蝉時雨

@nerium

筆跡、

此処には確かな跡が遺されていた。

翠の向こう、知らないのをゆうくり、揺れる静かな波のように只じつと眺めていたと。何故だか知らないけれど、自分という人を象った私自身は、見透かされたのか。

彼曰く懐かしい過去へ戻ったかのような────形容しがたい想いに囚われた。最初の肝心な、冒頭から思いでを語られても困るだろう。意図なんてものが在るのかは知らず。さて、これから視る貴方方にお見せするのは ひとりよがりの朦朧、思想、悲愴。只の無力な少年が、永遠を夢みて堕ちた結末。














揺れる想い___


周囲は変わることなく、忙しく。目まぐるしい日々を謳歌中だというのに 何かを成し遂げたいだとか、若者ならではの欲求が無ければ退屈な色ばかり浮き彫りとなって容易く泡となり弾け飛ぶ。嗤う、哂う、呵う。教室へ脚を運べば勿論ひとが手を取り合いひとつの世界、云わば国すら立ち上げていたとすら感じたのは違和感を拭えない私だけだろうか。少しばかり鬱陶しい、母譲りの黒髪が途中思考をぴたりと止めて切れと誘うかのごとく視界へ飛び込んできた。ああ、次の休みにでも行こうか、窓際の自席に頬杖をつき、廻る独白が迷路となりそうな途端 現実に引き戻す聲が響いて、恒例のあれが、と重苦しい身体を机に頼らせてもらい立ち上がった。

「 起立。礼。着席。」

厭な音たちが暴れだす、また繰り返す。

呼吸させない、機能しない、この空気が堪らなく頸にヾ手を翳すみたく締付けて離さない。瞳からひかりを喪う感覚がさきほどまで平然と居座る自分自身を追詰める、畏れが押寄せる。汗がぽた、ぽた、誰も気付かないまま授業が、始まろうと鐘が鳴る。それが 一限目のことだった。









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