大正夢日記

@Tsukasa0707

第1話 タイムスリップ

2010年 東京


清水つかさはいつも通り7時に起床し学校に行く支度をしていた。基本的にこの時間、両親は寝ていて朝ごはんはない。朝ごはんを自分で作ってもいいが、冷蔵庫には使える食材もない。あったとしても、音がうるさいと怒られるので作らない。学校の支度を終え

8時に家を出て8時20分ちょうどに教室に着いた。


「おはよう!あかり!今日もかわいいね〜!」

「おはよう!つかさ。なんかいいことあったの?」

「明日、12歳の誕生日なんだー!!」

「明日じゃん!なんで今日こんなにテンション高いの?」

「私はいつもテンション高いよ〜」

小泉あかりはつかさの唯一の親友でいつも一緒に遊んでいた。


つかさは自分の家庭環境に強くコンプレックスを持っていたためそれを隠すように自らを嘘で塗り固め、別の人格を作りあげていた。しかし、誰にも相談できず理想と現実のギャップが大きくすぎるため演じ続けるのはかなりの負担であり徐々につかさの精神を削っていったのであった。

あかりはつかさの家庭環境と全く逆の家庭環境で日々恵まれた環境で育てられていた。

あかりとつかさが仲良くなった理由は深夜アニメという共通の趣味があったからである。


つかさにとって深夜アニメとは辛い現実、不安を忘れさせてくれる唯一の道具だったのだ。

しかし、当時深夜アニメの認知度が一般的に低かったため、当然同じ歳の小学生が観てるはずもなく、つかさは趣味が一致しない友達がいなくて孤独だった。なんとか共通の趣味がある友達を作ろうと思い、クラスメイトに自分が観てるアニメを紹介したが、誰も興味を示さないどころか、オタクという偏見の目で見られてますます孤独になっていった。


あかりは唯一、つかさに勧められていた深夜アニメを見始め厳しい中学受験の現実から解放される深夜アニメに感動し、それからずっとつかさの親友になっていった。



誕生日の朝。


「もうダメだ。生きていても何もいいことがない。」前日の夜につかさの母親がヒステリックを起こし、つかさに虐待をしていた。仕事から帰ってきてヒステリックを起こすのは日常茶飯事だったが、積もり積もっていたつかさの心の傷はもう手に負えないところまで来ていた。虐待に苦しんでいた12歳になったばかりのつかさは深夜の自宅で首吊り自殺を決行した。

死への恐怖と闘いながらなんとか紐を首にかけ、椅子を思い切り蹴り飛ばした。最初はものすごく息苦しかったが、それもわずかな時間。すぐに全身麻酔のように息苦しさは消えていった。全部の感覚がなくなっていくような感じがした。




ここは死後の世界?つかさは気が付くとどこかに横になっていた。起き上がり辺りをみまわすと真っ暗でなにも見えない。時間が立っていくうちに目が暗闇に慣れてきてやっとなにかが見えてきた。

鳥居が見える。ということはここは神社。さっき自宅で首を吊ったはずなのに何故今、神社にいるのだろうと心の中で首を傾げた。

「うーん、なんだろう…。とりあえず家に帰ろうか」なんで神社で寝ていたのかを必死に思い出そうとしてみたが、全然記憶にない。最後の記憶は家で首を吊った記憶だが、現実的に考えてみて、そういう夢を寝てる時に見てたのかと思った。

まずは自分の現在地を把握しようと神社から出てみた。しばらく周りを歩いていると公園みたいなところにでた。大きな池があり、たくさんのカエルが鳴いている。

つかさはまだ12歳の小学生、真っ暗で目の前に池があり、カエルの鳴き声がいっぱい聞こえてくる状況には耐えられない。


「お嬢ちゃん、こんな夜更けに一体どうしたんだ?」誰もいない真っ暗闇の中、いきなり後ろから話しかけられたつかさは思わず、悲鳴を上げてしまった。勇気を出して後ろを振り向いてみると、黒い着物を着た50歳くらいの見るからに優しそうな顔のおじいさんが心配そうな表情でつかさを覗いていた。

「驚かしてしまってごめんよ」つかさは悲鳴を出したおかげで心に落ち着きを取り戻した。

「あの…ここってどこなんですか?」

私の言葉にびっくりしたおじいさんは

「ここって?ここは麻布だよ。お嬢ちゃんのうちはここの近くだろ?」

麻布?つかさにとっては初めて聞いた地名だった。

「あの、ここって東京ですよね?」

おじいさんは今度は不思議そうな顔でこちらを見てきた。

「おう、東京府麻布区だよ」

「東京都じゃないんですか?」

「なんだそりゃ、東京府。」

つかさは学校の歴史の授業を思い出した。つかさは授業中、授業を聞かずに教科書を眺めるのが好きだったので、教科書は大体頭の中に入っていた。東京府?どこかで読んだ記憶がある。確か、昔の東京は東京都ではなく市と府に分かれていたなと思い出した途端、つかさはすべてを察し絶句した。

「おじいさん、今は明治何年です?」

また驚いた顔をしたおじいさんは「明治はもう終わったよ。今は大正14年だよ」


なんとつかさは大正14年にタイムスリップしてしまったらしい。


つづく

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