鎌倉時代を舞台とする力作。由比ガ浜あたりで、海風に吹かれたくなります。

呑気なネズミの忠助は、未来から来たらしく「江ノ電」を知っている。唐の国からの渡り猫、栄子は物知り猫である。これに白いカラスを加えた三匹の式神を従えて、鎌倉陰陽師の血筋をひく兔丸が、霊性・仏性の力を発揮して、のびやかに跳ね飛ぶ。主人公の幼童・兎丸も、三匹の式神も、この上なくかわいく、愛しい。いや、かわいすぎる。
これは、単なる鎌倉陰陽師物語ではない。作者の知的なイマジネーションと、才気あふれる筆力、そして鎌倉へのオマージュが結実した、他に類例を見ない「鎌倉歴史ファンタジア」だ。