それから

 晴れて私と先輩は恋人同士……なんて思ったかたわけぇええええ!


「瀬名、おれコーヒー飲みたい。あ、ブラックで」

「喜んで!」


 これってパシ……いやいや! ご主人様と犬ですねどう見てもはい!


 あれから先輩はよく私に構ってくれるようになった。もちろん嬉しい。昼には必ず私の教室に来てくれるし、お遣いだって私の飲み物分のお金も持たせてくれる。だから決してパシられている訳では! 苗字で呼んでくれるようになった。気を遣わないでくれるようになった。むしろオープン過ぎて先輩ジャイアン説が流れている。大丈夫か先輩。ちなみにのび太は私である。いやいいんだ! 親しくなってる証拠じゃないか! 恋愛フラグボッキボキな気もするけどいいんだ! あ、涙がちょちょ切れ……。自販機から出て来たパックのイチゴオレと缶コーヒーを両手に考える。先輩は私をどう思ってるんだろう。意識されるだけでよかった。こうしてパシ……お遣いまで頼まれるのも気を許してる証拠だと思えば嬉しい。嬉しいけど、少し切ない……気もする。もう完全に恋愛対象として見られてないもん。遠回しに諦めろって言ってるのかな。やっぱり好きでもない女から向けられる好意は迷惑だったのだろうか。


「はあ……」


 初めて人を好きになった。嫌いになる方法も引き際もわからない。けれどもし迷惑と思われているなら……、


「どうしたの?」


 すぐ背後に掛かった先輩の声にビクリと肩が震えた。


「え? 先輩なんで?」

「おまえの戻りが遅いから迎えに来たんだろ」


 そう言えば二人称も変わった。きみからおまえって。


「あ、はは、ちょっと考え事を……遅くなってすみません」


 苦笑しながら缶コーヒーを差し出すが受け取って貰えず首をひねる。


「先輩?」

「もしかして嫌だった?」

「え?」

「……ごめん、女子と、仲良くする方法がわからなくて、つい友達に対するノリで接することしか出来なくて……」


 言って俯く先輩に愕然がくぜんとする。まさか、


「私と仲良くなろうとして下さってたんですか」

「……なってるつもりでいたのはおれだけ?」


 マジか。え、つまり先輩は友達をパシっていると。いやそこじゃないだろ私!


「私もです! 私も前よりずっと先輩が近いです!」

「でも……元気なかったろ今」

「違うんです! その、もしかしたら先輩の迷惑になってるんじゃないかって考えてて、それで、」


 ああああ! 馬鹿正直すぎるだろ私! 動揺しすぎだ。だって先輩が仲良くって! 仲良くって! ああ、今夜はいい夢が見れそう。


「は?」


 浮かれる私とは反対に先輩はぐっと眉根を寄せている。は? の低音の破壊力よ。


「おれがいつ迷惑してるって? してたら言うし。だいたい関わらないし。何それ。勝手に決めつけないでくれる」

「え、ええええ、な、なんで怒ってるんですかあ」

「そりゃ怒るよ。こっちが頑張って近づこうとしてるのに、勝手に勘違いされて離れるとか、ふざけんなってなるよ」

「口の悪い先輩も素敵。え? 近づく?」


 貴重な先輩の毒舌にうっとりしていると溜め息をつかれた。解せん。すみません。嘘です。してます。……解すって新しい述語だな。


「好きでいてって言ったけど、人は変わるから……こんなにみっともなく縛り付けたりして……ごめん」

「なんで先輩が謝るんです?」

「ごめん。誰も好きにならないで。おれ以外」


 呼吸が止まった。え、それってどういう意味……、

 微動だにしない私にふっと苦笑を漏らした先輩が口を開く。それを聞いて私が絶叫したのは想像に難くないだろう。



「おれとつき合って」

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私の辞書に失恋の二文字はない! 貴美 @kimi-kimi

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