第5話 放蕩皇子の天敵

皇帝陛下から大変迷惑なお話を仰せつかり、今は自室に戻る為廊下を歩いていた。


(これはまずい事態だ!魔物討伐はすぐに行われる。つまり、暗躍の準備ができねぇじゃねえかぁーーーー!!!)


「大体何について嘆いているのかは分かりますが、廊下でボロは出さないで下さいね?」


「そんな悠長なこと言っていられるか!あのクソ親父、マジで頭割れてやがる。あれは深刻だな」


「よくもまあ帝城の廊下で、国のトップを貶せますね」


まるで他人事のように俺を諭してくるフィリア。

いやまぁ他人事なのだが。

仮にも俺のメイドにして組織のナンバー2なのだから、助力くらい願いたいものだ。


「いつまでも嘆いていても仕方ありません。今日は騎士団の方に顔を見せなければならないのですから、しっかり支度して下さいね」


「どうすれば俺はこの件をしなくて済むか。

即ち騎士団に暴行を加えられたと訴え自分は床に泡を吹きながら倒れ伏す……これだ!」


「いい加減にしないとルシア様の首が飛びますよ!?」


「ルシア!待ってくれ」


「うん?」


フィリアといつも通りの他愛のない話で盛り上がっていると、背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。


この時点でどんな人物なのかは想像できる。


俺の事を様をつけずに名前で呼ぶ者は、同じ皇族しかいない。


「グレシア兄上……。どうしました?」


駆け足でこちらに来た、長兄の兄。

グレシア・アークス・アウストレア。

このアウストレア帝国第一皇子にして次期皇帝。

容姿端麗にして武技も優秀。

性格も温厚で人当たりがよく、パーティや宴ではよく人に群がられる、この帝城の最重要人物にして、俺の実の兄である。


「すまないな、お前にこんな仕事を押し付けてしまって」

「何故、兄上が謝るのです?」

「それは、俺があの場で名乗れば、お前は魔物討伐なんて、危険な任務はしなくて済んだのに」


グレシア兄上が顔を俯き後悔の念を述べる。

グレシア兄上は、放蕩皇子と名高い俺でさえ優しくしてくれる数少ない人だ。

俺のようにデリカシーのない、よく言って下心のない人は、兄上にとって貴重な人材らしく、貴族の集まりがあった時は、疲れたと言って良く俺の部屋まで来て話をしたものだ。


「ルシア!俺はお前の味方だ。危険だと思ったら直ぐに逃げ帰ってこい!俺が守ってやる」

「いいんですか兄上。放蕩皇子の俺を匿ったとなれば兄上に変な噂が立つかもしれませんが?」

「お前を守る為なら、この地位など欲しくはない!それに、本当に放蕩皇子なら、自分の事を卑下する発言はしないだろ?」


本当に、この人には敵わないな。


「分かりました。まぁでも、俺は武技にはほんの自信もないのでね。危険だと思ったら、脱兎の如く逃げますので、大丈夫ですよ。兄上も、お体にお気をつけて」

「……はぁ〜。そうだったな。お前も気をつけろよ」

「ええ、それでは」


兄上の目をしっかりと見て、深くお辞儀をしてその場を去った。



アウストレア帝国には近衛騎士と呼ばれる最強の騎士団がある。


あいつらは人間をやめている。


同じ空間にできればいたくない。

握手しただけで腕が吹き飛びそうで怖い。

まぁ、そんなに俺の体はやわではないが……。


クソ親父とは言え、皇帝の頼みを受けてしまった以上(半ば強制だが)、任務を共にする騎士団に挨拶くらいは流石にしておかないと……俺の首が飛ぶっ!


という訳で、今は騎士団が使用している訓練施設に来ていた。


放蕩皇子が出向いた事に、何事かと胡乱な目を負ける門番はフィリアに説得してもらった。


門番の男はフィリアの並外れた美貌に釘付けになっている。


……今晩こいつのアレを切ってやろう。

バットではなく玉を奪う。


先人の知恵は恐ろしい事この上ない。


無事に通してもらえる事になった。

まぁ当然なのだけども。

すれ違い間際に陰口を飛ばす門番は、俺達を案内してくれるらしい。


施設に入ってもそれは同じで、徐々に機嫌を損ねていくフィリアを宥めるのが一苦労だった。


「私、ここにいる人達全員嫌いです」


「身も蓋もないですねフィリアさん」


「ルシア様に敬意を払わない害虫に価値はありません。今晩早速潰しましょう」


「やめろ、俺が追放される」


額に青筋を浮かべ、陰口を飛ばしてくる騎士達を睥睨するフィリアには、美人特有の凄みがあった。


「騎士団長が死んだって事は、今こいつらを統括してるのは副団長なのか?」

「そうですね」

「……斬るならそいつを斬れフィリア」

「かしこまりました」


そうして、いかにも風な場所に連れてこられた。


門番がノックをする。


「失礼します、副団長!皇子様がお見えです」

「分かった。通してくれ」


えっ?


ちょっと待ってくれ。


嫌な予感がする。


「それでは」


と扉を開ける門番。


その先は、執務室とは思えない程、私物や書類が散乱の限りを尽くされた汚い部屋だった。


更に部屋の窓側の机には、その倍上の物が置かれている。


「これは……酷いな」

「ルシア様の部屋と同格ですね」


ちょっと俺のメイドが辛辣すぎる件について。


こいつは本当に俺のメイドなのか?


「副団長殿!今、あのクソ有名なゴミ放蕩皇子とはいえ皇族がお見えになっているのですよ!流石に片付けてください!」


よし門番、お前はクビだ。

親父にちくってやろう。


え?

親父は俺の言うことを信じないって?


いやいや流石にそれは……ないよな?

だって、実の息子ですよ?


「んんんっ。なんだ朝っぱらからうるさい」

「既に昼なのですがっ!?」


声のした方へと目を向ければ、書類の山と化した机からモゾモゾと音が聞こえ、そして、とても綺麗で細やかな、エメラルドグリーンの髪の毛が見えた。


あっ、やばい。


その少女は、身をくねらせながら上体を起こし、目を擦ってこちらを見上げる。


非常に整った容姿だ。


そこらの男なら、一眼見ただけで惚れるか何かするぐらいの美少女。

だが、俺はその少女にそんな目は向けない。


代わりに、悪寒が走った。


「うん、お前は?……まさかルシアかっ!?」


「いえ、人違い……べぶっ!」


「久しぶりだなルシア!会いたかったぞ!!!」


「首が折れていくぅぅぅ!!!……あっ」 


「ルシア様!」


「副団長殿!?」


俺は美少女にいきなりに抱きつかれて(首絞められて)、その場に昏倒しました。

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帝国の皇子です、そして転生者です〜「俺、暗躍とかしてみたかったんだよね」「左様ですか……」 白季 耀 @chuuniyuki98

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