死刑だけしかない街の治安最恐説

ちびまるフォイ

DEAD or MORE DEAD

この街では人口減少に伴って人がやってくる。


「あ、おい! まだ赤信号!」


制止もきかず一人の男がごく短い横断歩道を赤信号で渡ってしまった。

急いでいたのだろうが、それより早いスピードで執行人がとっ捕まえた。


「離しやがれ! こっちは急いでんだよ!」


「赤信号で渡ったな。道路交通法違反につき死刑に処する」

「えええ!?」


男はまもなく処刑された。

ここは死刑しかない街。


よく人はやってくるが越してきた数日で死ぬのが7割。

残り3割がこの街の住民として定着する。


「ほんと、ちゃんと調べてからくればいいのにな」


友達は呆れていた。


「ほんとだよね。何が犯罪になるのか調べてくれば死刑になることもないのに」


「ちげーよ。この街に死刑しかないことを知っていればって話だよ」


「ああ」


死刑しかない街は治安が異常に良い。

危険な犯罪が起きることがない。


家族連れや女性が多い街なので勘違いしてやってくる人も多い。


「でも悪い奴らは死刑にされて淘汰されていくから平和だよね」


「……まあな」


それから1年は犯罪がなかった。

テレビでも街のどこどこで花が咲いたとか平和なことばかり報道された。


最近では街に訪れる観光客や移住の人向けに案内もされているらしい。

この街はますます平和になるだろう。


そんなある日のことだった。


「……なあ、一緒に銀行強盗をしないか?」


友達から呼び出されて打ち明けられたのは綿密な強盗計画だった。


「おまっ……わかってるのか!? ここ死刑しかない街だぞ!?」


「バカ。わかってないのはお前の方だ。

 死刑しかない街だからいいんだよ」


「……どういうこと?」


「死刑におびえて誰も彼もがもう犯罪なんて起こさない。

 起こす気すらない……って思い込んでる。そのスキをつくのさ。

 平和ボケしているから強盗なんて簡単さ」


「うまくいくのか……?」


「このまま普通に生きて死ぬのと、

 一気に稼いで太く短く生きるのとどっちがいいんだ?

 リスクを背負わなきゃ成功は得られないぜ」


「……わかったよ。でも見つかったときは恨むからな」


「大丈夫だよ。とっておきの方法もある」


強盗計画は深夜に実行された。

なんの経験もないずぶの強盗素人がいきなり銀行を襲うというものでも、

友達の見立て通り簡単に進めることができた。


「こんなすんなり金庫まで行けるものなのか……」


「だろ。他の街じゃこうはいかない。

 死刑に安心してザル警備なんだよ。よし開けるぞ」


金庫を開けると大量の札束が目に飛び込んだ。

抱えていたバッグに詰めれるだけ突っ込んで銀行を出ようとした時。


ビー! ビー!


けたたましい警報が鳴ってしまった。


「そんな! 入るときはなんにも鳴らなかったのに!!」


「ちくしょう。きっと犯罪者を泳がせるために

 わざと警備をゆるくしていたんだ!」


「捕まえて死刑の見せしめにするために泳がせてたのか!?」


「いいから走れ!!」


必死に銀行から出て逃げようとしたが向かう先ではすでに包囲網が敷かれている。

もはや金など放り出して捕まらないようにしたがそれも限界に近づく。


「はぁっ……はぁっ……もうダメだ! 逃げられない……!」


「後ちょっとだ! もう少しでたどり着く!」


「たどり着くってどこに!?」

「隣町だよ!!」


「隣町なんて逃げてなにがあるんだ!」

「いいから走れ!!」


車に追い立てられながらまるで亡命でもするようにフェンスを超えて隣町へ。

隣町に逃げたところで待ち構えていた人たちにあえなく捕まった。


「おい! 何が隣町まで逃げればだよ! 捕まっちゃったじゃないか!」

「いやこれでいいんだ。隣町まで逃げれたからいいんだよ」

「はぁ?」

「この街の名前を見てみろ」


連行されながらも街の入口にある看板をなんとか見た。

そこには逃げてきた隣町同様に「死刑」と書かれていたがーー


『 死刑だけがない街 』


文字が目に入った瞬間、一気に死への恐怖が払拭された。


「やったな。隣町まで逃げたからにはここで裁かれる。

 つまり死刑には絶対にならないってことだ」


「これがお前の言っていた、とっておきの方法だったんだな」


思えば見つかってからの逃走ルートにも迷いがなかった。

最初からこの「死刑だけがない街」まで逃げる算段もあったんだろう。


「もう死ぬことはない!」

「ははは! ざまあみろ!」


二人が笑うと審判官がやってきた。



「お前らの処遇は……


 死なない程度に、生皮を剥いで熱した鉄の靴を履かせ

 飲みきれないほどの水を体内に送り込みながら

 お前らの家族や友人を殺すさまをずっと見せ続ける罰に処す」




俺と友達はすぐにフェンスを飛び越えて死刑の街へと戻った。


「「 いっそ殺してくれーー!! 」」

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