短編ドラマシリーズ「激突!!キャバクラ派vs風俗派」

溶融太郎

西暦2025年、古来より因縁の対立を続けてきたキャバクラ派と風俗派が全面衝突した。互いの威信を掲げて譲らぬ愚かな彼らは、暴徒化し、内戦までに発展した。これを重くみた世界の政府は、4年に1度の大会方式で勝負を決める事を提案した。フォーメーション・バトルロイヤル・カップ。通称・Fカップ。今年は2度目のFカップが開催される。普段から店に通い、鍛錬を重ねる彼らの、熱い季節がやって来た。




「ガガガガガガ!!」

道路工事の音が鳴り響く。

「おーい!今日はこれでもう終いにしようやー!!」

飯田は、職長に声をかけられた。

「ですね。続きは明日にしましょうか!」

腕時計は、そろそろ17時だ。

「お前、今日もキャバクラに行くんだろ?ホント好きだよなー。」

職長は、少し呆れた様な言い方だ。

「もちろんですよ!その為に働いているんですから。」

飯田の汗と白い歯が眩しく光る。飯田には、入れ込んでる嬢がいた。指名ナンバー1の黒雪だ。黒雪はその名の通り、黒いドレスに身を包み妖艶な大人の淑やかさが男達を魅了する。飯田は家に帰って、シャワーを浴び、まともな男の感じを出す。

ネオンが光る夜の街は、飯田の心を高揚させた。

「いらっしゃいませ。」

一際輝く店の入り口を通り抜け、紅いソファーに案内された。

「黒雪で。」

いつもの様に、飯田はスカした感じで黒雪を指名する。

「いつもご指名ありがとうございます。」

漆黒のドレスに身を包んだ黒雪は、上品な香りを漂わせ、飯田の隣に座った。

「今年は、Fカップに参加されるんですよね。応援しています。」

黒雪は飯田がFカップに参加するのを知っていた。飯田がいつも熱く語るからだ。

「ああ、今年は俺がキャプテンだ。俺が時代を変えてやるぜ。黒雪、見ていてくれ。」

飯田は、真っ直ぐに黒雪を見つめた。Fカップのリーダー選考は、どれだけ店に通うかの本気度で推薦される。実は飯田は土木仕事の他に、内職をしていた。店に通い過ぎて生活も成り立たないからだ。だがもちろんそんな事は口にしない。カッコ悪いからだ。

「黒雪さん、ご指名です。」

黒雪が指名を受けた。当然だ。黒雪は指名ナンバー1の嬢だ。

「すぐに戻ってきますね・・・」

黒雪はそう言うと、華やいだ香りだけを残した。

「フッ・・・」

飯田は余裕で黒雪を見送る。飯田のソファーには、黒雪のバッグが置かれている。

このバッグは、黒雪が俺の事を信頼している証だ。飯田はそう確信する。今はまだ嬢と客の間だが黒雪よ待っていろ。迎えに来るぜ。Fカップの覇者としてな!

飯田の心は熱く煮えたぎる。

「あっ!お客さん!」

一人のボーイが飯田に気づいた。

「Fカップキャプテンの飯田さんですよね!?今年はお願いしますよ!」

ボーイは握手を求めて来る。まあ、握手位はしてやるか・・・

「皆!!キャプテンがおられるぞ!!」

ボーイの大声に嬢達は立ち上がって拍手する。

「頑張って!!」

「キャアーーー!!!」

これだからキャプテンは責任が重い。第1回のFカップは、風俗派に持っていかれた。その後、キャバクラの売り上げが低迷。Fカップは、夜の街までも動かす。そんな大会となっていた。

「飯田さん・・・」

黒雪が近づいて来た。。

「お願い・・・勝って・・・私達、今では偏見の目で見られるの・・・勝って・・・お願い・・・」

黒雪は、美しい瞳をキラキラと輝かせて、飯田の胸に寄り添った。可哀そうに・・・敗戦の嬢だと、世間から冷ややかな目で見られているのだろうか。

飯田は頷き、黒雪に背を向ける。

「3万円になります。」

しれっとボーイはそう言う。何しにここに来ているのか?ヤボな事は言うな。それが夜のルールだ。また明日もカップラーメンだ。飯田は、心を据えて大会の時を待った・・・・




「ドーン!!ドーン!!」

大会を知らせる弾幕が鳴り響く。

「さあー遂にこの時がやってまいりましたー!!実況は私、ブラハム。解説はダリクでお送りします。ダリクさん、とうとう開幕ですねー!」

「今年で2回目のFカップですよ!!いやあ!楽しみですねー!!」

「今年は前回の参加総数を遥かに上回る10万人規模ですから、大変な盛り上がりを見せています!ちなみに私はキャバクラ派ですけどねー!」

「私は風俗派ですよー!キャバクラ派は一体、何をしに店に行くんですかね?」

「いやいやいやいや!!!ダリクさん!!キャバクラは夢があるんですよ-!!」

「はあ!?夢!?現実を見ないと!!やることやればそれでいいんですよ!?」

「いやいや!!ダリクさん!!私達の個人的な揉め事は後にしましょう!!今年は、キャバクラ派、6万人、それに対し、風俗派、5万人の参加です。ややキャバクラ派が数で上回ってますね。今年はキャバクラ派が前回の雪辱を晴らすか?ここでルールを確認します。暴力行為は一切禁止。破壊行為もダメ。お互いの優れた部分を言い合う、清らかな試合です。会場はここ、東京歌舞伎町です。」

「いやー!続々と兵が集まってますねー!」

「おっ!ここでレフェリーの小谷さんの登場です!!歌舞伎町が湧いていますねー!!小谷さんは、Fカップの名誉レフェリーを受賞しました。的確な審判が評価されました。おっ!さあー両陣営、キャプテンの入場です!!!」

「いやあ!ワクワクするなあ!!」

「先ずは、風俗派、キャプテン!抜野 泡太郎です!!」

「ぬきの!ぬきの!ぬきの!ぬきの!」

「早くもぬきのコールが響きます!!夜空を彩る蒼きレーザー光線を背負い、抜野泡太郎、登場ー!!!」

「風俗派、今年もいただきだー!!」

「そして?キャバクラ派、キャプテン!飯田 玉三郎も出陣です。おおお!!これは?炎だ!!炎が吹きあがっている!その中心に仁王立ちする男!!飯田玉三郎、登場ー!!」

「盛り上がるなあ!!」

「会場が!!歌舞伎町が!!地鳴りを起こす様に、叫んでいる!!凄い熱気だー!!レフェリーが一旦、周りを落ち着かせる!!間もなく、試合開始です!!

ここで視点をカメラの方にお渡しします。皆さん、また後で!」




「いいか!?今年は絶対にキャバクラ派が勝つんだ!!絶対最後まであきらめるな!!」

キャバクラ派の陣営で飯田は皆に活を入れる。

「皆、覚悟はいいか!!」

飯田は1つ呼吸を吸い込んだ。

「いつも心に延長を!!!」

「いつも心に延長をー!!!オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

天を衝く様な轟音が陣営を揺るがす。レフェリーが両陣営の真ん中で構えた。

「先手、風俗派。」

レフェリーが静かに呟く。

「オホン!俺達風俗派はな、穴という穴、全てを堪能出来るんだ!!それがキャバクラに出来るか!?出来ないだろー!!」

風俗派が先制攻撃に出た。

「後手、キャバクラ派。」

「キャバクラではな、ホントにそのまま付き合う奴もいるんだぞ!?お前らも美女と付き合いたいんだろおー!?」

キャバクラ派も反撃に出る。

ブラハム「実況のブラハムです!!試合はもう始まっています!!ダリクさん!正に一進一退の攻防が続いてます!!」

ダリク「素晴らしい試合ですね!!これは見逃せませんよ!!」

風俗派「付き合えるのはごく一部だろ!!お前ら、元取れてんのか!?金を捨ててるだけだろ!!俺たちは若い子を抱きまくってるんだぜ!!」

キャバクラ派「ぐうう!!言わせておけば~!!はっ!!お前達!気をしっかり持つんだ!!」

ブラハム「おっーと!!今の発言は効いたー!!キャバクラ派、膝をつく者が続出ー!!」

ダリク「薄々そう思ってたんでしょうねー!!」

キャバクラ派「だがな!!お前ら風俗派は、一瞬だろ!一瞬で全てが終わるだろ!!不発の時もあるよな!?その時どんな気分だ!?」

風俗派「ぐはあ!!それを言われるとー!!」

キャバクラ派「しかもお前達!写真で騙された事が何回ある!?ハシゴして全て失敗だった事もあるよな!?」

風俗派「ギャアアアアア!!」

ブラハム「あー!!これはキツイー!!男性特有のトラウマを抉り取るー!!風俗派、バタバタと兵が倒れていくー!!」

ダリク「これは消耗戦となりましたねー!!」

キャバクラ派「友達のおかん位のを抱いたよな!?ガチのババアに体を許した事もあるよな!?それも高い金を支払ってだ!!何回同じ過ちを繰り返すんだ!!」

風俗派「だ、誰か!!誰かまだ戦える者はおるか!?このままでは・・・このままでは・・・」

「殿、報告します!現在、我等キャバクラ派の数、4万!風俗派、2万!戦況は優勢です!」

飯田は立ち上がった!!

「このまま一気に押し込め!!全員、捻り潰してやれ!!」

ブラハム「あー!!キャバクラ派、一気に勝負を決めにきたー!!風俗派、KOかー!?」

「待て!!!」

その時、新たな集団が現れた!!

「加勢するぞ!!風俗派!!!」

風俗派「お前達は・・・まさか・・・ヘルス派か!?まだ存在していたのか!?」

ヘルス派「ああ・・・俺達は、安心安価な低料金で、そこそこの快楽を得る集団だ。一括りにすれば、風俗派だな。我等、総勢3万、助太刀致す!!」

ブラハム「あー!!ヘルス派、乱入ー!!風俗派、5万に数が上がったー!!」

ダリク「今度は逆に風俗派が有利になりましたねー!!」

キャバクラ派「く・・・あと一歩の所を・・・これで風俗派が有利になった。この士気で押し込められたら・・・」

風俗派「よし!連合軍で一気に叩くぞ!!これで勝負はキマリだー!!」

「待て!!!」

また新たな集団が現れた!!

「加勢するぞ!!キャバクラ派!!」

キャバクラ派「お前達は・・・オッパブ派か!?本当にいたのか!?」

オッパブ派「ああ・・・俺達オッパイ星人は、オッパイを肴にうまい酒に酔いしれる・・・確かに俺達の数は少ないが、我等総勢1万!!微力ながら尽力いたす!!」

ブラハム「あー!!これで5万対5万になったー!!この勝負、長期戦となっている!!」

風俗派「ヌウ・・・これでは埒が明かんな・・・」

ブラハム「おっとここで?風俗派に動きがありました。これは・・・?一騎討ちだ!!風俗派、キャバクラ派に一騎討ちを叩きつけた!!」

ダリク「キャプテン対決になるのか!?」

ブラハム「キャバクラ派どうする!?承諾か?承諾したー!!大将戦、突入ー!!歌舞伎町が、いや、日本が、はたまた世界が、この一戦に釘付けになっている!!

互いの兵の真ん中に花道が出来る!!そこを通れるのは大将のみ!男の中の男と認められた2人の勇者のみ!!抜野 泡太郎vs.飯田 玉三郎の真剣勝負が始まる!!

・・・その背中には、勝利を信じて止まない互いの兵の想いを背負い、2人は何を思うのか!?何故、男という業を背負い、生きていくのか?生まれ出でては儚く消える男達の夢。罪深き野獣に歓喜を!!栄光を!!今、両雄の刃が交錯する距離に入った!!レフェリーがさらに両者を引き寄せる!!注目の大将戦です!!」

抜野「まさか・・・ここまで食い下がるとはな・・・」

飯田「お互い、行くところまで行ったという所だな・・・」

レフェリー「位置について・・・ヨーイ・・・プレイ!!!」

抜野「俺達は、たまにビックリする位の可愛い子に当たるんだぜ!?ギンギラギンにカチンコチンだぜ!?」

飯田「でも大半、愛想ないよな!?むこうからしたら、ただの運動だよな!?こっちは行けば行くほど次に繋がるんだぜ!?最高のスマイルが欲しいよな!?」

抜野「だから!!スマイルじゃ元取れないんだよ!抱いた数=男の価値だ!」

飯田「違うだろ!最高の女=一本勝負だ!」

抜野「お前らは客っつーか、ただの、金だー!!」

飯田「グハアアア!!」

ブラハム「効いたー!!キャバクラ派キャプテン、飯田が膝をついたー!!立てるか?これで終わってしまうのか!?・・・いや、立ち上がる!震える膝を押さえつけ、飯田、仁王立ちー!!!しかし、押せば倒れそうだ!万事休すかー!?」

飯田「ウガアアアアア!!!俺は・・・俺は!!黒雪を心から、愛しているんだー!!!」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・パチ・・・・パチ・・・・」

「パチパチ・・・パチパチパチパチ!!」

ブラハム「これは!?歌舞伎町が拍手に包まれている!?拍手がドンドン大きくなっているぞ!?」

「パチパチパチパチ!!!ワアアアァァァァァァ!!!」

ブラハム「凄まじい拍手喝采だー!!飯田の心の叫びが民衆を動かしたのか!?あー!!!ここでレフェリーが右手を挙げたー!!!キャバクラ派、逆転勝ちー!!キャバクラ派も風俗派も、一緒になって拍手を上げている!!何と美しい光景か!?」

ダリク「私・・・もう、涙が止まりませんよ・・・」

抜野「フッ・・・全く・・・熱い男だぜ・・・今回は負けを認めるが、次回はこうはいかないぜ。」

飯田「お前・・・フン・・・また、いい試合をしよう。」

ブラハム「おっーと!両雄、固い握手を交わすー!!まさに!!男の中の男同士、素晴らしいライバルです。いや、今世紀の記憶に残る名勝負でしたね!」

ダリク「これから風俗派は、目の色を変えて修行に打ち込むでしょうねー!ほっとする暇もありませんよー。」

ブラハム「ホントそうですね!またその時が来るのが楽しみですね!ではダリクさん、今日はありがとうございました。」

ダリク「ありがとうございました。」

ブラハム「では皆さん!また4年後にお会いしましょう!さようなら!!」




「バンザーイ!!バンザーイ!!」

キャバクラ派陣営が、大いに湧いた。踊る者、あるいは泣く者。飯田は、静かにその光景を眺めていた。

「キャプテン!!キャプテン!!」

皆が飯田を讃える。しかし、もう試合は終わったのだ。歓喜の会場を飯田は隠れる様にすり抜け、後にした。今日は、月が綺麗な夜だ。眠らない街、歌舞伎町。賑やかな夜の街並が、時間を止める。飯田は腕時計に目をやった。時刻はもう午後11時55分だ。もうすぐ、日付が変わる。その時、飯田の目は、ある人物を捉えた。

「あれは・・・黒雪!?」

そこにいたのは、黒雪だった。少し遠くにいる黒雪は、プライベートなのだろう、いつもと違う私服姿だ。飯田は速足になった。今日の勝利を、黒雪に伝えたい。

この気持ちと共に。真っすぐな愛を伝えよう。だが、その時、飯田はある事に気がついた。1人の男と2人の子供が、黒雪の側にいる。

「かーちゃーん!!ラーメン美味しかったよー!また行こうよー。」

飯田の耳に、確かにそう聞こえた。・・・まさか・・・まさか・・・そう、黒雪は、とっくに主婦だった!

「ゲーップ!!ガハハ!!ニンニクラーメン喰って、口くせーわ!」

黒雪がそう言う。そんな・・・黒雪のイメージと全然違う・・・日付が変わった。

と、いうことで、俺は、昨日、失恋した。めでたしめでたし。

                                                                    終

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