「手からギュワワワーッ!!」

低迷アクション

第1話

「手からギュワワワーッ!!」


昼休みが終わり、午後の授業開始時“ミリ太(みりた)”は隣で、イイ感じに寝ている

“あかね”を、すっごく嫌な気持ち“別にこのままでもよくね?”的な感じでゆっくり揺り起こす。


「あかねさ~ん、もしも~し、起きて下さい~、もう授業開始っすよ~、頼みますよ~。

あ、寝ててもいいんですけど“必ず起こせ!”って言ったのあかねさんですからね~」


最初はゆっくり、サスサス。段々、起きてこない事にイライラし…ツンツンと突く指に

力が籠っていく。


「う~んっ…んっ!?テメェ、何?ツンツンしてんだ?」


「えっ、ちょっと待って、起こせって言ったのあかねさんじゃないすか?うわっ、ちょっと待って…わぁっ?ギュワワワー!(“何かの効果音”)」


寝起きの不機嫌眼から一変、赤い目+額に何かの魔法紋章が出たあかねが掲げた手の平から


“ギュワワワーッ!”


っと怪光線が発射され、ミリ太の体は光に包まれた…



 「ミリ太君~、ベットもそんなに空きがないから、調子戻ったら、早くね~」


「あっ、ハイッ…」


無情な保健医(胸もデカいし、このまま個人授業に突入したいが、あかねの保健室ごと

ギュワワワーッ!が怖い。)

の宣告を聞き、


ベットに座り、焦げた体を水に濡らしたタオルで拭きながら、ミリ太は思う。

最早、救急車も呼ばれない程、自身の耐性と学校側が順応した結果をひしひしと感じる。


そもそもあかねとは幼稚園の頃からの付き合いだが、あの頃から、彼女はギュワワワーッな怪光線が出た。ミリ太は何度もクラス替えや、あかねからの逃亡を企てたが、今日に至るまで、同じクラス。隣の席と固定されている。宿泊行事等の際は唯一の別行動だが、


それもごく短時間、夜になれば、男子部屋に突入してくる彼女に朝まで付き合わされた。

あかねの光線は恐らく魔法(額の文字とかでそう判断)その事に関して、周囲は誰も突っ込まない。


光に包まれる激痛は酷いが、死にはしないし、最近は慣れてきた。そんな自分が悲しい。

将来を本気で考える彼の思考は無情に開かれた保健室のドアで遮られた。


「オイッ、ミリ太?何してる。もう、授業はとっくに始まってっぞ?」


薄赤い髪が少しづつ、濃さを増していく。慌てて立ち上がる自分に対し、保健医が笑いながら手を振る。少しの安らぎを感じ、振り返すミリ太の表情は廊下に出た途端に固まった。


「ほおぉぉぉうっ、随分と長い事、席を外したと思ったら、巨乳の保険医と秘密の

個人授業かぁっ?大層な身分だな。ミリ太ぁぁっ?」


「いや、巨乳って言うか、そりゃっ、確かにあかねさんの“貧者のバスト!(結構、重要)”とバトルしたら、明らか…あっ、高いです。高い…」


「高くしてんだよ。」


“当ててんのよ”的言い回しで、あかねに首を絞められ、そのまま持ち上げられる。自分より背の低い女子に持ち上げられる男子中学生もいかがなモンかと思うが、怪光線をぶち込まれるより、マシってもんだ。


マシな筈なんだけど…


「あの、あかねさん…何だろ?首回りがホットって言うか、激アツなんですけど。このままじゃぁ、俺の首、焼き切れそうなんですけど…」


見れば彼女の両手が光っている。どうやら、いつものギュワワワーッを両手に還元し、

自分の首に押し流していると見た。


「時々、誰が主人か、ハッキリさせないとな~?そうだろぅ~?ミリ太ぁ~?」


猫のように目を細めたあかねがゴロゴロ喉を鳴らす。薄れゆく意識の中で、ミリ太は

あかねの額に浮き上がる紋章をジッと見つめ続けた…



 「うん、あかね君の事だね?悪いな、ミリ太君。出来る事は無いな~。」


「先生、邂逅一番がそれだと、人生に何の希望も無くなってしまう思春期の自分がいるんですけど…」


移動教室の10分休憩を利用し、担任教師に相談したミリ太は(首の傷も、どうにか完治した)僅かでも、ほんの僅かでもの希望が一瞬にして、消えた事に絶望を覚える。

休憩時間終了、5分前。潮時だな。


次の教室に向かう彼の背中に、追いうちのような教師の言葉が被さる。


「ミリ太君、あかね君をどうにかしようと思わない方がいいぞ?実は私も、彼女の件で

何とかしようと、知り合いに頼んで海兵隊一個小隊を投入した事がある。」


「海兵隊っ!?あの危険な戦場に最初に投入されるタフで最強の海兵隊ですか?」


「ヤケに食いつきがいいなっ!ミリ太君。その海兵隊だ。しかし、彼等はものの数分で

ギュワワッ…」


「あ、先生、もう良いです。オチわかったんで、てか、それ自分が日常レベルで体感してる事なんで。」


「わかっているじゃないか?ミリ太君!そう、君がいるから。彼女は暴れ回らない。君という人間の盾のおかげで、皆の学園生活、穏やかな日常が保たれていると言っていいぞ。胸を張り給え!」


“俺の幸せはどうなる?”という事を聞く元気はミリ太には無かった…



 「忘れモノをした…」


「あっ、ハイ。俺が取ってきますよ。あかねさん。で、何をっ?」


「それくらい察しろ!」


「あかねさん、俺エスパー?いや、あかねさん魔法系だけど。いや、そうじゃなくて。よく見て、触って。ハイ、俺、男子。あかねさん、女子。忘れモンの差異、全然わからない。」


「〇@*?¥#(何かの呪文)」


「あ、わかりました。行ってきます。ドサクサに紛れて胸触ったのは、ゴメンですけど。

その手、向けながら、呪文言うの止めて。マジで。ウワッ、頭が何かウゾウゾする。


行ってきます。行ってきますからぁっ!!」


放課後、下駄箱の前で不覚みたいな顔をするあかねを見て、ちょっと“可愛い”と思って、からかい&パイタッチした自分が馬鹿だった。今や、頭の痛みは、ミリ太の髪をヘビに形成し、額をチクチク噛む脅威に変容している。


激痛に悲鳴を上げ、教室に辿り着く頃には、頭のヘビも消えた。一安心したミリ太は、

机に残されたあかねの筆箱を取り、教室を後にしようと動き出す。


そんな彼の視線があかねの机脇に下げられたリコーダー袋に目が止まる。これも

忘れモノ?いや、明日は音楽の授業があったから、大丈夫な筈だ。持っていかなくても…


そう思う彼の思考は、別の視点に考えが動き始める。


「関節キッスとかしちゃおうかな~?」


わざと大きい声を発しながら、辺りを見回す。数秒の静寂からそのまま継続、沈黙…

よっしゃ、誰もいねぇ。あかねのギュワワワーッも飛んでこねぇ。つまり、この教室は

俺1人。完全な密室、俺が王様!教室キングだっ!!


そっとリコーダーケースを取り、茶色い笛を出す。今日喰らったあかねの折檻?報復?

魔法攻撃の数々を思い出す。


(少しくらい“役得”があったって、いいよな?)


下駄箱で待つ、あかねの苛々がギュワワワーッに繋がる前に事を済ませる必要がある。

つまり早急にだ!リコーダーの吸い口を顔に近づけていく。彼女のふっくらとした唇が

脳裏に浮かぶ。手からギュワワワーッが!無ければ可愛い奴なんだけどな。

そう思ったのがいけなかった。


ふいにあかねの困り顔、先程の下駄箱で見せた表情が視線にチラつく‥‥


「む~っ、やっぱ止めとくか!」


苦笑交じりに呟き、リコーダーを仕舞い直す。憎たらしくても、相手は女子。困り顔とか、泣き顔は作っちゃいけねぇな。ウン、こっちはだいぶ泣かされてるけど、それは置いておこう。自分を変に納得させ(若干の満足さに浸りつつ)筆箱を掴んだミリ太は、そのまま教室を後にした…



 「“ヒカリゴケ”という話を知ってるか?」


日が暮れかけた空を背に、帰路を行くあかねが不意に言葉を発した。

意気揚々な自分を、先程からズーっとジト目な彼女の突然の発言に、何か不手際が?と

若干焦るも、思考をフル回転させ、答えを返す。


「あいにく、苔は詳しくないっす。あ、クマムシとか知ってますよ。不死身の…」


「その話ではない。これは暗喩だ。人を食ったモノは暗い所に行くと、首回りに緑色の

輪が見えるそうだ。その色がヒカリゴケと似ている。そういう話だ。」


「ああ、カニバルワーォッなストーリーっすね?でも、何でその話を?」


「覚えはないか?」


夕日があかねの顔に影を作る。ホラー映画ばりの追及に焦るミリ太だが、勿論、そんなモノはない。首を全力で振る彼を見たあかねが目を細め、妖絶な笑みを浮かべた。よく見れば、額にうっすら、紋章が見え始めている。


「私は学校にモノを置いていく時は、目印をつけておく。誰かが、触った場合、その者の手が薄く緑色に染まるようにな。勿論、自分では気が付かない。私に指摘されて、初めて気が付く。そう、術をかけた。わかるか?」


恐る、恐る、上げた手のひらは緑色に染まっている。体の震えをどうにか抑え、

あかねを見れば、こちらに翳した手が光を放ち始めている。言い訳をどうにか考える

ミリ太に処刑人のような彼女の声が被さった。


「今日はリコーダーを残した。辞世の句を聞こうか?変態クズ野郎?」


「ま、まずは、弁解希望!会見を開かせて下さい。未遂だから、未遂だから、信じて…うわわっー!ギュワワワーッ!(“何かの効果音”)」


赤く染まる空に、少し濃さを増した赤が一筋上がった…



 「ミリ太君とあかねちゃんって、仲いいよね~?」


隣で爆睡するあかねを、起こして、また一撃というパターンに辟易しつつ、昼休みを過ごす

ミリ太にクラス一番、ニコニコ系女子の“すみかさん”が声をかけてきた。


「そういう風に見えます?ギュワワワーッで保健室送りな毎日っすよ?」


「アハハッ、でも、楽しそうじゃん?毎日さー。私も手から何か出ればいいな~。」


精一杯の皮肉面に動じない、すみかがコロコロ笑いながら、あかねの真似をし、こちらに

手を向けてくる。その可愛い仕草と鈴を転がしたみたいな感じの笑いに、思わず自身の頬も緩んでしまう。


(すみかさん、貴方はもう手から、いや、体全体から発していますよ。癒しと言う名の素晴らしいモノをね。)


こちらが発する朗らかなオーラに、安心した彼女が笑顔を見せ、言葉を続けていく。


「あかねちゃんも、私等とあんま関わらないし、今度良かったら、皆で遊びに行こうよ。

ミリ太君はラインやってる?」


「やってるけど、交換の仕方とかわからないっすめ。あかねとしかラインやってねぇし。」


「ええっ?そうなの~?よ~し、それじゃぁっ!」


ミリ太が取り出したスマホを、すみかが手を伸ばし、操作する。柔らかい指と暖かさが心地よい。手早く操作を終えた、彼女が笑いながら、こちらにスマホを返す。


「ハイッ!私のライン、入れておいたからね。ヨロシクだよ。」


「ああっ、ヨロシク!」


と同時にチャイムが鳴り、午後の授業が開始された。すみかの癒しに気を良くしたミリ太が

午後一発目の厄介事に片付けようと手を伸ばし…既に起き、ジーッと、ジト目というか、殺意を込めて、こちらを見つめているあかねに速攻、全身が凍り付いた…



 何となく、一発もギュワワワーッ!が無いまま、午後の授業を終え、物足りなさを感じる自分に軽く絶望しつつも、帰路につくあかねとミリ太の間に重苦しい沈黙が漂う。


「あ、あの、あかねさん?その、何て言うか…」


「イギリス、ケルトの呪いでは…」


「へっ?呪い?」


「呪いをかけたい相手に呪文を書いた一枚の紙を送る。忍ばせてもいい。

すると相手は1週間後に…」


「ハウッ!?その鞄からチラチーラ見えてる紙は件のっ!?いや、妖怪の件じゃなくて

呪いのアレですね!えっ?誰?ちょっと誰に使う気っすか?ちょうっ、超勘弁して下さいっすよ~!マジで!!」


「手遅れ。相手が手を取れば、それで呪いは成立。例えば机の中に紙を忍ばせ、何かの

拍子に落ちた時、拾い上げるだけでいい。」


昼のすみかの笑顔がフラッシュバック!アカン、この子、結構マジだ。考えてみれば、自分以外の誰かに攻撃しないだけで、彼女は正真正銘の魔法使い、洒落にならない。

踵を返そうとするミリ太に鋭い静止の声がかかった。


「待て!ミリ太?行くのか?」


「あったり前っしょ?このままじゃ、誰かがギュワワワーッ!な感じになっちまう。

俺は耐性多いにアリ!そりゃ、幼稚園からだもんな!だけど、他の奴等は…」


「そうじゃない!!」


普段と違う声音に思わず足を止め、あかねに振り返る。真っ赤な髪に負けないくらい、頬を真っ赤化に染め、強気お眼目が珍しく、泣きそうな顔になってる………バッカ野郎が…ミリ太は軽く笑う…長い付き合いじゃねぇか?不安になるこたぁねぇってのによ…


ここは下僕の見せどころ、言葉を選ぶ魔(間)はねぇから、端的、心に思った事をそのまま具言(現)化!


「ああ、俺は行くよ。当たり前だろ?そんな呪法で誰かが傷ついたら、俺のご主人が

学校いられなくなっちまう。そしたら、つまらねぇ。俺の学校生活、いや、人生成り立たねぇっ、おわかりっすか?」


返事は待たずに、そのまま走り出す。後ろからギュワワワーッ!はとりあえず無かった…



 自クラスに辿り着き、悪いと思ったが、すみかの机を確認する。流石、ニコニコ笑顔系

女子は違う。空っぽ…ちゃんと全部持って帰ってんよ。あの人!こうなりゃ、手段は一つ。


交換したラインの通話端末を鳴らす。


「ハイハーイ?」


甘くて魅惑なボイスにドキドキ。そういや、この十数年…女子とまともに会話した事はなかった。(てか、あかねオンリー)何だか未体験な感じにフワフワだが、ここは本題を忘れてはいけない。おかしな紙的なモノをあかねからもらってないかを確認する。


「紙~?う~ん、もらってないな~、あっ!?何かおまじない的なあれ~?」


「いや、どっちかって言うとのろ…いや、魔法っすね。あのアマ、アノ日か知らないが、

苛々して困ったもんすよ~、いや~、ハイハイ。大丈夫っす。それでは、また明日~」


電話を切り、ほっと一息をつく。良かった。思えば、本気そうな顔のあかねに若干焦ったが、

考えてみれば、そんな事をする子じゃない事は自身が一番わかってる。あれはきっと自分がすみかと楽しそうに…いや、予想、あくまでも予想は止そう。何はともあれ片付いた。

全く…


「困ったもんだぜ、ウチのご主人はよ…」


「本当に困ったもんだよ、ウチの下僕は…」


「ヒ、ヒイィッ、あ、あかねさん!」


ゾッとするほど冷たい声に振り向けば、夕日と同じくらい赤い髪のあかねが立っていた。

“いつからそこに?”は野暮ってもんだろう。楽しそうというより、目が怒りで大きく見開かれた彼女を見れば、色々お察しだ。そして彼女の声は言う間でもなく死刑宣告!


「私がそんな事を本気ですると思ったか?ミリ太?そして、聞き間違いか?お世話になってるあかねさんを“あのアマ?”いい度胸だと思わないか?ミリ太ぁ~?」


「ええっとぉ!それは言葉のアヤで!なんつーか、ホント良かった~、あかねさんがそんな子じゃなくて、だから、そのすいまっせんしたぁ~!と舌も乾かぬ内からギュワワワーッ!ギュワワワーッ!(“何かの効果音”)しかも2回もー!!」


あかねの手から放たれた怪光線に包まれ、ミリ太は“これでいつも通り”という妙な安心感を抱き、そのまま意識が遠くなっていった…(終)






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