洗面台

@blanetnoir

私の家のトイレにある一角のスペース。



扉を開けると奥に長い空間の突き当たりにトイレがあり、その手前の右壁に、楕円形の空間がある。



専用のベーシン、ゴム手袋、ガラスの器に入ったキラキラパウダー。



「LOVE」のネオン文字がピンクに光る壁、ほの青い透明感あるタイルとのコントラストがお気に入りで、アメリカンレトロにかわいくかわいく作った空間。



この空間で何をするのか、知っている人は誰もいない。

本人にしか使えない。



夜遅くに帰宅したとき。

あるいは休日の夕方。

最近話題の映画を見終わったあと。

寝る間際。


ふと。その瞬間があって。



このスペースにそれを処分しにくる。



まずビニール手袋を片手にはめる。

使い捨ての薄地で、右手にピタっと装着。



次にとろりとした液体の瓶に手袋を浸す。

サッサとくぐらせれば大体OK。



そのあと、今度はキラキラパウダーの瓶に手を突っ込む。

液体で濡れてるから、何度か粉の中に手を押し込めばよくパウダーがくっついて、コロッケのパン粉のようにキラッキラの手ができあがる。

ザク、ザクとパウダーに圧が加わる音が澄んだ空気を静かに震わせる。



ここまで準備ができたら、鏡の前にたって、顎を引いて頭の位置をよく確かめる。

最近は慣れっこで、見なくても大体分かるけど、念入りに処分したいときには、鏡を使うようにしている。



右手を、耳上のこめかみあたりに指を構えたら、ゆっくりと、頭の中に手を突っ込む。

スルスルと頭の中に突っ込まれた手は、脳の中をかき回って、捨てるブツを吸着していく。取りこぼしがないよう、念入りに、念入りに。



パウダーとトロリ剤がそいつを絡めとる。

その後キラキラパウダーが若干残りアフターケアする。



掃除がすんだら手を抜き取り、手袋を裏返すように脱いで口をしばり、ゴミ箱にポイ。



全てが済んだあと、もう一度鏡を見る。

そこに映る私の顔を、しっかりと。

この時の顔が、一番私らしい顔だといつも思う。



脳のあたりに湧いてでた要らないものをキレイに処分する技をつかって、いつでも綺麗な姿でいる。


私らしく生きるために。



清潔感あるタイル張りで大好きなピンクと透明ブルーの色合いがサイコーなこの空間で、要らないものを静かに処理したら、最後は手を洗って、はいさようなら。



そして扉を閉める。



窓の外は濃紺の夜空、

また静かに現実を照らす朝日がそのうち登るだろう。

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