エピローグ 旅路への福音
ヒメの感謝の言葉で幸樹は目を覚ました。
視界にすぐ入ったのは椅子だった。背面には画面が付いており現在はスリープモードなのか画面は暗い。軽く周りを見渡せば狭い空間にいくつもの椅子が整列され、そこに人が座り睡眠をとっている。屋根も近く立ち上がり手を伸ばせば簡単に手が届くほど。
幸樹にとってあまりにも見慣れた場所。飛行機内の情景が幸樹の眼前に在った。
どうして、と理解できずに困惑し固まりかける幸樹。回答を得ようと更に周りを見渡す。
そこで隣に眠る汐音を、幸樹は見つける。
今度こそ固まってしまう幸樹。その頬を、涙がつたった。
再び会えた嬉しさか。それとも驚きか。はたまた悲しさのフラッシュバックか。それは幸樹にはわからない。だが一つの衝動が幸樹には生まれた。
今すぐ抱きしめたい、と。
寝ているのを起こしてしまっても構わない。汐音を求める気持ちが何より強かった。しかし幸樹はそれをしなかった。
触れたら消えてしまう夢だと思ったからだ。
汐音は死んだ。その無残な姿も見た。それは確かだった。
それともあれは全て悪夢だったのか、と幸樹は疑う。あの事故も。異世界のことも。すべてが夢で、今目が覚めたのではと。なぜなら右目の傷が治り見えているからだ。
夢か、と考えた幸樹の思考はすぐに否定された。安堵し汐音に伸ばした手に、指輪が付いていたのだ。ヒメからもらった幸運の指輪が。
全ては現実だったと物語るそれ。そのためか幸樹の中で充満した抱きしめたい衝動が収まる。
少し冷静になった頭はこの状況をすぐに考え出す。が、それも霧散する。
汐音の可愛い寝姿を見て、何かを考えるのが馬鹿らしくなったからだ。
しかし抱き着きはせず、幸樹は優しく汐音の頭をなでる。彼女も反応してか表情を笑顔へと変えた。いくらでも撫でていられる、そう思えた。
だが安堵からなのか幸樹に疲れと眠気が急激に訪れる。仕方なく撫でるのを止める。汐音が寂しそうな不機嫌そうな表情になったため代わりに手を幸樹は握る。すると再び幸せそうな笑顔になった。
このまま寝よう、と決め幸樹は目をつぶる。
微睡む意識でもはっきりと感じる汐音の体温。もう二度と感じられないと思っていたものに、幸樹は今までにないほど安らぎを得ていた。
ぐっすりと眠れる。そう確証を持てるほどに。
「今度こそ……一緒に……」
そう一言を唱え、幸樹は眠る。
拝啓、あなたのおかげで戦争が無くなりました。あなたのおかげで健やかに暮らすことができております。あなたのおかげで沢山の思い出が出来ました。ですので、どうか私たちをもう憐れまないで下さい 宮又ゆうも @yukisakaki
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