1:傷跡
いじめられっ子の死
何故か痛みがない……
意識がある。
目を開けてみたがそこは真っ白な空間でも神の前でも悪魔に囲まれた地獄でもなんでもない、ただの誰もいない教室の教卓の前だった。
「えっなっ……死ねてない……どういうことだよ。さっき自分の首刺したはずじゃんなっ……なんで……意味わかんないし……死ねよぉ……私。」
気づけば目から温い水が伝ってきた。あの日にだけは戻りたくはない。
時間が気になり教卓の後ろ、黒板の上に引っ掛かっている時計を見る。
長い針が12に、短い針が7にいた。
もう七時なのか……
でも、相変わらず誰もいない。
いつの間にか寝てしまったのか……夢だったのだろうかと思い、顔を洗おうと御手洗に向かう。
ふと、鏡を見ると、首元に赤黒いてらてらした液体がべったり着いていた。きっとこれは血だろうと、不思議なほど冷静にそう思った。
しかし、なんでこんなに心に余裕があるのだろうか……今まではいじめられるのが日常であり恐怖だったために誰もいないところでも常に警戒し、おどおどしていた。そしてこう思った。
いじめられっ子だった私は死に、そうでない私に生き返ったのだ。
あぁ、復讐心で顔が思わず引き攣ってくる。イライラしてきた。もう絶対にカーストの一番下には行かない。むかつくあいつを最下層に引き摺り下ろして私が頂点に立ち、私がやられてきた事と同じくらいのことをあいつにやってやる。あいつに私の気持ちを分かってもらおうじゃないか。
「今までやられてた事全部そのままお前に返してやる
と、心の全てを出すために大声を出した。大声で叫んだ。
取り敢えず、生き返ったのだから不気味なこの血を洗い流そうと思い、顔と首元の血を洗い流した。すると、首の刺した場所に赤い傷痕がのこっていた。
「えっ……ここは残るんだ………」
敢えて傷跡の周りにこびりついた血を残しておく。そして制服のプリーツの溝にあるポケットからスマホを開き、
「今までの私が可哀想だと思うのならば、これからする私の事に協力しろ」
一秒もかからず既読が16も付く。そして驚いたクラスメイトの驚きと共感、動揺が、
「何!?どうしたどうした突然!?面白そうじゃんいいね協力する」
こいつは黒葛原が片思いしていた楝だ……きっとこういう男子は学校での生活を送る上で何が一番楽しむことができるかしか考えていないんだろう。好きな人に真っ先に裏切られるとは……少しはアイツに共感してあげなくもない。ちなみにアカウント名は『ö-ti』……意味分からん。但し、男子の中で一番影響力があり、更に私の一番最初の協力者なのであまり酷くは言わないでおこう。
「私は協力するよ。今までのはさすがに可哀想だったけど何にも言えずに共犯者してたし、ほんと今まで何もできなくてごめんね(T_T)」
この子はクラスの学級委員の
まあ、この二人がこんな感じであれば他のクラスメイトもノリと空気を読んで……
「ん?やり返しってやつ?復讐とか?wwいいぞいいぞ参加するw」
「まぁ、、ぶっちゃけなつかって調子乗ってたし、絡みウザイからキライだしいいね」
既読も増え、どんどん協力するというメッセージが来た。
そこで、みんなにこう言った。
「それじゃあ、まずはじめに私が最初にやられたのと同じように奈津香を無視して」
みんなは次々に「もちろん」と返事をしてくれた。
「……こんなにみんな協力してくれるとは思ってなかったな……嬉し」
普通に嬉しくなって、思わず笑顔になってしまい、嬉し涙がうっすらと下まぶたの淵に沿って零れた。
しばらくしてから教室に戻り、私の席へ向かうと机のわきに置いた赤いお守りとイチゴをイメージしているかのようなかわいいドレスを着たクマのキーホルダーがついた黒いリュックから薄いピンクの布製の筆箱を取り出すとそこからインクが大量に出るペン先の太い広告で貰った赤ペンを引っ張り出し、花瓶の下の手紙の裏に強く強くこう書いた。
『お前のお望み通り、いじめられていた弱い私は自殺した。
安心していいよ、ちゃんと生まれ変わってあげたから。
警察沙汰にならなくてよかったね。
後のことを考えないでいじめていた馬鹿へ
生まれ変わった私より』
一番廊下側の一番後ろのアイツの席へ、花瓶と私からの手紙を持っていく。
そしてその席に花瓶の中身を菊の花ごとぶちまけてびしょびしょにしてやった。
ただ、その状態じゃ手紙を置けないから、廊下から雑巾を持ってきて適当に置き、その上に手紙を開いて置いた。
さて、そろそろ奈津香やクラスメイトが着く時間になって来ているだろうと思う。
では、誰かが来るのを楽しみに待つとしようか。
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