第0章
まだ、吐く息も白い。高校入試の合格発表、心做しか空が私の心情を表しているかのような気がした。私が受験した高校、西浜高校は偏差値も倍率もなかなかに高い。不安だったが、自信が無いという訳ではない。ただただ、心ここに在らず…そういったところだろうか。アスファルトの道を歩きながら、今までのことを思い出していた。
昔は皆から好かれる明るい子だったはずなのに、今では常に度のないメガネをつけ、これと言って特徴のない私を演じているような、不思議な感覚。特別になりたくないから、空気のような存在でいたいなんて、いつから考えるようになったのだろうか。そんな自分のことが嫌いでたまらない。疑わない性格のせいでたくさん傷付いてきた。良い子からいつも間にか「都合の」良い子になって、利用されるだけされたら捨てられる、そんな人間関係だった。病んでる、両親にそう言われたことがあって、少しずつ距離を感じるようになった。安心させるために重ねた嘘は私をワタシに変えてしまったのかも知れないなぁ、そう思った。どんなときも、誰かと比較され、いつしか自分でも他人と比較しては自分の立場を理解するようになる。本当の私、そのままを見てくれる人がいつか現れるのだろうか。心のどこかで期待しながら、正直諦めていた。だから、どこに行っても同じで何も変わらない。期待をするから、裏切られるんだ。
すれ違う人、皆がライバル。そう思いつつボードの前に立った。目の前に見えた近い未来に脚が震える。私を含め、両隣のうちの1人が落ちる。9時になる1分前、深く深く息を吸って吐く。時計の秒針を見つめる。
3、2、1。
目を閉じて、1度息を吐いた。恐る恐る、目を開ける。たくさんの数字の中、私の番号を探す。焦ってはいけないと分かっているのに、気持ちが先走ってしまう。周りから様々な声が上がる中、私はついに見つけた。
これでやっとスタートライン。
大きく息を吐いて、その場を離れた。
世界一嫌いな貴方に贈る、最初で最後のラブレター 紗夜 @sayo-tachibana
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