この愛は永遠に
長かった様で、短かった。
彼女と過ごしたこの時間は、一瞬たりとも不幸せだと思うことは無く、毎日が幸せで、笑顔で彩られていた。
彼女の笑顔は、まるで太陽のようだ。いつも明るく元気に笑い、気がつけばそれに釣られて俺も笑っていた。
そんな俺を見て、彼女も笑みを作る。
幸せな日々。
「ふぁ…あぁあぁ…」
俺は病院の屋上で大きく欠伸をしながら、缶コーヒーを口にする。俺の着ている白衣が風で揺れる。
「疲れたかぁ…?」
横から話しかけてくるのは、大学時代の同期である和人。こいつも今や立派な医者だ。俺らはさっき、かなりの時間を有する手術を終えたところで、屋上で開放的な気分を味わおうとしていた。
「あぁ…流石に飲まず食わずのずっと立ちっぱなだったからな。親父こんなのしてたのかよ…マジで尊敬するわ」
医者というのは思ったよりも大変だ。勉強もしなくちゃならないし、手術なんかも始めてやった時はかなり緊張した。
だけど、人の笑顔を見れたり、とてもやりがいのある仕事だ。
「つか和人、お前まだ彼女出来てないのか?」
「ぶふっ!!空さん!?アンタ人の心抉りますねぇ!!」
26にもなって彼女が出来ねぇのは流石にヤバイんじゃ無いだろうか。和人は顔は悪く無いし、1番モテる…のかはわからないが、それでも女性から人気がある医者という職業なのに…なんで出来ないんだ?
「そろそろ考えとけよ〜」
缶コーヒーを口につけて余裕というものをアピールする。
「うるっっせぇ!!お前らみたいになぁ、上手くいかないんだよバーカバーカ!!」
「はっ、上手くいってて悪かったな」
鼻で笑ってへんな笑みを口元に浮かべる。
「ムッキー!!マジで腹立つ!!見てろよ!今にお前が度肝抜く彼女作ってやっかんな!!」
「残念ながら俺の嫁が世界一だからそんなのは無いわ」
「かはっ!!こ、これが…既婚者の余裕…」
コイツはいつまで経っても元気だな。
「おっ、定時だ」
腕時計に目を向けると、もうすでに5時を指している。つまり定時、俺らは仕事から解放されたぜ、ヒャッホイ。
「ってな訳で俺は帰るわ」
「おうおう帰れ帰れ!俺は1人寂しく過ごしますよーだ!!」
ワンルームの部屋で1人寂しくカップラーメンを食べる姿の和人を想像したら、なんか可愛そうになってきた。まぁ思うだけで特に助けはしないんだけど。
………
……
…
大学時代は、比較的金がかからないマンションで暮らしていたのだが、やっぱり好きな女には見栄を貼りたいのが男というもので、二十年のローンで一軒家を購入した。
その家の鍵穴に鍵を挿入して回すと、ガチャリとと解錠された音が聞こえる。
「ただいまー」
ドアを開き、いつものようにそれを言いながら玄関に入る。
すると目の前には、料理の時に邪魔だから、という理由で行うサイドテールに髪を纏めた婚約者の姿。
「おかえり空!ご飯にする?お風呂にする?それとも…わ・た・し?」
俺が帰ればいっつもこれを仕掛けてくる。3つ目を選べば顔を真っ赤にしてあわあわ言う癖に、それ以外を選んだら顔をむくれさせる。一体どうしたら…と悩んだ結果。
「お前と風呂入ったら全部解決じゃね?」
「うわっ、ここに天才が居たよ…」
驚いた様に口を押さえて大袈裟に仰天する。それに苦笑しながら、一緒にリビングに入っていく。
どうやらご飯を作っている最中だった様で、匂いから察するとシチューだろうか。しかも部屋も何処となく綺麗になってるし…。
「あんまり無理はすんなよ?」
「あはは!大丈夫だって!今日はつわりとかもあんま無かったから、なんか暇だったんだ〜」
本当に大丈夫なのだろうか、心配だ。もしアイツにもしものことがあったらと思うと夜も眠れなくなる。
「心配?」
やっぱりコイツには敵わない。直ぐに考えていることを見透かされる。
「まぁな…」
「ふふっ、私は大丈夫、空の愛情があるからね」
そう言って俺の首に腕を回し、お互いの顔全体が見れる距離で抱きしめられる。
「ねぇ空…」
「なんだ?」
「むぅ…最近なんか名前で呼ばれてない気がするからさ、名前で呼んでほしいなって」
好きかどうかの確認も、浮気をしないでほしいという願いも、コイツは一切口にしない。そんなことをしないと心の底から信じているからだ。
そんなコイツからの小さな願いを、俺は存分に叶えたい。
「アリス」
「んっ…」
ピクッ、と肩が反応する。手を絡めあい、欲望のままに従う。
「アリス、アリス、アリス、好きだ。大好きだ」
「ちょ、ちょちょ!! う、嬉しい!嬉しいけど心臓もたないから!!」
いつまで経ってもウブな、顔をリンゴのように赤らめて俺を必死に遠ざけようとする。
「ははっ、相変わらず、アリスは可愛いな」
この太陽の様な笑顔と、コロコロと変わる表情。そして俺を一心に思ってくれる心。そのほかにも数え出したらキリがない程、好きな部分はたくさんある。
「ふふ、そんな可愛い女の子と結婚できたんだから、空は今幸せなのかなぁ?」
俺が幸せかどうか、そんなの決まってる。
「幸せすぎて死んじまうんじゃねぇかってくらい幸せだ。こんな俺が好きな女に死ぬほど愛されて、そいつと結婚して家まで持って、挙げ句の果てには、子供まで待とうとしてるんだから」
本当に幸せだ。これをくれたアリスには、感謝してもしきれない。
「俺のことを好きになってくれて…俺の隣に来てくれて…本当にありがとう、アリス」
「その言葉、全部そっくりそのまま返すよ。私こそ本当にありがとう…ずっと…一生愛し続けるからね。空」
「あぁ、俺もだ。ずっと、ずっと愛してる」
俺達は額をコツン、と触れさせ合い、お互いに笑い合う。
幸せだった。
アリスと過ごした時間、全てが幸せで、楽しかった。それは過去も、現在も、そしてこれからも変わらないだろう。
俺達はこの先も、ジジイになっても、ずっと一緒に笑い続け、幸せになり続けるだろう。
その時のことを考えたら、自然と笑みが溢れるのだった。
【完結】10年ぶりに再会した幼馴染が、デレデレに懐いてきます スライム @5656200391
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