願いごとをひとつだけ

つきの

プロローグ ~残酷な知らせ~

 その残酷な知らせは、幸せそうな王子の口から告げられた。


「……喜んでおくれ! 明日、あの隣国の姫と結婚式をあげるんだ。君も勿論、出席してくれるよね?」


「……此処に君が来てからの日々、何だか懐かしいような愛おしさを感じていた。まるで、小さな頃に亡くなったという妹の生まれ変わりのような気がしていたんだよ」


「……勿論、僕達の結婚後も君にはこの城にずっと居てもらいたいと思ってるんだ」


「……これは彼女隣国の姫も同じ気持ちだよ」


 途切れ途切れに王子の声は聞こえているのに、言葉が意味を成してちゃんと頭に入ってこない。



『王子様は…何を言っているの?』


 微笑んだまま固まってしまっている人魚姫に幸せの絶頂にいる王子は気づかない。


『隣国の姫様と…結婚?』


 王子が部屋から去った後も、人魚姫は立ち尽くしていた。


 足は立っているだけでも鈍くズキズキと痛み続けていたが、今は胸の痛みの方が苦しかった。


『ワタシハ ナンノタメニ ココニイルノ…』


 月の見えない夜、灯されたランプの仄かな明かりだけが、いつまでもその姿を照らして影をつくっていた。

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