第10話 『~終わりは始まり(前)~』

麗香とはあれから旦那の目を盗んで月に1度会っては過ごす関係が続いている。


旦那は商社に勤め、今はシンガポールに駐在。

麗香も着いていっているが、旦那の仕事が忙しく、たまに週末旅行に行くことはあるが普段は時間をもて余しているとのことだった。


金はあるので、何かと理由をつけて日本に帰国し1-2週間滞在しシンガポールに戻る生活を続けている。



「私、あの人(旦那)のことは好きよ。だけど、子供を作ったりとかはちょっと考えられなくて。今の生活は、旦那の稼ぎあってのものだしスゴく感謝してる。とてもできた人。私に好きなようにお金も時間も使わせてくれる。」


少しの間の後、続ける。


「でもね、正直なところ疲れちゃったのかな・・・。子供の頃から芸能界で有名になりたくて必死に頑張ってきた。だけど、この歳になると限界が見えてくるというか・・・。そんな時、旦那と出会い、私のことを大事にしてくれてプロポーズされたの。もう楽になりたいかなって。。。」


僕は黙って聞く。


「私、まこっちゃんと初めて会ったときのこと今でもよく覚えてる。転校先の小学校で、一応テレビに出てたからみんなチヤホヤしてくれて私の周りに集まってきて。でも、まこっちゃんだけは素っ気ないの。いつも遠巻きにいる。そんなところから気になってた。」


「何よ、私は、あの山田麗香よ。私と近づきたくないの?ってね。ホントに私って嫌なオンナね(笑)」


「SNSで、まこっちゃん見つけたとき嬉しかったぁ。あとね、一ノ瀬さんも引っかけたの(笑)」


『一ノ瀬さん・・・?』


「みずきさんに聞いてね。みずきさん、私のお母さんの妹なの。」


「まこっちゃんと職場が同じと知って、みずきさんにまこっちゃんが一ノ瀬さんを恨んでると聞いて何か私に力になれることないかなって思ったの。そして・・・」


「一ノ瀬さんが会社から出てくるのを待ち伏せ、後をつけて本屋に入ったのを私から声をかけた。」


「一ノ瀬さん歴史好きでしょ?応仁の乱。同じ本取る振りして手が触れてっていうベタなあれ(笑)簡単だったわ。」


『えっ・・・』


「その後、歴史好きを装い連絡先を聞いて何度も会ったわ。ホントは歴史なんて微塵も興味ない(笑)フフフ・・・。」


「あの人、女に免疫ないわね。ミニスカートや胸元はだけた服着て、ボディタッチ多めで接すれば簡単。何度目だったかな。かなり回数会った後、まこっちゃんの話を振ってみたの。勿論名前は出さずに、何か仕事でトラブルや厄介事ないかって聞いてみた。そうしたら・・・」


「まこっちゃんの話が案の定出てきた。あいつはグズだ。ゴミだってボロクソに貶してた。理由を聞くと、俺の勤怠に口を出すからって。一ノ瀬さんは仕事は極力したくないみたい。プライベート重視派。」


『プライベート重視って言っても、当日欠勤、遅刻、早退酷いんだよ。生活できてるのが不思議なレベルで。まぁ、実家暮らしだからできてるわけだけど。それにしても、いつまで親のスネかじってるんだって腹立たしく思えてきてね。40を過ぎて。』


「うん。一ノ瀬さんは、まこっちゃんのその発言を根に持ってるのは事実よ。だから、私はあの人を陥れることにしたの。」


『ん?』


「そこからは早かったわ。一ノ瀬さんの会社のお客様センターに電話して一ノ瀬隆太にストーカーされてるって訴えたの(笑)」


『えっ・・・』


「そうしたらね、普通はそんなの取り合わないと思うでしょ?だから、暴行された風を装って絆創膏貼ったりアザ作ったりメイク頑張ったわ(笑)会社もバカね。そしたら、どうなったと思う?」


『どうなったって。。。』


「一ノ瀬さんは、懲戒解雇よ。要するにクビ。会社も困ってたって言ってたわ。欠勤・遅刻・早退多くて何度も勧告してたけど切るに切れないからこれで、ようやく解雇できる理由ができたって喜んでたというかホッとしてたというか。これが今朝の話だから明日にはもう居ないわ一ノ瀬さんは。」


「これでよかったでしょ?邪魔な憎いアイツが抹殺されて。私も、まこっちゃんの力になれて嬉しい。安心して。一ノ瀬さんとは寝てないから。私、割りとカラダ使う方だけどアイツとは無理。生理的に。気持ち悪い。頑張ったのよ?褒めてほしい位。」


僕は、そこはかとなく虚無感に教われた。


これで、あの憎き一ノ瀬さんを図らずしも消すことができたというのに。



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