第79話:再始動
──フィアが目を覚ましてから数日後、ジルたちはとうとうスペリーナを発つこととなった。
リザとヴィールにはすでに話をしておりパーティからは抜けてもらっている。
当然ながらリザは渋ったし、ヴィールも納得はしていなかったが、リザの安全を考慮するならヴィールがスペリーナでしっかりと守る方がいいのだと説得したのだ。
このことはゼルドにも話が入っている。そもそも彼がヴィールを連れていって欲しいとお願いしたことから始まったパーティだったので当然なのだが、何故だかとても残念そうにしていた。
「迷宮攻略、これが数件あればすぐにでも
これはヴィールはことだ。
復帰してすぐに
必要なのは実績であり、その最たるものが迷宮攻略なのだ。
「僕はコツコツと実績を積み上げますよ。それに、今の僕にとって一番大事なものはリザを守ることですからね」
「……そうか、それもそうだな。無理を言ってしまってすまなかった」
ヴィールとゼルドの関係は良好なものに変わっている。たったこれだけのやり取りだったが、その中に笑顔が見られたのが何よりの証拠だった。
※※※※
スペリーナの東門に集まっているジルたち。というのも、目的地がセルジュからバレルシーアに変わったのだ。
「あの、目的地を変えてしまって本当によかったのですか?」
「元々バレルシーアに向かうかセルジュに向かうかで悩んでいたんだ」
「最初はバレルシーアに向かう予定でもあったしね」
目的地を変えた理由としてはフィアの存在が大きかった。
セルジュを拠点にしていたフィアだが、一人だけ戻ってきたとなれば最初に想像されるのが──パーティを見殺しにして一人だけ生き残ったのではないかということ。
実際にはそうでなくても、周りから見ればそう見えてしまう。そのことでフィアが傷つくのを避けるために目的地を変更したのだ。
ただし、メリが言うように最初はバレルシーアへ向かうつもりでもいたので目的地を変えること自体には何ら問題はなかった。
「それにしてもバレルシーアかぁ。やっぱりちょっと心配だわ」
そう口にしているのは見送りに来てくれたエミリアだ。
元々バレルシーアには悪い噂が絶えないと聞いたのもエミリアからだったので心配してくれている。
「だけど、いつかは向かいたいとも思っていた都市ですから」
「それはそうなんだけどねぇ」
「うふふ、なんだかお姉ちゃんが増えたみたい」
「お姉ちゃん?」
「はい。リザ姉とエミリアさん、二人ともとっても心配してくれるから」
言われたリザとエミリアは顔を見合わせて笑っている。お互いに歳も近く、ゼルドへ直談判する時も協力者として連絡を取り合っていたことで仲も深まっている。
メリから見れば、たしかにどちらも姉という感覚なのだろう。
「こんな素直で可愛らしい妹がいたら、私は必死になって仕事ができるわよ」
「それとは対照的にジルはちょーっとだけ素直じゃないんだよねー」
「そこでなんで俺の名前が出てくるかな、リザ姉!」
「だって本当のことじゃないのよー」
「はいはい、見送りに来てるのにどうして口論になるのかな」
手を叩いて二人の間に割って入ったヴィール。とは言うものの、本気で言い合っているわけじゃないと知っているのでその表情は笑顔のままだ。
「ジル君、無理はしないようにね」
「もちろんです。二人を危険に晒すような真似はもう懲り懲りですから」
「そうだな。それと、期待もしているよ」
「期待、ですか?」
何のことを言われているのか分からなかったジルが首を傾げていると、ヴィールは笑いながら教えてくれた。
「レイフォール。
ここ数日の間で何度か試し斬りをするためにアトラの森に足を運び魔獣討伐をしていたのだが、全く振れていなかった。
頭の中のイメージと体の動きが全く合わず、ゴブリンにすら手傷を負わされそうになる始末だ。
しばらくはジルヴァードを使いながら、練習も兼ねてレイフォールで素振りをする、ということを繰り返すつもりだった。
「あはは、いつになるかは分かりませんけどね」
「ギルマスも相当期待しているみたいだから、頑張ってね」
「……そう言われるともっと緊張しちゃうんですが」
頭を掻きながらそう告げると、ヴィールは笑いながら肩を叩いてくれた。
「気負わないで。大丈夫、ジル君ならやれるさ」
「……ありがとうございます」
メリに姉ができたように、ジルにも頼れる兄ができた。
何かに迷ったら、また相談しに来よう。そう思える日々をスペリーナでは過ごすことができた。
「……よし、そろそろ行こうか!」
「うん! みんな、また来るからね」
こうしてフィアを加えたジルとメリは、新たな冒険へと旅立っていった。
天職を拒否して成り上ります! ~努力は神を裏切り自分を裏切りません~ 渡琉兎 @toguken
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