5-4.end
あたりのざわめきが大きくなる中、駆人は辺りをキョロキョロしている。
「何か使えそうなもの……。みんなが持っているような……。あ、天子様。その手に持ってるものを!」
「ん?これか?」
天子から水ヨーヨーを受け取った駆人は、思いきり振りかぶって、上空へそれを思いきり放り投げた!
黒い靄のように見える『都市伝説』に確かに水ヨーヨーはぶつかり、弾けた。
「水ヨーヨーをぶつければ奴を倒すことができる!」
大声で叫んだ。
「この都市伝説には、弱点がある!」
ほんの少し辺りが静まり返った後、近くにいた小学生が、持っていた水ヨーヨーを駆人に倣って上空へ投げた。
それが呼び水となって、子供があちこちから水ヨーヨーを『都市伝説』に向かって投げつける。
上空に浮かぶ奴がほんの少し歪み、小さくなったように見えた。
「ん、んん?もしかして効いておるのか?」
それを見た若者も、次々と水ヨーヨーを投げつけ始めた。奴は、さらに小さくなっていく。
ついには大人も、更には水ヨーヨーの屋台の店主までもが、一斉に奴に向かって水ヨーヨーを投げつける。まるで辺りは運動会の玉入れ競争か、あるいは冬にやる雪合戦の様相だ。
そこで天子は気づいた。辺りの客から伸びていたはずの黒い靄がすでにぱったりと消えているのだ。弱点を知って恐怖を克服した客達からは、もう奴の養分となる恐怖は供給されない。
「いける。これはいけるぞ!」
あちこちから投げられる水ヨーヨーの雨あられによって、奴の体はどんどん小さくなり、遂にはサッカーボール大ほどまで小さくなった。それでも水ヨーヨーの投擲は止まず、『都市伝説』が悲鳴をあげ始めた。
不気味な悲鳴に、思わず周りの客達は投げるのをやめる。
「あとは、どうするの?」
栞が駆人に問いかける。
「最後は、もちろんあれですよね。天子様」
「おう!特大のをかましてやる!お主らも力を貸せい!」
「はい!」「ええ!」「ああ!」「うん!」
天子は右腕を伸ばし、手のひらを奴に向けた。その手に四人は自分の手を重ね、『都市伝説』の消滅を願った。
「狐火イイイム!!!」
天子の手のひらから、白い光線が放たれた。駆人達の、ここにいる人々のすべての祈りを乗せた光線は、力強く、神々しく光る!
その光線が、やぐらの上空に力なく漂う『都市伝説』に直撃した。奴は、ほんの少しの抵抗の後、光線に貫かれ、体が散り散りになり、虚空へと消えて行った。
「やった……、のか?」
辺りは静まり返る。やぐらの上にはもうあの黒い靄はカケラもない。
「やった!やりました!僕たちの勝利です!」
駆人のあげた勝利の声に、祭りの客達も加わって、辺りは大歓声に包まれた。
それと同時に遠くで花火が炸裂する。あいつの相手をしている間に、時間が経っていたようだ。
まるで勝利を讃えるように光り輝く花火、それを、駆人達は同公園内の喧噪を離れた静かな場所で眺めていた。
「まさか奴に勝てるとは思ってもみなかったぞ。お主には驚かされる」
天子が感慨深げに呟いた。
「天子様がいたからですよ。僕一人だったら立ち向かおうとも思えなかった」
「そうか。……」
そのあとはほとんど何もしゃべらずに、皆、ただ花火を眺めていた……。
花火大会が終了し、辺りの客達もそろそろ帰り支度を始めている。
「わしらも帰るか」
「はい」
「……。のう、カルトよ」
「なんですか?天子様、そんなにかしこまって」
「どうやらな。アイツがこの町の都市伝説の最後の一体だったようじゃ」
「え?それって……」
「そうじゃ。わしらがこの町にいる理由はもはやなくなった。この町を去らねばならん」
怪異がこの町でもう発生しないのであれば、天子達怪奇ハンターがここにいる理由はない。他の場所で怪奇ハンターが必要とされていることも、駆人は分かっているつもりだった。
「で、でも。そんなに急に行くわけじゃないですよね?」
「……。いや、あまり長居しても名残惜しくなるだけじゃ。今日、ここでお別れにするとしよう」
「そ、そんな」
「お主らはよくやってくれた!これからはもしも都市伝説が悪さをしてもお主らだけで解決できるかもしれんな」
「天子様……」
「今生の別れではないと言ったであろう?今度会う時も、もしかしたら頼りにしてしまうかもしれんな。ま、体に気を付けることじゃ。」
「……。はい。天子様もお気をつけて」
「おう。じゃあな」
天子はこちらに向かって頭を下げる空子、手を振るぽん吉と共に、帰路につく客の雑踏の中に消えて行った……。
数日後……。
駆人と栞は自宅近くの住宅街を歩いていた。あれ以来二人はよく連れだって遊びに行くことが増えていた。今日も駅前に遊びに行く途中だ。
「なんだかあの頃のことが夢みたいに感じるよ」
栞が懐かし気に言う。あれから時間はそんなに経っていないのにすでに思い出のように感じる。思えばこの辺りにあの神社があったのだ。天子と空子の住居でもある神社は、その主と共に姿を消した。
「ま、もう身の危険を感じずに済むのは楽だけど」
「そんなこと言って、本当は寂しいんじゃないの?」
「ま、多少はね。でも懐かしんでいてももうそこには……」
駆人が指さしたところにはもうあの神社は……。
あった。
「ある!?」
二人は声をそろえて驚きの声をあげる。
それを聞きつけたのか神社の中から天子が慌てた様子で飛び出してきた。
「おお~!カルトではないか!助けてくれ!また都市伝説が出たんじゃよ~!」
泣きそうな顔で天子が抱き着いてきた。
「シオリもいるのか!ちょうどいい!中で話を聞いてくれ!」
駆人と栞は、天子に強引に引っ張られながら顔を見合わせて笑いあう。
タダでは終わらない駆人の夏休みは、まだ始まったばかりだ。
~完~
オカルトアワー~都市伝説怪奇譚~P版 ユーカン @u-kan
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