第11話『~終わりは始まり(後)~終~』
翌日出勤すると、一ノ瀬さんは出勤せず事情により退職したとだけ周知された。
「誠さん、聞きました?隆太さんクビになったって・・・」
勢いよく駆け寄ってきて興奮ぎみに話す。
横で聞いていた石井さんは
「なんていうか、サイコパスぶりは地だったんですね。洒落にならない。」
冷静かつ、いつものよく声の通る漫談調で言葉を返す。
「隆太さん、面白くて好きだったのになぁ。癖強いけど。誠さんは事件聞いてどう思いました?仲良かったですけど。」
僕は一呼吸間を置き
「解雇とはびっくりしました。本人からは何も聞いていなかったので今朝聞いて。」
「会社に事件のタレ込みがあって、すぐみたいですよ。クビは。私、隆太さんはだらしないし面倒くさい所あるけど、まさかレイプする人だとは・・・畑さん思い出しました。畑さん気持ち悪かった・・・ストーカーされたし。」
「畑さんがストーカー?」
「そうなんです。帰るとき、つけられてずっとついてきて怖かったから伸夫さんに助け求めたんです。」
「帰り道が同じだっただけではなく?」
「違います。後ろにいるのわかって、一旦トイレに入って間をおいて出てもいて、伸夫さんに電話しながらその日は帰りました。見た目から雰囲気も気持ち悪かった・・・」
畑さんは、美里さんの話す件とは無関係に1ヶ月前に退職している。
「何かされたんですか?」
「何もされてないですけど、隆太さんよく畑さん昼休みに連れてくるから逃げてた。ホント生理的に受け付けない。」
「うーん。アチャラポーンさんのいうストーカーかどうかは置いといて、この話だけでは何ともいえないですけど相当嫌ってたんですねぇ。その避け方は相当ですねぇ。」
家に着くと、ボーッとここ最近の一連の出来事を振り返っていると、携帯のバイブレーションが鳴りスマートフォンを開くと
『閣下、お前だな。わかってるぞ気違いクソが』
一ノ瀬さんからのメールだ。
程なくして電話が鳴る。
着信画面には
『一ノ瀬隆太』
出るか躊躇ったがこれが最後の会話になると確信し、電話に出る
「はい。」
「閣下、ホントに最後までゴミくず、気違いだな。最後にひとことだけ言っておく。閣下は、自分が被害者で可哀想な人間だと思ってるが自分のことしか考えず自分勝手で自分が好きでかわいいと思ってるのはな、オ・マ・エ・だ。ゴミくず気違いが!」
ガチャ
自分を否定し、自分を圧し殺し、自分を出さずに生きているつもりだったけど、自分勝手で自分のことが好きで自分のことしか考えておらず、自分がかわいいと思っているのは僕自信だったと気づかされた。
揺れる心にしっかり刻み込まれた2019・冬
ムカつく言葉ばかりかけられ、一ノ瀬さんに復讐した気になっていたけど前から気になっていた目の前のモヤがスーっと晴れた気がした。
憎き一ノ瀬さんは撃退できたが、復讐したのではなくされたのは僕自信だと。
~終~
死んでるようで~終わらせない・逆襲メリーゴーランド~ 強度近視 @tsan2
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