第2話。。きょう
結婚式に参列して、幸せそうな二人を目にしたその夜、人魚姫はそっと短剣を海に返した。
「どうしたというの!」
「このままでは、あなたは泡になってしまうわ」
「明日の太陽が昇り出した時に泡になって消えてしまうのよ!」
姉姫たちの泣き叫ぶ声がする。
『ごめんなさい。姉様たち』
『わたしは気づいたの』
『ひとの気持ちは、想いだけは、片方だけではどうにもならないものだってことに』
『そうして、知ったの。
叶わなかったからといって、その幸せを壊してしまおうとすれば、自分自身の大切にしていた想いも一緒に壊してしまうことになってしまうって』
そんなのは哀しすぎるから。
人魚姫は姉姫たちに、にっこりと笑いかけて
『ごめんなさい』
と言うように唇を動かした後…
静かに懐かしい海へと飛び込んだのだった。
そして、太陽は昇り出し
人魚姫は、泡になった……はずだった。
海の中を少しずつ沈んでいきながら、人魚姫は不思議なことに気がついていた。
『わたしは泡になっていない……』
息は苦しくない。
でも
不思議な思いでいると、何処からか澄んだ美しい声が聞こえてきた。
―― 人魚姫よ、愚かで優しい娘よ。
恋するままに……足を得て人となりたくて
海の魔女にその声を捧げたのに、愛を得ることの出来なかった可哀想な娘よ……。
―― それでも、そなたは短剣で王子の心臓を刺さなかった。そうすれば、海に、人魚に戻れるとわかっていたのに……。
―― なぜ……しなかったのか?
人魚姫は答えた。
『それが……ひとを想うということ、愛するということだと知ったからです』
『大切なひとに想いが届かなかったとしても、わたしはやっぱり、そのひとの幸せを祈りたい……』
『二人に幸せになって欲しい。今は心からそう思うのです』
その声は微笑んだようだった。
―― ならば娘よ、そんなそなたに、ひとつだけ願いを叶えてあげよう。
―― そなたは何を望む?
人魚姫は少し考えた後で答えた。
『今度こそ、何かを引き換えにするのではなく、ありのままの自分の力で幸せを探したいです』
―― その願い、確かに聞き届けた。
娘よ、今度こそ、その足でしっかりと立って、その瞳でしっかりと見つめて、その言葉で伝えて、幸せをしっかりと掴んでごらん。
―― そなたなりの、一方通行でない幸せを……。
泡が弾けるような音がして
人魚姫はいつしか意識を失っていた。
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