晴れの日

水原緋色

第1話

 ニュースに出てきた天気予報士が、スマホに表示される天気予報が、梅雨明けを告げた。久しぶりに肌を焼くような太陽の熱量と、息が苦しくなるほどの湿度。立っているだけで汗が噴き出してきそうだ。

 ようやく、夏だなぁ、と建物の影を歩きながらぼんやりと頭の片隅で考える。大学までのたった10分ほどの道のりがとても長く思えて、嫌になった。そう感じるのは暑さのせいだけではない。試験とレポートに追われる日々に嫌気がさしているからだろう。

 大学に入るまで、誕生日は夏休みに入ったばかりで、開放感に包まれていた。それが今は、年に二度の心身ともに疲れる期間にもろかぶりというありさま。ため息を押し殺しながら赤く光る歩行者信号を見つめた。



「なんかもっとこう、青春っぽいことすればよかったかなぁ」


 ファストフード店で勉強に励みながら、ポツリとこぼす。何、と少しめんどくさそうな視線を感じながら言葉を続ける。


「ま、今更でしょ。それにあんた、だれかと遊ぶの好きじゃないでしょ」

「ごもっとも~。でもさ、思ってしまうわけですよ。アニメとか小説みたいな青春を過ごしてみたかったなぁって」


 ばかばかしいと鼻で笑われ、そりゃそうだと苦笑を浮かべ、勉強を再開した。



 本当に青春っぽいこととは縁のない日々だった。彼氏も彼女もできず、なかのいい友達はいれども、家が遠くて遊ぶ気にもなれず。田舎ゆえ遊ぶ場所もなく。いろいろと原因が重なって、家で一人休日を過ごすことがほとんどだった。自分の学校嫌いもその原因の一つだ。けれども、誕生日だけは毎年特別な日だった。

 地元の神社でとてもとても小さいながら天神様を祀るお祭りがあった。社務所に、子供用と大人用、それぞれ百円均一などで買いそろえた景品を並べる。子どもの一等はたくさんの花火やスイカ。大人の一等は缶ビール。朝から準備をし、夜遅くまで社務所にいる。それをするのは地域の中学生。けれど小学生のころからその日は神社に入り浸っていた。いつもと違う完全な非日常。楽しくて楽しくて、何をしたかは覚えていないがただただ楽しかった。その日は決まって太陽が姿を見せていた。



「ほら、青春っぽいことするんでしょ。行くよ」


 当日誘われたのはカフェ巡り。うん、青春っぽい。というか、充実してる感じがする。お互い行きたいと言い合っていたカフェをめぐる。可愛いだけじゃなくて、何となく琴線に触れた写真のカフェや美味しそうなサンドウィッチの写真のカフェ。一日中食べて歩いて、足が棒のようになる。


「本日の主役の方には、ご満足いただけましたか?」

「そりゃもちろん」


 ニヤリといたずらっ子のような笑みをお互いに浮かべた後、おなかを抱えて笑った。

 今日も太陽がまぶしい。溶けそうな暑さのなかまた歩き出した。


「やっぱり、晴れてないと」

「なんか言った?」

「なんでもなーい」


 見上げた空は青く青く遠かった。

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晴れの日 水原緋色 @hiro_mizuhara

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