say cheese
樹はその後、毎日サボらずに行っていた学校を休むようになり、代わりに僕と街を散策したり、少し遠くへ出かけたりした。急に休みだした理由を訊くと、「どうせ簡単な授業だったんだし、それなら外に行ったほうが得るものは大きい」と返された。やはりそうなのかと少しばかり呆れたが、口には出さないでおいた。両親は急に学校を休み始めた樹を心配し、しかしそれも、彼が説明すると納得して許してくれた。「もともと写真を撮れるようになるために来たわけだし、あなたがそうしたいならそうした方がいいわ」だそうだ。
外出時は二人ともカメラを持って行ったが、両方とも使われることはなかった。樹は、何度もカメラを構えてはしばらく静止して、景色と向き合って、最後は諦めて、という動作を繰り返していた。その調子で最後までシャッターを切ることはなく、一方の僕はそもそもカメラを取り出すこともせずに、そうして苦戦する彼を眺めていた。彼は構える際に毎度のように息を止めるので、諦めるときに吐き出すため息のような呼吸音も、もう聴き慣れてしまった。それでも、前のように気まずくなることはなかった。撮り損なって一息ついた彼は、振り返ったときにはもう立ち直ってその日の昼食の話などをしてくる。僕もそれに戸惑うことなく応じるので、何も起こらず時間は過ぎた。
そんな風にあちこちを巡っているとあっという間に時が経ち、合計で三週間半ほどの留学は、彼が八月の下旬に日本に帰ることで終わりを迎えた。結局樹はスランプから抜け出すことはできず、しかし来たときよりは穏やかな表情をしていたのでそれで十分だろう。
彼が帰ってから僕は写真の現像を頼みに専門の店を探した。もちろん僕の住む街にそんな
いつか、彼は乗り越えるだろう。なんでもないような顔をして、軽い冗談でも言うように、「撮れるようになった」と告げるのだ。僕はそのときがきたら同じように冗談で返し、この写真を見せてやろう。皮肉屋で捉えどころがなくて、でも誠実で、一生懸命な僕の友人に。
いつか、あの灰色のむこうで 朔 @Wasurenagusa_iro
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