冬の飲み物
或る女が、誰も使っていないかのようにきれいに片付いた台所のシンクで、何かの作業をしていた。
真っ白で、それでいて少し透明な印象を帯びた丸い団子のようなものを、手に乗せては丸めて、沸騰したお湯の中に投げ込んでいく。しばらくたって浮いてきた其れは、透明感のある白玉で、まるで雪の精が台所に舞い降りてきたかの様に、放り込まれた冷水の中をふわりふわりと泳いでいた。
女は、その白玉団子の妖精のような美しい舞が終わるのを待ち、掬い上げた。妖精は力を失い、冷たいお玉の中に納まったが、いまだその透明感は失われず、柔らかく滑らかなその表面を、するりと躍らせて、何かの黒い塊の中に入って行った。
女は、温めてあったその黒い何かを、樫の木でできた丈夫なテーブルの上に静かに置いた。テーブルが傷んではいけないので、熱い其れを置く場所に、花柄が施された厚い鍋敷をするりと敷く。女はまるで、猫が軽々しくキャットタワーに昇るかの如く、柔らかくしなやかな動きで白玉の妖精が入った黒い何かを置いた。
妖精は温かいその液体の中に、次第に潜って行った。女性は、それを確認すると、小さな木のお玉で、液体と妖精をかきまぜた。妖精の白くたおやかな体は、黒く甘い小豆の餡にまみれてもなお、透明さを保っていた。女が、樫の木でできた丈夫な椅子に、キャットタワーに上る猫のようなしぐさで座り、手を合わせてからその飲み物を口に運んだ。甘く温かい粒あんの汁と、そこから救われた白い妖精の触感を確かめる。その時、ちょうど良いタイミングで、樫の木でできた家のドアが開かれた。そこには、まるでドッグランから帰ってきたばかりの犬のように疲れた顔をした男性が立っていた。
女は、その疲れ切った犬に、こう言った。
「お疲れ様。今日は遅かったのね。お汁粉を作っておいたから飲んでね」
くどい文章集 瑠璃・深月 @ruri-deepmoon
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