8.
後日談というか――今回のオチ。
あれから一か月後、すっかり体調を良くした私は、旧連絡橋を訪れていた。オケアノス大河は、今日もごうごうと激流を川下に送っている。頬に跳ねる飛沫を独り占めできることに、私は心地よさを覚えた。
あれから旧連絡橋のバリ屋は姿を消した。もう誰も、この忘れられた橋を歩む者はいない。それでいい。このような古い場所には、私のような古い人間がしょせんお似合いだ。
そういえば、これは何の関係もない話だが――つい最近、「人魔戦争」の生き残りが、共和国に帰還したらしい。なんでも、大戦によって欠損した部位のリハビリに奮闘し、その後は恩人の国で復興の手伝いをしていたとか。あわよくば、その国に骨を埋めるつもりだったが――今回、なんらかの意図が働いてか、共和国に戻ってきたとのことだ。
彼の右手には、それは美しい女性の腕が組まれていたらしい。二人は幸せそうな笑顔を浮かべて、涙を流していたのだとか。今後は共和国内に新居を構えて生活していくのだと、黒電話が教えてくれた。
いつの時代でも、伴侶と歩む人生は、決して簡単な道ではない。
だが、大切なことを知っているあの子なら――バリ屋として人に尽すこと知っていたあの子なら、きっと最後まで幸せに生きるだろう。私はそう思う。
「神様はいじわるなもので――か」
人生の幸福は、天命の一番最後にあるらしい。なら――こんな私の余生にも、少しは生き甲斐があるというものだ。
いつか幸福の訪れるその日を楽しみに待ちわびながら。
バリ屋のいない、連絡橋を一人で。
鼻歌混じりに、今日も往く。
バリ屋のいない連絡橋 神崎 ひなた @kannzakihinata
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