「ヒロイン☆ノットスカイ~魔法少女不在の空~」

低迷アクション

第1話

ヒロイン☆ノットスカイ~魔法少女不在の空~


 「ハイッ、海の中からコンニチハ!謎の怪生物がドーン!と上陸。今度の敵は

貝殻をひっくり返したような触手野郎だーっ、困ったなっ!?オイッ!!そして、

そのまま都市部を目指して進撃バリーンの奴さんときたぁぁっ!


飛び交う悲鳴、逃げ惑う市民、全く役に立たない俺達防衛隊!クッソウ、不甲斐ないぜ+

もう駄目だーっ!!


ウワァーッ!!と思ったら、悲鳴が歓声にっ!?振り向けば、そう!!我等が人類の味方、変身ヒーロー、ヒロイン!ちなみにウチの場合は魔法少女!!今はお昼時の陽射しを切って空から参上!!そう我らが救いの天使の…あっれ~おっかしいぞぉ~つ!?


鳥だっ!雲だっ!!魔法少女だ!!!っの!魔法少女がいねぇーっ!!

クッソウ、ウワアアアア(さっきの繰り返しデジャブ)」


長い前フリの後で、空に勢いよく振り向けた自身の手は、虚しく空を切り、この後、数秒後には怪獣の振り上げた触手によって、ノンビリした雲の漂う中を自分達、防衛隊の兵士が

勢いよく舞う事になった…



 「と言う事で、怪獣によって地上から50メートルくらい宙に舞った我が部隊48名の

隊員は奇跡的に全員、全治6ヵ月の怪我で済んだが、にっくき怪獣野郎は未だに都市部を進行中…ビルや家屋を壊し、住民を避難、恐怖のどん底に陥れている訳だ。」


昔、クマさん型怪獣と素手で戦い、その時受けた頬に走る3本の爪痕と本人曰く、


「あの時、ワシの右フックが決まっていれば、勝てたが、魔法の

お嬢ちゃんが助けてくれてな。」


と言っているけど実際は、かなりピンチの所を魔法少女に救われた防衛隊司令官“多賀司令(たがしれい)”が渋面を作り、勢いよく机を叩く。ここは防衛隊緊急対策室、負傷していない隊員全員が揃い“魔法少女不在の現状”を対策中である。


「現行の状況ですが、目標の正式名称は“ガタノゾア”と命名されました。恐らく今まで

現れた怪獣の中では最高クラスの全長と攻撃力を秘めている様子です。本会議前に入った情報によれば無人機による爆撃、重砲、ミサイル全てが効果はなく、同盟国である米国は

早くも核の使用を考えている様子です。」


「オイオイッ、いくら、魔法少女さんが出てこなかったからと言って、速攻すぎだろ?」


1人の隊員の報告に、周りの同僚達がざわめく。そう、今までは現れる怪獣を確かに倒せる未確認、不確かであるが、確実な対抗手段として彼女の存在が期待されていた。だが、出てこないとあっては早急に手段を講じなければいけない。政府、いや世界全体が焦っているのだ。


連中の気持ちも確かにわかる。怪獣と呼ばれる大小様々な人類の脅威が確認されたのは

1年前、兆候はだいぶ前にあったのかもしれないが、恐らく人間共は気づいてないのだろう。

未だに…


ちなみに最初に現れた1体は人間大の大きさの奴で、町をノッシノッシと歩き回り、

10分で200人を殺した。銃弾等の人類の英知は一切効果がなく、誰もが世の終わりを

確信した時、空が何だかとっても暖かく優しそうな光を放ち、


その中から壮麗な衣装に、身を包んだ我等が可愛い子ちゃんの“魔法少女”が現れた。

呆然と空を見上げる人間達の前で(あの時はパンチラを期待している奴もいた筈だ)


絶対、中学か、小学くらいの彼女は冷静にかつ凛として、全身返り血でヘラヘラ笑っていた

怪獣を人々の前から葬り去った。


世界の絶望は一気に希望に変わり、それから今に至るまで107体の怪獣と彼女は戦い、

全て倒す、いや、1体取り逃しはあったかな?とにもかくにも勝利してきた訳だ。


現在、ピンチの我が国、極東の島国だけでなく、全世界で1人、孤独に戦ってきた魔法少女の情報は少ない。だが、戦闘中の目撃情報や助けられた人々の会話から、おぼろげにわかるのは東洋人の少女で恐らく10代。


現況の科学では絶対解明できない未知のパワーで怪獣を倒す事だけ…政府のお偉方は

これを解決、出来れば管理するべく、防衛隊を設立。怪獣と命名した脅威と魔法少女を

サポート、戦闘、研究する機関を設けた。


そうやって1年、世界の最高頭脳と最強の戦闘力を結集した防衛隊の取り組みは何の成果もなく、世界全体が1人の魔法少女に頼っている現状を送っている。あっ、怪獣が出たぞ?

困ったな、どうしよう?でも、大丈夫!多分!!空を見上げろ!我等の魔法少女が現れたぞ?彼女なら大丈夫!絶対、何とかしてくれるぜってな?


そんな軽いパニックになっている対策室の中で、1人皮肉めいた顔している自分に司令が

気づき、鋭い視線と言葉を投げてきた。


「おいっ“ショクタクッ”我が国が、世界がどーにかなるって時に、そのふざけた面は

なんだ?」


彼の言葉に隊員達の視線が一斉に、こちらへ向けられる。自分が何故“ショクタク”と呼ばれているかと言えば、各方面のエリートばかりで構成された隊員達の死傷率が激しく、なおかつ、重宝されていた女性隊員が、このご時世で産気づき、出産休暇に入ってしまい、


超絶人手不足の間に合わせ、臨時採用で雇われた身分だからだ。

一部の隊員達はそれを快く思っておらず、嫌がらせに近い行為もしばしば。本名を呼ばれないのも、その一つ。まぁ、本名自体も本名ではないから、あまり気にもならないが…


無言でこの場をやり過ごすのは難しいと判断し、隊員達の怒りの原因の一つでもある、

不潔でボサボサの髪を掻きむしりながら、いかにも面倒臭いとった体を充分見せつけ、

言葉を返す。


「そりゃ、司令。ふざけた態度にもなるってもんでしょ~?この国随一の天才連中、

人間電卓に、選りすぐりの全身筋肉のゴリラ共が集まってるって言うのにさ。1人の

ロリっ子ちゃんが空に現れないってだけで、この様かよ?片腹どころか、全腹で笑っちゃいますぜ~?」


「何だとっ?貴様!もう一度言ってみろ?我々だって好きで魔法少女に

頼ってる訳じゃない。ただ、我々の力では怪獣には…仕方ない…」


「そのための防衛隊だろ?1年間何してた?怪獣が出るたびに出動して、パンピー避難させて、後はボンヤリ、空を眺めてただけだ。絶対に魔法少女が何とかしてくれる。


だから、大丈夫。きっと大丈夫。マヌケにも程がある。オタク等が一般連中と違うのは偉そうな制服と無駄にデカい鉄砲持ってる事か?」


ショクタクの言葉に隊員達は黙り込む。司令だけは歯を噛みしめ、握り拳を机に沈めている。

1人くらい向かってきてもいいもんだが、やはり、この連中じゃ難しい様子だ。


立ち上がり、出口に向かう。やる事が自分にはある。

彼等に捨て台詞を言う気はないが、無言で去るのも何かと苦しい。いささか丸くなった

自分を意識しつつも、言葉を発した。


「いい加減、あの子抜きで世界を守ってみたらどうだ?年端もいかない少女1人に

世界の命運を託すんじゃなくてよ?それが大人の役割じゃね?


とりあえず、俺は抜けるぜ?ショクタクの年次休暇はまだ残ってるからな。」


静まり返った対策室に答える者は誰もいなかった…



 「いきなりで失礼、ここまで来れた経緯に関してはツッコミ無しで頼む。時間がない。

そのナリだと見たところあれか?中学生か?家族の避難とかあるよな?だからこそ

手短かに行きたい。それでいいか?魔法の嬢ちゃん。」


見知らぬオッサンが突然2階自室の窓辺に現れれば、誰だってビビるだろう。

いかにも女の子然としたぬいぐるみと綺麗なインテリに囲まれた部屋の中で両肩を

抱きしめ震える少女、彼女こそが先程不在の魔法少女本人、ショクタクの立て続けトークに、


有無を言わさず、自分の正体を当てられた驚き当も踏まえ、とりあえず肯定の頷きが、

やっとという所だ。だが、今の性急的な状況においては、それで充分、本題に入る。


「何故?戦うのを辞めた?」


実にストレートな質問に少女の肩がビクッと震え、そのまま俯く。不味いな、いきなりすぎたか?若干の反省、元々、ショクタクにとって人の感情の起伏などわかる筈もない。


「怖いの…」


しかし、それは杞憂で終わった。顔を僅かに上げた彼女がゆっくり呟く。それに対し、慎重な姿勢で頷くショクタクに安心したのか?言葉が次々に続いていく。


「先週現れた怪獣はとても強かった。私が攻撃を避けた時、相手の斬撃はビルを粉々にした。その時思ったの。自分が受けていたら、どうなっていたのか?そして、もしビルに私の知り合い、大切な人がいたら、どうしよう?今まで考えた事もなかった。そう思ったら、

戦うのが怖くなった…だから…」


再びの俯きを再開する少女。これが兵士で言うなら、PTSⅮ、戦闘疲弊症と言ったところか…度重なる怪獣との戦いで溜め込んだストレスの限界が来たようだ。


そもそも心も体も未成熟な少女。終わりなき、異形と命の取り合い、大人だって狂う代物…

一体、彼女に力を与えた輩は何を考えていたのか?こんな年端もいかない少女に?

理解に苦し、いや、苦しめないな。


正直わかる…身に覚えもかなりあった。


考え込むショクタクを、少女がジーっと見つめる。ここで気の利いた言葉を返せればいいが、

自分はまだまだ、社会勉強中、嘱託の身。頭で考える事は出来ても、言葉にするのは難しい。


「迷ってるみたいだな…」


「えっ?」


だから、思った事を口にした。不思議がる少女。しかし、その表情には微かな変化がある。

やはりな…怖いとは言うが、自身の使命、人々を守るという強い想いを失ってはいない。

この姿こそが希望を与える、人々が空を見上げる所以か…


「理由はわかった。そろそろ時間だ。これでお暇するが、最後にこれだけは言わせてくれ。

アンタのおかげで空を見るのが楽しくなった。本当に感謝してる。」


少女の返事を待つ必要はない。ショクタクは窓から身を躍らせ、自身の持ち場に急いだ…



 「戻ってくるとは思わなかったぜ?」


「ああ、休暇申請の証印をもらうのを忘れてなぁっ!全くついてねぇっ。」


「お前等、私語は慎め。戦いは始まってるんだぞ?」

突撃銃を乱射し、文字通り、ガタノゾアに突撃を行う防衛隊の同僚がショクタクに笑う。

先頭を走り、怒号を浴びせるのは多賀司令だ。突撃する隊員の後方からは市内に集められた

ありったけの戦闘車両からの砲撃が続く。


現状で持ちうる全ての戦力を怪獣にぶつける。単純だが、この方法しかない。米軍の核使用を回避するための最善の策と言った所か…非常に無謀で、無駄死なプランだ。


(だが、いいな、コイツは非常に良い。)


怪獣から逃げていないのは防衛隊だけではない。一般市民も街に留まり、防衛隊に協力する者も多くいる。全員が魔法少女不在の空を、いや、世界を守るために戦っている。


(これが人間の強さか。面白い、なら人間嘱託の身も本気を出さねばな)


低く笑い、自身の体を変えていく。周りの隊員達から驚きの声が上がっていく。空から降りてきた魔法少女に惚れ(この表現で正しいのかは未だに勉強中だ)続けて人間を好きになり、

なりたいと思った。


倒し損ねた107体の内の生き残りの1体…それが自分だ。司令を飛び越し、異形の剛腕を

そのまま、眼前のガタノゾアにぶつける。これで、自分が人間側の仲間と思ってくれれば

幸い、直後に、周りへ着弾した銃弾が全て自分を避けている事に一安心。悪くない状況だ。


ふいに走った激痛はガタノゾアの触手が自身の腹部を貫いた音、やはり力足らず。怪獣達の中で最高位のコイツには敵わない。だが、後悔はない。


元々、怪獣達に仲間意識や同胞を想う気持ちは皆無だ。弱り切った星を見つけ、残った環境と生物全てを喰らいつくすだけの存在。それが、この星に来て変わった。全ては空を見上げたおかげだ。あの時、悲鳴を上げる人間達の声が喜びに変わり、その原因を探ろうと、彼等の視線を追ったのが始まり…


人間で言えば走馬灯を回想する自分の思考と、現実の光景、音声が合致し始めている事に気づく。可笑しい?悲鳴こそ上げていないが、人々の声が歓声に変わっている。自分の登場は恐らく関係ない。すると、これは…


体を動かし、原因を探る視線が空に向かう。数秒後、ショクタクは静かに血交じりの口を

笑顔に歪ませた…(終)

 



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