やりかえしはじめ

 まず最初にやってきたのは楝 柊斗だった。


「おはよう」


 と、特別明るくもなく特別暗くもない普通の声で私は言うと、


「おはよ!何何怒ってんの?大丈夫だよちゃんと話には乗るから」


 と、笑いながら言う……。


「えっ怒ってないよ……?」


「えっだって目がジトってしてる感じだからさ?」


「これは普通の目だよ……」


「あっごめんごめん」


 笑いながら手をヒラヒラさせて言う。


 にしても来るの早いな……


「なんでこんなに早いの?」


「いや、朝練あるかと思って行ったらなくてさ、顧問に『馬鹿だなーお前は』って笑われながら部室清掃手伝わされてた」


 と、ケラケラと笑う。なるほどドジなのか。


 ギャップ萌え…………いやいや何考えてんだか私は……でも萌え切れないのはやっぱりこいつがずっとヘラヘラ笑っているのが気に入らないからだっていうのはもう既に分かっている。


「そか……お疲れ様。」


 ほんの少しだけ笑ってみた。


「さんきゅ」


 全てのセリフの語尾に星マークついててもおかしくないなこいつ。



 それからしばらく経つと続々と女子も男子もやってきた。それから珍しく一人でおかしいなとでも言いたげな顔の奈津香が教室にやってきた。そして真っ先に楝くんの元へバタバタと走っていくと、


「おっはよぉしゅうとくん!」


 抱きつこうとしたのか奈津香の腕が空を掻く。


 流石運動部。俊敏な動きであの奈津香のハグを避けるとはなかなかやるなお主……とか心の中で言ってみる。見てて愉快だ。しかし奈津香が次に向かう人として選んだ人物が何とも不愉快だった。いじめっ子の考えそうな事だ。


 そう、私の方へ向かってきた。そしてこう言った。


「おはようゴミ屑、今日も惨めだね〜」


 無視


「……ってよく見たら私の机の上にお前へのプレゼント置いてあんじゃん。これやったのってお前?」


 あらまあ怒っていらっしゃる。けれども私はこいつが自分の手をいじめで汚すことが出来なくて仲間を募って一緒にやってるリーダー格でいなければならない潔癖症だと知っている。


 だから、当然私は無視している。


「ふーん……随分と余裕じゃん?」


 しばらく奈津香が考えた結果、


「ねぇーみんなー!こいつなんか今日は生意気じゃなーいー?」


 いつもならばここで取り巻きたちが笑いながら私を虐め、周りの人がそれを煽り、盛り上げる。筈だった。


 しかし今日はその取り巻き達は奈津香を無視し、


「ねぇねぇあのニュース見た?あの俳優がさ!」

「知ってる!やばいよねもう興奮止まんないわw」


 他のクラスメイトも何も反応せずに各々お喋りを続ける。


 流石に奈津香も勘づいた。


「な…何?なんでみんな無視するの?」


 面白くなって来たからやっぱり口を開く事にした。


「おはようぼっち!お前、私を虐めすぎたんだよ。これからはお前が私の立場だから、よ ろ し く」


 気づかないうちに口元が緩み、口角が上がっていた。

 見事なまでに綺麗な微笑みだった。



 朝日に照らされた教室はいつもより鮮やかで、明るい気がした。

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もしも、自分に殺されて、 桜川 音夢 @sakuragawa_nemu

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