くどい文章集

瑠璃・深月

夏の飲み物

 まだ初夏の幼さが残る空に、彼女は溜息を吐きかけた。それはまるで、鋭く輝く眩しい雲のように淡く、色めいていた。

 彼女は、夏に似つかわしくない、桜の花びらのような柔らかい唇を透明なコリンズグラスに押し当てた。そして、その中に入っている、半透明な真珠に似た飲み物を一口、口に含んだ。

 その真珠色の飲み物を太陽にかざすと、光の当たる場所は白く濁った光を放った。しかし、その光は彼女の心を貫き、まるでやぶさめの放つ矢のように突然、彼女を射抜いていた。

 蜜のように甘く、夏に吹く一筋の風のように爽やかなその白い飲み物は、彼女を魅了した。彼女は、その頭にかぶっていた黄金色の麦わら帽子を取った。手に持っていたコリンズグラスを、座っていた場所に置く。カラン、と、氷が溶けてグラスの腹を蹴る音がする。彼女は、古民家の縁側から外に出た。目の前にある景色が一変し、眩しくて目も開けられない。麦わら帽子からのぞいていた彼女の金の髪が、強く鋭い光を放つ太陽に焼かれる。彼女は、肌から滲み出る汗が体を覆う前に、古民家の縁側に戻った。黒曜石のように黒く光る、古民家の床。そこに置いてある漆塗りの黒い盆の上にはガラスのコースターが置かれていた。白い飲み物の入ったコリンズグラスは、その上に置かれていた。

 彼女は、ふと思い立ち、その金色の髪を、白樺のように白く細い指でかきあげて、結んだ。そして、鈴の音のような、澄み切ってよく通る声で家人を呼んだ。

 そして、片言の日本語をよく考えながら家人に向かって放つ。彼女はその対価に、白い飲み物の正体を得た。

 家人である翁は、皺だらけの顔に柔らかな笑みを浮かべて、彼女にこう告げた。

「それは、カルピスですよ」


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