オタクゾンビ活躍する
喰寝丸太
第1話
年と言う訳でもないが、完徹三日がやけに堪える。
俺は、朝靄鏡也(あさもやきょうや)25歳。
ブラック企業のプログラマーをしていて、暑い夏の昼間の道路を帰宅するために急いでいた。
やばい、気を抜くと道端で眠りそうだ。
眠ったら熱中症で死ぬかも。
今は2072年で温暖化は科学技術の進歩で、だいぶましになったとは言え夏は殺人的に暑い。
その後なんとかアパートに辿りつき部屋に入るや否や、エアコンのスイッチを入れ泥のように眠りつく。
「ふぁ、良く寝た」
さすがに10時間も寝ると頭が少し痛いな。
久しぶりの休日なので、一日趣味のゲームと映画をみて過ごすつもりだ。
大きめのヘッドセットをかぶり、3Dホログラフィーに音声で命令し、ゲームと映画を大音量で楽しむ。
そんなこんなで一日過ぎ、買いだめして置いた映画を見ながら、いつの間にか眠っていたらしい。
目覚ましの音声案内で、飛び起きる。
「はっ、もうこんな時間、会社行かなきゃ」
服をスーツに着替え急いでアパートを出た。
路地を抜け大通りに出るとあまりの静けさで異常に気づく。
あれっ、車が一台も走ってない。
この時間帯はいつもなら、渋滞するほど自動運転の電気自動車が走っているはずだ。
街は静まりかえり車は路肩にちらほら止まって動いていない。
死体らしき物もいくつか転がっている。
300メートルぐらい先に人がゆらゆらと道の真ん中を歩いている。
体の向きを突然こっちに向け、うなりながら走ってきた。
この状況はゾンビ物だ。
いそいで情報収集しなきゃ。
出てきた路地を逆にたどり、全速力でアパートに向かって走った。
走り疲れて立ち止まって息を整えながら、後ろを振り返りゾンビがきていないことを確認してほっとする。
その時、足首に突然激痛が走り、目をやると這いつくばったゾンビが生垣の切れ目の死角から噛みついていた。
「痛たたっ。こら、放せ!」
なんとかゾンビを蹴り剥がすことに成功し、パニックになりながらアパートに走り込んだ。
急いで施錠し、家具をドアの前に移動してバリケードを築く。
「しっかり噛まれたよなぁ」
感染率とか死亡率とかどうなんだろ。
ズキズキ痛む足をこらえ、パソコンを起動し、3Dホログラフィーに情報掲示版を映す。
助けを呼ぶ書き込みや避難場所の情報を読み飛ばし、噛まれた場合の対処方法を探した。
噛まれた場合の情報を読むたびに、顔が引き攣っていくのが解る。
噛まれると100%感染し、ゾンビになるのも100%で、結論としてもう助からないらしい。
ゾンビになると理性を失い、生きてる人間を襲うようだ。
感染した後すぐ死ぬと死んだ時点でゾンビになると書いてあった。
念の為に体温を測ると38度。
ウィルスに感染すると熱が出ると掲示版にあった。
わずかな希望が潰えたように感じる。
「はぁ、後寿命12時間か」
何をやってから、最後を迎えようか。
天涯孤独で連絡するべき家族もいないし。
しばらく色々なことを考えて、色々なことが頭をよぎる。
そうだ、酒盛りをしよう。
その酒は新入社員の時に初めてのボーナスで買った物だった。
50年物のブランデーで、近所の酒屋いわくうちの店で一番良い酒だと。
とっても嬉しいことがあった時に飲もうと封を開けずに取っておいたが、この際だ全部飲んでしまおう。
音楽をスピーカーで大音量でかけて、酒盛りを始める。
酒にあまり強くないのに、一瓶空けてどうしようか、働かない頭で考える。
「うえーぃ」
こうなったらウィルスに殺されるぐらいなら死んでやる。
使ってない延長コードを工具で切断し、芯を剥きだしにして両手に一つづつ握り締めた
足で延長コードをコンセントに差し込む。
差し込んだ瞬間、バチッという音と共に意識が闇に飲まれた。
***
あれっ昨日は何してたっけ。
酒盛りをして瓶を半分ぐらい空けて、氷を冷蔵庫に取りに行った後の記憶がない。
工具は床に散らばっているし、延長コードは線を剥いてある。
武器でも作ろうとしていたか。
工具やゴミをかたづけてはっと思いつく。
そうだ、ウィルスはどうなった。
今何時間ぐらい経ったんだ。
壁の日付や西暦まで表示される時計を見ると、なんとあれから一週間すぎていた。
体に異常はない?
まずは、体がやけに軽いのでシャツをめくってお腹をみる。
たるんだぜい肉はなく割れて引き締まっていた。
体重計に乗ると72キロの表示が。
一ヶ月前に量ってから変わってない。
体型が変わっただけの様だ。
気温も暑いとか寒いとかも感じない。
体温を測ると48度もある。
思わず壁の温度計を見ると同じく48度。
掲示版にゾンビの体温は気温と同じになると書いてあったのを思い出した。
でも、意識はあるよな。
会話もできるし、まだウィルスが完全に発症してないのかも。
くよくよしてもしょうがない。
パソコンの電源を入れようとして電気が来てないのに気づく。
なんだ、ブレイカーが落ちてるじゃないか。
「ブレイカーを入れてっと」
あれ、照明が点かない。
停電か、まいったな。
この体って食事できるのかな。
空腹感はないのだけど。
試しに缶詰を食べてみる。
ちゃんと味が感じられた。
食べられるって素晴らしい。
冷蔵庫の中は腐って全滅だったので、食料探しと様子見に家から出るのを決意した。
武器の金属バットを握り締め、おそるおそる外を窺う。
ゾンビの影がないのを確認して外へ出る。
路地を歩きゾンビに噛まれた地点にさしかかった。
足の骨が折られているゾンビが見える。
歩けないのなら、走って逃げれば楽勝だな。
ふと足が気になってズボンの裾を引き上げると、噛まれた場所がいつの間にかきれいになって回復して痣すらなかった。
ゾンビが怪我をすると治らないと掲示版に書いてあったが、きれいに治ってるって事は発症してないのか。
ゆっくりとゾンビに近づくと、無反応。
そばを通っても全く反応しない。
気になって引き返し再びゾンビの前を通る。
やっぱり反応しない。
金属バットでおそるおそる突くが反応しない。
ゾンビは温度で襲う対象を選別しているのかな。
謎だ。
ゾンビに襲われないことが分かったので、少し安心して表通りにでる。
いつも利用しているコンビニにいくが、その道中もゾンビには襲われなかった。
物が散乱したコンビニは保存できる食料は全て持ち運ばれている。
頭を割られた死体も転がっていた。
このコンビニは駄目だな。
ろくな物が残っていない。
思いついたのはゾンビに襲われないのなら、ゾンビが沢山いる店に行けば良いんじゃないかと言う事だ。
いつも人が多かったスーパーに行くことにする。
このスーパーは当りだな。
保存食がみんな残っている。
ゾンビもテンコ盛りだけどな。
カップラーメン、缶詰、菓子、飲み物、カセットコンロをカートの買い物かごに入れながら、店内を移動する。
こんな状況だから盗みは、超法規的処置ってことでかんべんしてもらう事にする。
カートを押しながらの帰り道、入り口にバリケードが築かれているマンションがあった。
前を通ったら男が怒鳴ってくる。
「おい! 食料を置いて立ち去れ!」
「何でだよ、自分で取りに行けよ」
「言っても分からないようだな」
男は持ってきた鉄パイプを構えた。
構えから見るになんか武道をかじっている感じがする。
たが体が軽いせいか負ける気がしない。
カートから金属バットを取り出して構える。
「オラ! オラ! オラ!」
男が鉄パイプを振るってくる。
油断していたわけではないが、頭に連続して打撃を貰った。
全然痛くない。
男はトドメとばかりにのどに突きを放ってきた。
不思議とゆっくりに見えたので金属バットで軌道をずらす。
その後の攻撃を全て金属バットではじく。
だんだん楽しくなってきた。
「はぁはぁ、お前素人だろう。その足運びと構えを見ればわかるんだよ。なのにその反射神経はなんだ!」
「運動は昔から得意なんだよ」
ウィルスに感染したことを一応隠すために嘘をつく。
「まだ、やるか?」
俺の威嚇に捨て台詞を残して男は逃げていった。
これからもこういうことは有るんだろうか。
銃が出てこなければ楽勝の気がするが、なるべく平和に行きたい。
とりあえず食料は手に入った。
避難所にでも行ってみるか。
避難所の目星はついている学校だ。
学校には地震等の災害に備えて食料と水そして充電スタンドとしての機能を持たすため発電機が備え付けられている。
周りを塀で囲われているし、門も鉄製で立てこもるのに打ってつけだ。
金属バットを装備して、小学校に行くと門が鉄板で補強してあり、敷地の中に見張りと思しき人が数人立っている。
「すいませーん! 話聞かせてもらっていいですか?」
見張りの一人が門のそばに寄ってくる。
話を聞いて貰えそうだ。
「なんだ、中に入れて欲しいのか?」
「話だけでもいいです」
「参考までに聞いていいかどんな技能を持っている?」
「職業はプログラマーです」
「プログラマーか。三日前までならネットが繋がって色々できたんだが、今は必要ないな」
「感染者は駄目ですか?」
「ああっ規則でな。新入りは感染者では無いという証明のために体温を一日の間一時間置きに測らせてもらっている」
「じゃあ自分は駄目ですね感染者で体温上がっているし」
「どおりでゾンビを恐れずにのんきに歩いてくるはずだ。普通は車で移動するぞ」
三日前までネットに繋がっていたようなので、情報を色々聞く。
聞いたことをまとめると。
・ゾンビは脳に損傷を与えると死ぬ。
・人間以外の動物にはゾンビウィルスは感染しない。
・音をたてるとゾンビは寄ってくる。
・自衛隊の部隊がゾンビに負けた。
・ゾンビにはバーサクモードと呼ばれいてる状態がある。
・銃火器や一定以上の長さの刃物を向けるとバーサクモードになると。
・バーサクモードは、ゾンビが賢くなり熟練の兵士の動きをして運動能力が何倍もあがるそうだ。
・銃をゾンビが使ったなどという噂もあるらしい。
・ゾンビになっていなければ感染者に噛まれても発症しない。
・犯罪者の集団がホームセンターにいる。
・安全に移動するには車が不可欠のようだ。
・拠点は、大体自家発電機のある所が選ばれる。
・感染者を受け入れている総合病院という避難所がある。
・総合病院では、感染者に無料で薬を与え色々な実験をしているらしい。
・ゾンビウィルスはまだ発見できてないみたいだ。
・ゾンビになると細胞が変化、DNAさえ無くなる。
総合病院は感染者をモルモット扱いしているようで少し気分が悪い所がある。
しかし、助かる命が少しでも増えればという思いで行ってみる事に。
総合病院はコンテナで一階の入り口にバリケードが築かれている。
出入り用に防火扉が溶接してあった。
鉄の扉を叩きながら声を掛ける。
「すいませーん! ここは感染者を受け入れてる総合病院ですかぁ!」
「今扉を開けるから、武器を置いて手を上げながら、ゆっくり入ってこい」
言われた通り金属バットを地面に置き手を上げながら入る。
中には5人木刀や鉄パイプを持った男がいて代表者が話し掛けてきた。
「すまんな、感染者の中には自暴自棄になって暴れてみたり、物資を手に入れるため襲撃にくる健常者もいるんだ」
謝りながら、ボディーチェックをしてくる。
「いいですよ。用心する気持ちは分かります」
「感染者か、それとも普通の病気どっちだ?」
「感染者です」
「感染してからどれぐらいだ?」
「8日から9日ってとこです」
「嘘じゃないだろうな」
かなり疑われているみたいだ。
「先生かなり特殊な感染者の患者が来ました。診察しますか?」
警察が使うような無線で連絡を取っている。
「了解です。連れて行きます」
無線を切り手で合図する。
「こっちだ付いて来い」
5人の男達に囲まれながら移動した。
エレベータは止まっているみたいだ。
階段をのぼり4階の診察室に入る。
「医師の吉田です。よろしく」
「朝靄鏡也です。おねがいします」
「感染の所から、今までを話して下さい」
ゾンビに噛まれた所から今まであった事を簡単に説明する。
「話を疑うわけじゃないけど、体温を測ってもらえる」
体温を測ると表示は28度を示していた。
診察室はエアコンが効いているからこんなとこだろう。
「興味深い。今度は脈拍と血圧を測ります」
機械に腕を入れる。
「脈拍、血圧共にゼロだね。次は血液と尿と唾液だ」
「あの尿は出ません。トイレには感染してから一回も行ってません」
「わかった血液を取るよ」
慣れた手つきで血液を取られた。
唾液を試験管に入れる。
「血液と唾液の検査の結果はまだ時間がかかる。現在の状況から診断すると、完全にゾンビになっているね」
「手遅れと言う事でしょうか」
「普通の人間に戻ることができる確率はかなり低いと思う。ゾンビ化の仕組みが分かれば別だが」
「分かりました」
「所でかなり珍しいケースなので、出来れば入院してもらいたいと思う」
「いいえ、入院はしません。何か気がついたことがあれば、又来ます」
うすうすゾンビになったことは分かっていたのでショックはない。
ゾンビ化の仕組み解明するヒントでもぼちぼち探っていこうと決意した。
そして、何時まで知性を保てるか分からないので、これからは少し趣味に生きてみようと思う。
趣味に生きるには電源が必要だな。
ホームセンターは悪党の巣窟だって聞いてるし、どうしよう。
病院から帰りながら決めたことがある。
人間もゾンビも相手が攻撃しないかぎり、こちらからは攻撃しない事にした。
人間は勿論のことだが、ゾンビも遺体ということ考えれば、こちらから積極的に手を出したくない。
それた思考を戻す。
家電量販店は物色されているだろうし。
そうだ公園だ。
公園はゾンビが沢山いて、ホームレスが太陽光発電システムを使っていたはず。
カートを押して公園に取りに向かう。
何回も往復して太陽光発電システムを何台か持ってくる。
次は設置方法を調べに図書館だ。
図書館は自動ドアが開きっぱなしになっており、中に相当数のゾンビがうろついている。
データチップが記録媒体として主流だ。
しかし、一部の人間に根強い人気があるので、図書館には紙媒体の本も置いてある。
荒らされていないようだ。
本が床に何冊か落ちていて血の染みと頭を潰された死体は所々にあるが。
電気工事関連の棚をみて設置工事に関係あるような本を読む。
なるほど、わりかし簡単にいけそうだ。
更に読み進める。
えーと、この内容はさっきみた本に詳しく書いてあったはず。
どれだっけ。
内容が一字一句思い出せる。
もしかして、今日読んだ内容は全部覚えている。
この能力が学生の時あれば良かったのに。
設置工事の本を読み終え、せっかく図書館にきたので興味ある本をパラパラめくってみる。
おう、どんどん記憶されていくな。
これ脳がパンクしないかな。
急に怖くなって読むのを適当な所でやめた。
図書館にはまたこれるから、早く帰って電気工事しなきゃ。
アパートに帰り、屋上に太陽光パネルを設置する。
これでやっとゲームができるな。
今夜はゲーム三昧だ。
反射神経が上がっているので、ゲームはつまることなくサクサク進んでいく。
溜まっていたゲームを4本クリアした所で、制御パネルから充電池の残量が少なくなった警告音が鳴っているのに気づく。
思わず徹夜したけど眠くないな。
これもゾンビ化の影響だろう。
そういえば、ゾンビの眠っている所見たことがない。
充電している間に書店巡りをしよう。
近所の書店に行く途中で車が走っているのを久しぶりに見る。
たぶん物資調達の為だろう。
車を止めて話をしたいが、いまさらだな。
感染者は受け入れて貰えそうにないし、集団生活は苦手だ。
複雑な思いを振り切って、書店に行く。
店の中にゾンビはいないな。
死体もないし良いことだ。
自動ドアをゾンビパワーでこじ開け棚のデータチップを物色する。
買い物かごがあったのでそれにデータチップを入れた。
大漁、大漁。
ライトノベルや漫画で脳がパンクするなら、オタク冥利につきるぜ。
アパートに帰り、気になっていた作品から、携帯端末で読みふける。
結局、完徹を三日もしてしまった。
今読んでる作品も、もう続きがでないんだなぁ。
悲しい。
事態解決のために微力を尽くしてみますか。
まずは、簡単にできることから、ということで体力測定だな。
運動公園まで走っていく。
かなり距離があったが呼吸は乱れてない。
腕時計のストップウォッチを操作しながら、100メートルのコースを走る。
全力じゃないのに4秒ぐらいしか掛かってない。
人間を逸脱していることは分かったので、斜め上のアプローチをしてみる事にする。
アパートに帰り洗面器に水をはりどれだけ息を止められるか計った。
30分我慢したが一向に苦しくなる気配がない。
呼吸していないという結論が出た。
ちょっと怖いが、バーサクモードの実験をする。
包丁を持って近所の骨折ゾンビの前に立つ。
あれっ、やっぱり反応しない。
仲間だと思われてるのかな。
検証は切り上げ、病院に行くことにした。
中に入れてもらい、この前も来た診察室に入る。
「分かったことを伝えに来ました」
「さっそく聞かせてもらえる」
先生は何時も診察室で待ち構えていた。
身体能力などの話をする。
「推測するにバーサクモードに近い状態になっているみたいだね」
「この前の検査の結果はどうですか」
「血液、唾液とも特異なウィルスや不審な物質は発見されなかった」
「又何かあれば来ます」
やれる事はそれなりにやったので帰って散々ゲームで遊んだ。
やりたいゲームはあらかたやったので、街に出る事に。
あてもなくぶらつくと、倉庫が立ち並ぶ一角に出た。
前を見ると、はるか前方にゾンビに囲まれたワゴン車が見える。
やばい、人が襲われている助けなきゃ。
全速力で走りながら状況を見た。
車のガラスは全て割られ補強の板で何とか防いでいる。
怒号と悲鳴が聞こえ、板の隙間から武器のパイプと恐怖に引き攣った顔がちらほら見える。
そのうちの一人と目が合った。
あれはよく行っていたコンビニの店員の女の子。
美人でナイスバディの女の子に実は秘かに惚れていた。
100メートルが何キロにも感じられる。
間に合え、ゾンビ止まれ。
強く念じると、ゾンビが攻撃をやめ一斉にこっちを見た。
なんだ、ゾンビ物から超能力物に路線変更か。
走るのも忘れゾンビとにらめっこする。
こっちへ来いと念じるとゾンビがゾロゾロと向かって来た。
とにかくゾンビを遠ざけなきゃという思いを抱く。
表通りに行けと念じて命令すると命令どおりに表通りを目指して歩き始めた。
「皆さん大丈夫ですか?」
車に近寄りながら声を掛ける。
「「「「はい大丈夫です」」」」
「それよりさっきのは何ですか?」
「実はエスパーでして。ゾンビを操ったのも、すごい速さで駆けつけたのも超能力なんです」
ゾンビだと言うと惚れた女の子に嫌われそうなので誤魔化す為の嘘をつく。
「ゾンビがいるのだから、エスパーがいても可笑しくないな納得だ」
「皆さんこれからどうします。安全な所まで護衛してもいいですが」
「無線で仲間を呼んだのでそれを待ちます」
「そうですかそれなら付近のゾンビを移動させときます。ではまた縁があれば」
「「「「ありがとうございました」」」」
病院に報告に行かなきゃと思いながら、ゾンビを移動させていく。
目についたゾンビは移動させたので、病院に行く。
いつもの診察室に入る。
「こんにちは、先生、凄い発見をしました」
「ほう、どんな発見ですか?」
経緯を説明する。
「超能力ですか。とりあえずそのテレパシーを見せて貰えますか」
ゾンビを閉じ込めた檻の前に行き色々テレパシーの実験をする。
「本当に指示に従いますね。とりあえず今できる検査をしますか」
「なるべくできる事は協力しますが、解剖とかだったら勘弁して下さい」
「科学的に考えると何らかのエネルギーが朝靄君から出てゾンビが受信しているということを前提にしましょう」
「と言うと如何いう検査になるんでしょう?」
「病院の機材と人員で出来る検査だと電波、エックス線、音波あたりですか。」
備えつけの電話でどこかに先生が連絡をとる。
しばらくして目つきの鋭そうな男が入ってきた。
「先生、お呼びだそうで」
「ここにいる朝靄君から電波が出ていないか調べてほしい」
「盗聴器を発見する機材なんで、周波数によっては駄目ですが、よろしいですか」
「もし検査が空振りだった場合は。そうだな、もっと設備の良い研究機関に渡りをつけよう」
「では始めます」
指示にしたがって何度もゾンビにテレパシーをだす、そのたびにチャンネルをひねって調べている。
すると突然ピーガガガと仕事で聞いた事のある音が飛び込んで来る。
「これデジタル信号じゃないですか。なんで自分の体からデジタル信号が!」
「朝靄君、これはどうも医学の問題では無い気がする」
「ゾンビウィルスの正体は自己増殖型のナノマシンではないでしょうか」
「通りで培養してもウィルスが見つからないはずだ」
「先生、レントゲンなどで異常がないそうですが、だとすれば素材は体を構成する物質で出来ているということですか」
「バイオナノマシンと呼ぶべきだろうな。ゾンビはバイオアンドロイドか」
「じゃあ何で自分は意識があるんでしょうか」
「ゾンビ化した前後になにか不審に思わなかったか」
「そういえばブレイカーが落ちてました。ブレイカーが落ちる原因は電力の使いすぎか、ショート……」
「たぶん感電したんだろう」
「バイオナノマシンも電気信号でやりとりするということは……電気ショックによる誤動作」
「もうこうなると私の手には負えないな」
一旦考えを整理する為にアパートで一人になることにした。
バーサクモードから考えるにナノマシンを作ったのはどこかの国の軍事関連の企業か。
バーサクモードでない時とのチグハグな感じは、まだ試験段階だったのだろう。
生前の記憶があるのはナノマシンに生前の記憶を保存しておく機能があるのだろう。
捕虜にナノマシンを感染させた時や、味方の兵士にナノマシンを感染させた時に生前の記憶が必要な場合が考えられるからか。
脳を損傷すると死ぬのは一種の安全装置だろう。
他のゾンビに命令できるのは誤動作したときに管理者権限みたいな物を付与されたからか。
と言うことは命令して生前の記憶を取り戻させる。
もし駄目でも、簡単なプログラムをインストールすれば、ゾンビの生前の記憶が戻る可能性があるな。
実験のためゾンビを一人つれてきて、記憶を回復するよう命令するが駄目だった。
ナノマシン一つの記憶容量はサイズから考えるに小さいはずだ。
バーサクモードのデータ量から推測すると、どこからかプログラムがダウンロードされているはず。
試しにプログラム開発環境をダウンロードするよう念じると、しばらくするとダウンロード完了のチャイムが脳内に聞こえた。
脳内にプログラムツールを呼び出すように念じると、VRみたいにスクリーンがいくつも立ち上がる。
ヘルプを呼び出し色々な情報を調べた。
不眠不休でプログラムを組み、ゾンビにプログラムを転送する。
ゾンビがくずれるように昏倒した。
上手くいけば7日後ぐらいには目を覚ますはずだ。
昏倒したゾンビをアパートのベットに寝かせた。
***
きっちり7日後にゾンビは目を覚ました。
「ここはどこ!? 何があったの!? 家に帰して!」
「落ち着いて聞いて下さい。あなたはゾンビに襲われ、サイボーグというかアンドロイドみたいな存在になりました」
「そうよ、ゾンビに襲われた所までは覚えているわ」
「記憶を取り戻すプログラムにバーサクモード削除と感染機能オフと怪我修復プログラムを入れときました」
「ロボットになっちゃったって事?」
「そうですね。何か不都合な事があれば言って下さい。プログラムを組みます」
彼女を病院に連れて行き記憶を取り戻すのに成功したのを報告した。
一ヶ月経過を観察してもらう。
その間にプログラムをゾンビに供給している、たぶん人工衛星だろうにアップロードしようとした。
しかし、自分の権限では駄目らしい事が分かる。
他のゾンビの権限の変更も駄目みたいだ。
命令やプログラムのアップロードの電波を記録しておき再生して電波を発信しても無意味だった。
なぜなら、命令などの信号は秒毎に変わるパスワードがついており、一秒たつと信号は無意味になる。
とりあえずプログラムは問題無い様なので、地道に一体づつゾンビの記憶を取り戻していく。
大元をなんとかしないと思う。
という事で飛行機を飛ばせられるように選別して、ゾンビの記憶を取り戻していく。
原因であろう国はゾンビが最初に発生した国だろうと思いその国に飛行機で乗り込む。
政府関係者の記憶を幾人か取り戻し問題の企業をつきとめ研究所に行く。
研究員は全員がゾンビになっていた。
研究員の記憶を取り戻し、ゾンビ事件は解決に向かう事に。
その後、ゾンビはリバイブ人と呼ばれるようになり、人権も持てるように法律も改正された。
2150年、リバイブ人の多くは火星の開拓事業に従事している。
オタクゾンビ活躍する 喰寝丸太 @455834
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