやすい日々が戻ってくると信じて頑張りませんか?
それから感染した方々を非難するのはやめましょうね。
呼吸に含まれる唾液を吸い込んでも感染してしまう強力なウィルスなのです。
だから自分の唾液が飛び散らないようにマスクが推奨されているのです。
鼻まで覆わないといけないのは少しでもリスクを避けるためなのです。
(京大の山中伸弥教授は鼻からもウィルスがたくさん出ているとおっしゃってました。NHKスペシャル「人体VSウイルス」)
息をしないで生きていける人間はいません。
明日は我が身かもしれません。
自分が感染して攻撃されたら、自分の家族がいじめに遭ったらどんなに悲しいか想像してください。
説教臭くてごめんなさい。
でもどうしても書きたかったんです。
これがささやかな小説しか書けない私の思いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
さよ吉
7/18 追記
マスク着用の件ですが、できるだけつけた方がいいものの熱中症や息苦しさで危険を感じるなら外すことも考えてください。
ただしその場合、話をしないこととソーシャルディスタンスを心がけてください。
屋外ならソーシャルディスタンスを心がけて会話をしなければ、マスクがなくてもいいそうですが、屋内や近くで会話をする場合にはつけた方がいいそうです。
(NHK 「”可視化でまるわかり!新型コロナ対策の新常識」より)
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