クルギスの趣味

 


 ぼくもアイテムを使い、子供達の所に高速で移動する。


「君たち、やってくれたね」


「お、皇子ですか? おれたちを助けに来てくれたんですか?」


「半分は偶然だけどね」


 ぼくはアイテムで子供たちを守る壁を作り、少し話を聞くことにした。


「まあ、死ななくてよかったね。笑顔の子は何をしたの?」


「何もしてないよ。一生懸命ヒイラギ君たちを助けただけだから。隠れているヒイラギ君たちを探しているドラゴンの後ろからみんなで不意打ちしただけだよう」


 相変わらずのようだ。会話ができるほどの知能を持つ魔獣に不意打ちをしたら怒らせるのは明白なのに。


 でも、ぼくが聞きたいのはそこじゃない。


「ドラゴン種って自分たちが偉大な存在だって勘違いしているから、気性が穏やかなんだよ。それに会話が出来るほどの知性がある魔獣も基本的にね。一方的に攻撃されても人間を許してくれるほどなんだ。……で? 君たちはどうやって怒らせたの? 子供を殺したり、住処を燃やしたりしたの?」


「い、いえ。トール村の人間なら絶対にそんなことはしませんよ。おれたちは戦いと言うものは純粋で尊いものだと教え込まれていますからね」


「じゃあ、なんで?」


「ドラゴンが戦いをやめるよう説得をしてきたのですが、あまりの空腹でおれたちは攻撃を仕掛けました。ですが実力差が大きかったのでおれたちは遊ばれていたのですが、キオンの攻撃が逆鱗に当たってしまったのです」


「ああ」


 竜の逆鱗。弱点でもあり、攻撃したら本気で怒らせてしまう場所だ。


「その一撃でドラゴンは正気を失くしてしまい、おれたちを皆殺しにしようと行動を始めました。みんな致命傷を受けてしまい、仲間を一人逃がしたのですが、もう終わりかと思ったところに、ミュウたちが助けに来てくれたんです。でも、不意打ちでさらに怒らせてしまってなんとか逃げてきたんですがドラゴンは諦めずに追いかけてきたんです」


「でも君たちは怪我してないみたいだけど?」


「ええ、ミュウが持ってきてくれた回復アイテムで治りました。でも今のドラゴンにはどうしたって勝ち目がないので逃げるしかなかったんです」


「なるほど」


 そこでもう一度ドラゴンの咆哮が響いた。


 そういえば白い子が一撃で仕留めるって言ってたのに、いまだに戦闘が続いているようだ。


「なにやってるんだ?」


 観察してみると、どうやら白い子は苦戦しているようだ。


 超威力のブレスや図体に見合わない機敏な動き、そして何より白い子の攻撃はドラゴンの皮膚を切り裂けていない。


 まあ、当然だろう。あんな剣では。


 ぼくは蔵から一本の豪華な剣を取り出し、茶髪の子に渡した。


「これを白い子に、本気で投げてくれ」


「え? ……痛つ!」


 茶髪の子は剣を持ったことで掌が爛れてしまい、落としてしまった。


「ああ、やっぱり持てないか。仕方がない、自分で持っていくよ。きみたちはここで終わるまで待ってて」


 戦いの中心に行くのは危険だから嫌なのだが何とか移動をする。


「! クルギス離れて!」


「これあげる。とある国にいた勇者が持っていた剣だよ」


 白い子はちゃんと剣を持てた。


「本当は勇者しか持つことも出来ないんだけど、やっぱり奇跡の子なら大丈夫だね」


 奇跡の子と勇者なら、奇跡の子の方が遥か格上だからだ。


「その剣ならドラゴンを倒せる。でもできるだけ傷つけないように戦ってくれ」


「なんで?」


「あれをペットにする」


 ぼくははっきりと言い切った。


「トール村でも猫を使ったように、ぼくは使える動物をペットにするのが趣味なんだ。丁度いいから白い子の騎士団のマスコットにしよう」


 ドラゴンがマスコットの騎士団なんてかっこいいじゃないか。


 ついでに旗にもドラゴンの模様を描こう。


「かまわないけど、どうやって? あのドラゴンは意識すらないわよ」


「ふむ」


 気付けをするには角や牙を砕くのが一番だと聞いたことがあるが、それをすると魅力が下がる。あとで治すのも美しくない。


「ぼくたちがトール村から王都に戻る時に、白い子は衝撃波で魔物の大軍を皆殺しにしただろう? あれを撃ってくれ」


「この剣の切れ味がまだわからないから何とも言えないけど、通じるかしら?」


「まあ、多分一刀両断してしまうだろうね。でも確か勇者の剣って、自分の意思で斬るか斬らないか選べたんだよ。だから斬らずにダメージだけを通してくれ」


「難しい注文ね、でもわかったわ」


 白い子はそういって前に見た時の何倍もの大きさ、威力の剣閃を放った。


 ドラゴンは叫び声を上げながら倒れた。


「ああ、体中の骨が粉々になったねえ」


 でも、死んではいないようだ。初めてにしてはこんなものだろう。


「クルギス、私はこの剣を持たない方がいいと思うわ」


「何で?」


「この剣は凄すぎるわ。私が使ったら何人殺してしまうかわからないもの」


「うん、でもまあその剣を使える知り合いは君とオルトだけなんだ。そしてオルトはお気に入りの武器がもうあるから白い子にあげるよ。いらなかったら仕舞っておくといい。そういえば君は?」


「私もクルギスと同じで門よ」


「へえ、それは凄い。奇跡の子はみんな門なのかな?」


「……そう、オルトも門なのね」


 白い子は本気で嫌そうな顔をした。


 基本的には無表情なのにその感情はとても強くぼくに伝わった。



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コレクター(まだ本編は始まらない) 冬麻 @huyuma

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