子供達の凱旋

 8人の子供達は無事に帰って来た。

 それぞれ満足そうな顔つきである。


「みんな大健闘だったようだね」蔵之介が興奮した様子で語り始めた。


「僕は、必死に耐えた。マシュマロのほのかに甘い香りが頭を発狂させそうになったけど、自分を律して見せた。結局、1つ食べて、もう1つは、ほら」そう言うと、蔵之介は手を開いた。


「持って帰って来たんだね」クリスが小刻みに頷きながら言った。

「クリスはすぐに帰って来たみたいだけど……」半蔵が不思議そうに尋ねた。

「僕はとっとと1つ食べて、帰って来た。僕にとっては、さっさと帰ることの方が価値がある。まぁ、帰り際に中指を立ててやったけどね」

「それはちょっとやりすぎよ」ねねがとがめた。

「わかりにくいようにやったさ」


「まぁ私は、口に入れて飲み込まない作戦を採ったけどね。15分経ったら、あばずれっぽい女が、もう1つマシュマロをくれたわ」ねねがどこか自慢げに話した。


「僕は、ご存じの通り、焼きマシュマロ作戦を使ったよ。マシュマロはちょっと生焼けだったけどね」


「私は、普通に我慢した。まぁ演技だけど」アレクサンドラが澄まし顔で話した。

「私は普通に食べちゃった。マシュマロ好きだし。でも、1つで十分」桃子が微笑みながら言った。


「ミキちゃんサキちゃんは、2人でテストを受けたんだよね? 」蔵之介が聞いた。

「「そう」」2人は頷いた。

「私達を引き離そうとするから、必死で抵抗したら、大人は諦めたみたい」サキが疲れた表情で言った。

「でも、作戦は大成功」ミキが話す。


 全員が、ミキとサキを見ている。どちらが続きを話すのか様子を伺っている様だ。


「マシュマロはミキが4つ食べたけどね」

「今度、サキのおかしあげるね」

 ふふふ、と2人はお互いに微笑み合った。



「僕は、1つも食べなかったよ」

 1人の男の子が話し始めた。

「ママが僕をなだめるために、たくさんおかしをくれたからね。マシュマロみたいなやっすい菓子なんて目じゃないさ」

 みんなが男の子を見つめている。

「あんた誰? 」ねねが冷静に尋ねた。

「さっき泣いてた子」桃子が小さな声で言った。


「満腹の僕には、もはや、マシュマロテストは意味をなさない」

「なるほど、君は、駄々こね作戦の向こう側に言ったわけだ」蔵之介は納得した様子だ。


 ねねとクリスは気取った様子だ。

 半蔵は物欲しそうに指をくわえている。

 アレクサンドラは遠くを、そして桃子は大泣きしていた子を見ている。

 みきとさきは、疲れたのか、眠たそうにしている。


「これで、私達のマシュマロテストは終了ね」アレクサンドラはやや俯いている。

「そうだね。結果がわかるのは、十年、いやもっと先かもしれない」蔵之介が言った。

「その時、私達、また会えるかしら」ねねが全員を眺めながら尋ねた。

「きっと会えるよ」誰ともなく声が聞こえた。

「随分、大人になってしまっているだろうけど――」




**********

 マシュマロテストは実在しますが、このお話はフィクションです。

 2018年の研究で、マシュマロテストは、過去の結果を再現できていません。この研究では、将来の成功について、マシュマロを我慢できたかどうかの影響は限定的で、むしろ、家庭環境が支配的であると主張しています。

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ザ・マシュマロテスト マゼンタ @mazenta

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