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「…………ごめんね、こんな形でしか一緒に見られなくて」

あまりにも懐かしい声と釣り合わない数倍の記憶が、どうも自分の中で違和感となって入り混じっていた。



ピキッ、という高い音が鼓膜を震わせる。

硝子が割れるように視界が崩れていく。


「悪かったな、時間を取らせて」

『全く、貴方のようなことをする人は初めてですよ。_____もう、気は済んだでしょう?』


大鎌を何処かに置いてきたらしいその人影は、はっきりしない視界の中に佇んでいた。


「ああ、大丈夫だ。…………ところで、お前さんの話は本当だったのか?」

『星雲の話ですか。星が生きた証であり、生まれる場所でもある、という………』

「それだよ。……藍にも少しは現実を教えようとしてこの話をお前さんに聞いたんだった。…………まあ、見た目はあれでも中身は年寄りのままだから、忘れちまってたけどな」

はっ、と冗談のように笑ってみせる。骨ばった、見慣れた手を見つめながら。


『星の幽霊、とも呼ばれるそうですね。まさしく今の貴方です』


言いながら、深く被ったフードの奥に苦笑にも似た微笑みを浮かべている。


「ここと一緒に成仏だけどな」

『私はその方が助かりますけどね。こんな真っ白な部屋、眩しくて居心地が悪いので』


見ると、床にも壁にも亀裂が入り始めていた。

ヒビの奥から、惣闇つつやみ色の空間が白い部屋を蝕んでいく。


「んじゃあ、引き続き案内を頼むよ」

『お任せください。仕事ですから』


最後の一粒のしかいが剥がれ落ちる。



聴覚だけが残っている空間で、待っとるぞ、と呟き、自分だけ隔離された現実を笑い飛ばした。

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この空に溺れる 雨咲 リリィ @candy_stella

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